第154話 フォースター家へ②






「む、いたのか。兄上」


「ミーたん! いたのかとは酷いじゃないか!」


 ガーンとギースが落ち込む。

 並んで見るとなるほど、髪の色や目の色が同じで所々似ている。

 ギースは猫耳じゃなくて普通の耳だけどな。


「コウヘイ、ウチの兄が何か粗相をしていなかっただろうか?」


「いや、大丈夫だぞ? いいお兄さんじゃないか」


 俺がミーシャに答える。

 それにしても、ミーシャのドレス姿と言ったら……。

 ドレスがミーシャの鮮やかな赤い髪によく似合っている。


 俺は思わず見蕩みとれる。


 俺が贈った銀細工の髪飾りに、疾風の指輪の石たちがミーシャの碧眼と相まって映えている。

 ちゃんと着けていてくれてるんだな。

 ……キレイだ。いつぞやの公爵邸でもつい見てしまったっけ。


「……コウヘイ。そうジロジロとあまり見ないで欲しい」


 ミーシャが頬を染めて照れたように言う。

 ミーシャはいつもの冒険者装備とは違って、より女性らしく見える。


「……ゴホンっ。それで、ミーたんとコウヘイはどういう関係なのかな?」


 ギースが咳払いをしながら俺たちのことを尋ねた。


「うむ。今ミーシャが住んでいるところの家主だな」


 キリッとした面持ちでミーシャが言う。


「家主? ミーたんは今何処に住んでいるんだい?」


「うむ。マットの開拓村のさらに奥の森になる」


「なんだって!? ミーたんはそんな田舎に住んでいて何ともないのかい? マットの開拓村も随分と奥のほうじゃないか」


「む? いや、ゆっくり出来て意外と心地が良いのだ。あの森は。それに温泉もあるし」


 拠点の周りには相変わらず動物なんかが寄って来ないからなぁ。

 俺はいつの間にか頭の上に戻って来ていたルンを撫でた。



 夕方になり、ミーシャの親父さんが帰ってくる。

 挨拶は食事の場で、ということになり、俺は客間へと案内された。


 客間でルンを撫で撫でしながら待つことしばし、夕食の前に身を清めるべし、という事で風呂に案内された。

 サウナのような風呂だ。

 王都の公爵邸でも入ったっけ。


 ルンが体を上に伸ばしたかと思うと首を傾げるように傾ける。

 ははっ。いつもの風呂と違うからな。

 前にも一緒に公爵邸で入ったろ?


 蒸気の立ち込める部屋で、何かの植物を束ねたもので体を拭い身を清める。

 サウナには先客でギースがいた。


「コウヘイ。使い方は分かるか?」


「ええ、まぁ。ウチの拠点にも風呂はありますので」


「そうだったな」


 ギースはニヤリと笑うと先に風呂を上がっていった。



 風呂から出た俺はスーツのようなものを着せられた。

 鏡の前で確認したが、相変わらず着られている。

 俺は苦笑しつつ、気にしないことにした。


 屋敷のメイドさんに食堂に案内される。

 そこそこ広い食堂の長テーブルでミーシャの隣に座った。

 対面にはギースさん、お誕生日席に親父さんだ。


「今日はギースとミーシャが戻り、久しぶりに賑やかだな。客人もゆるりと過ごされよ」


 親父さんがニコニコとしながら言う。

 創造神と眷属の神々へ食事への感謝の祈りを捧げ食事が始まる。


「お客人、ここの家長のキースだ。食事の方はどうかな?」


「はい、耕平と申します。美味しく頂いております」


 俺は並べられた料理をナイフとフォークで頂く。

 うん。さすがだな。

 森での料理はなかなかここまで手の込んだのは作れないぞ。


 別のテーブルではこの家のメイドさんがルンに食事を与えている。

 小声でキャイキャイと楽しそうだ。


「して、ミーシャ。クラスラントのご令息とは会ったのだろう? どうだ? 彼は」


「父上。彼とは何もありません。もう済んだ話です」


 親父さんが片眉を上げながらミーシャの話を聞く。


「初対面のこちらのコウヘイに、決闘なぞを申し込むような男です。貴族としてもあり得ないでしょう」


「決闘とは穏やかじゃないな。あちらがしばらく大人しいと思ったらそういう事か」


 親父さんがふむう、と腕を組む。

 次期男爵の彼なぁ。オルガだっけ?


「そうなのですよ、父上。コウヘイが勝ったので事なきを得ました」


 ミーシャがフンス、と鼻息も荒く言う。


「クラスラントの令息に勝つとはやるじゃないか! 平凡な見た目なのに中々やるんだな、コウヘイは」


 ミーシャの兄のギースが意外そうな顔をして言った。


「はぁ、まぁ」


 俺は何とも言えず苦笑いだ。

 正直、彼のことなんてスッパリ忘れていたんだぜ。



 食事も滞りなく終わり、食後のお茶の時間だ。


「それで挙式はいつ頃なのだ?」


 ブホッ! ゲフンゲフン。

 俺は親父さんのブッコミに思わずむせる。


「なっ! 父上!」


 ミーシャの顔が真っ赤だ。

 ギースは物珍しそうに俺たちを眺めている。


「いや、なに。こういうのは早い方が良いと思ってな」


 しれっと何のことはないように言う親父さん。

 いや、だが結婚かぁ。

 どうなんだろう。想像もつかない。


「ミーたんが連れてきた男だ。間違いないだろう」


 うんうんと頷くギース。

 ミーシャの顔は赤いままだ。少しうつむいている。


「まぁ今すぐどうの、と言う話ではないのは分かった。私にも予定というものがあるからな、聞いておきたかったのだ」


 親父さんがそう言いながらお茶に口をつける。


「今日はもう遅い。皆、泊まっていきなさい」


 そうして顔合わせを終えた俺たちはミーシャの実家に泊まっていったのだった。






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