第155話 神樹の森の温泉へ






 窓の外には木々の枝が映り、遠くの桟橋では子供が楽しそうに行き交うのが見える。

 ここは神樹の森の別荘。

 俺は神樹の森に遊びに来ていた。


 爽やかな風が木々の枝を揺らし、木漏れ日がキラキラと辺りを照らした。

 森の木々は、日差しを程よく遮る緑のカーテンを広げている。

 窓際にいるルンが、窓の外を見る俺の姿を反射して映す。


「それで、アルカ。ゼフィちゃんが作らせた温泉はどうなんだ?」


「はい、あなた様。あちらの森の温泉に勝るとも劣るとも言えない出来でございます」


「それじゃ、俺も入って来ようかな」


「私が案内します」


 アルカの案内で木を降りていき、温泉へ。

 お風呂セットも忘れずにね。

 まだ日も高いうちから入る温泉は最高なんだぜ。


 大きな脱衣所があり、そこに入って着ている服を脱ぐ。

 ガラガラと戸を開ければ洗い場が広がる。

 ルンもコロコロとついてきた。


 ザパッ

 かけ湯をして体を洗っていく。

 こちらでもソープナッツが活躍だ。


 ガラガラ

 ん? 誰か来たのか? と入り口に目をやれば湯浴み着のような物を着たアルカだった。

 若干アルカも気恥ずかしいのか頬が赤い。


 おおう!?

 俺は困惑気にアルカを見る。


「ど、どうしたんだ? アルカ」


「あなた様、お背中お流しします」


「あ、ああ」


 俺は肯定とも否定とも取れないような返事をすると、アルカはスルスルと俺の後ろに回って背中を洗ってくれる。

 なんだか俺も少し恥ずかしい。


「どこか足りない所はございませんか?」


「い、いや、大丈夫。ありがとう」


 スタッ

 何か巨大な物の気配を感じて振り向くと神獣だった。

 温泉の周りの高い塀を飛び越えて降り立つ神獣。

 高い位置から俺たちが体を洗うのを見つめる。


「あら、神獣様。神獣様もお入りになるのかしら?」


「ウォフッ」


 どうやら神獣も入るようだ。

 アルカが神獣の大きな体を洗っていく。

 体の大きい神獣を洗うのは一仕事だ。

 その隙に俺は前を自分で洗った。


 いや、さすがにね。

 それになんだか湯浴み着を着たアルカが色っぽい。

 俺は深呼吸をしてやり過ごす。


 ルンが体当たりをしてくる。

 はいはい、いつものやつな。

 俺は泡立てた泡をルンにかけてやる。

 そして両脇からこう、だ!


 キュッ ニュルン ポンッ

 しばらくルンの遊びに付き合った後、湯を流して湯船へと入った。

 透き通った湯を覗くと、伸ばした足と平凡な男の顔を映した。


 ザパーーーーーーーーッ

 神獣も湯船に入ってくる。

 波の余波で体が揺れた。

 ここの湯船は広いから神獣が入っても余裕だな。


「あなた様、こちらの湯も捨てがたいでしょう?」


 アルカが湯をすくい、自分の肩口にかけた。

 って、アルカも入るんかい。


「あ、ああ。うちの温泉はにごり湯だからな。こっちのは透き通っている」


 俺はドギマギしつつ青く透き通った湯をすくいながら答える。

 透き通った湯は、アルカのスラリと伸ばされた足を揺らしながら映す。


「ウォ……フ」


 神獣が気持ちよさそうに目を細めた。

 ルンもプカプカと浮かんでいる。

 俺も目を閉じ、手を湯船の底につけて足を伸ばした。

 ああ、気持ちいいな。


 森の木々の濃厚な匂いに温泉独特の匂いが混ざる。

 湯温も熱すぎず、ぬるすぎず丁度いい。

 お湯はどちらかと言うとさらりとしている。


 ふと、ここの泉質はどうなのかな? と思い、鑑定してみた。


 ~~~~~

 ミスリル塩化物泉

 浸かると体力、魔力を回復する、その他の効能も有り

 ~~~~~


 おお、なんか良さげな泉質だぞ。

 アルカをちらりと見ると、アルカも目をつぶって気持ち良さそうにしている。

 こりゃゼフィちゃんもたいそう喜んだろうな。

 フンスフンスと鼻息荒く息巻いていたっけ。


「そういや、アルカって王族なのか?」


 俺は前々から疑問に思っていた事を聞く。


「いえ、あなた様。親戚ではありますけど。母が所謂いわゆる庶子なのです」


 聞いた話だとアルカの母が前王の庶子で、ゼフィちゃんが遅くに生まれた子だという。

 ゼフィちゃんはアルカより年下だが、叔母ということになっているようだ。

 世が世なら、というやつだろうか?

 とは言え、アルカに女王を目指す気なんて全く無いだろうけどな。


「巫女の方はどうだ? しばらく留守にしていたろう?」


 ゼフィちゃんもだが、アルカは俺たちの冒険に仕事の合間を縫って付き合ってくれていたのだ。


「次代が育ってきておりますので滞りなく。私もそろそろお役御免かと」


 肩に湯をかけながらアルカが言う。


「その際には私もあちらの森に住んでも良いでしょうか?」


 アルカが透き通った目で見つめてくる。

 俺はきちんと向き直り答える。


「ああ、アルカならいつでも歓迎だよ」



 温泉から上がり、身を整える。

 脱衣所で神獣に送風の魔法をかけているとアルカも着替えてやってきた。


「あなた様、ありがとうございます」


「おう、体が大きいと結構大変だなこれ」


「ウォフ」


 神獣がペロペロと俺の頬を舐める。

 ははっ。洗ったばかりだっての。


「アルカは今日はどうするんだ?」


「お邪魔でなければ、そちらに伺ってもいいですか?」


「邪魔な訳無いじゃないか」


 俺はそう言うとアルカの手を取り、転移で戻るべく地下へと向かうのだった。






――――――――――――


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