眠り姫

第153話 フォースター家へ①






 爽やかな実りの季節を迎えた初秋のこの頃。

 俺は、俺たちはスティンガーの町にやって来ていた。


「たまにはこうして二人で出かけるのも悪くないな」


「うむ。いつぞやの王都以来か?」


 ミョンミョン

 自分もいるぞ、とルンが俺の頭の上で上下に伸びて主張した。


 頭にルンを乗せた俺とミーシャが雑多な市の通りを歩く。

 前にミーシャに案内してもらった時ははぐれないように気をつけて歩いたっけ。


 通りで広げてある商品をミーシャと二人、物色して歩く。

 お? あれなんかミーシャにどうだ?

 俺は銀細工を広げている店の前に行く。


 薄い銀の意匠で碧い石が特徴の髪飾りだ。

 普段ミーシャは飾り物をつけないからな。

 冒険者のこだわりかも知れないが、平時の今なら良いだろう。


「ミーシャ! ちょっと来てくれ」


「む? どうしたコウヘイ」


「コレを着けて見せてくれないか?」


 俺は並べられている銀細工の中から件の物をつまむとミーシャに見せた。


「む。髪飾り、か」


「嫌だったか?」


 俺がミーシャに問いかける。


「いや、ミーシャには似合わないと思ったのでな……」


 ミーシャに似合わない? そんなことは全く無いだろう。


「そうか? 似合いそうだと思ったんだけどな。嫌ならしょうがない……」


 俺はつまんだ銀細工を元の場所に戻す、と。


「いや、嫌ではないのだ。コウヘイがそこまで言うならつけてみよう」


 ミーシャの伸ばした手が俺の手に触れる。

 若干慌てながらミーシャが髪飾りを頭に着けた。


「おかしくないか?」


 頬を染めたミーシャが尋ねてくる。


「……よく似合っているよ。石の色もちょうどミーシャの目の色にそっくりだし」


 俺は一瞬見蕩みとれてしまった。


「店主! これはいくらだい?」


 俺はまだ若い店主に慌てているのをごまかすように聞いた。


「大銀貨一枚ですよ。お兄サン」


 俺は懐から巾着袋を取り出し、大銀貨を支払った。


「はい、まいど。お似合いですね」


 俺たちは銀細工の店を後にする。


「コウヘイ。良かったのか? ミーシャにこのようなものを……」


「うん? 似合っているんだから良いじゃないか!」


 俺は内心の気恥ずかしさを悟らせないように身振り手振りが大きくなる。


「ありがとう、コウヘイ」


 ミーシャがはにかむように笑った。



 スティンガーの街の貴族街、そこで比較的大きな家までやって来た。

 勝手知ったるなんとやらで、ミーシャはズンズンと進んでいく。

 門も顔パスだ。


 それもそうだ。なんせミーシャの実家だからな。


「おお、お嬢様。お戻りですか?」


「うむ。父上は?」


 俺たちは玄関でこの屋敷の執事に迎えられる。


「はい。いつものように夕方にはお戻りになるかと」


「こちらはコウヘイだ。今はミーシャの家主だな」


「コウヘイさんですか。私はこの屋敷で執事をしておりますスミスと申します。よしなに」


 執事のスミスさんが優雅なお辞儀をする。


「これはどうも、コウヘイです」


 俺もペコリとお辞儀を返した。


「して、お嬢様。今はギース様がお戻りになっています」


「何? 兄上が? 珍しいな」


「はい、宿直明けの休暇だそうです」


「そうか」


 ミーシャが少し難しい顔をしていた。


「ミーシャにはお兄さんがいるのか?」


「うむ。兄上は普段、騎士をしている。今日はたまたま実家に帰って来ているみたいだな」


 俺の疑問にミーシャが答える。


「では、ミーシャは着替えてくる。スミス、コウヘイを頼む」


「はい、お嬢様」


 ミーシャは自分の部屋へと行き、俺は応接間に通された。


「こちらでお待ち下さい」


 スミスさんにソファに案内されて、俺は腰をかける。

 メイドがカチャカチャとワゴンを押してきて、お茶と茶菓子が準備された。


 ルンが俺の頭の上からテーブルに降りて茶菓子の前でミョンミョンしている。


「ははっ。ちょっと待ってな」


 俺は茶菓子をナイフで切り分けてルンに分け与える。

 お茶を一口、ルンが茶菓子をシュワシュワと溶かしていくのを見ながら飲んだ。


 ガチャリ

 誰かが応接間に入ってきた。

 赤い髪に碧眼の男だ。


「む。貴様がミーたんの連れてきた男か! なんていうか……平凡だな!」


 その男の物言いに俺は苦笑する。


「えっと、ミーシャのお兄さんのギースさんですか? 俺は耕平と申します」


 俺は席を立ち、胸に手を当てて軽く上体を前に倒した。

 執事の人がこんな感じで挨拶してたよな、たしか。


「うむ。ギース=フォースターだ。騎士をしている」


 ギースは胸を握りこぶしでトントンと二回叩いた。

 騎士の挨拶だろうか?


 ギースは対面のソファに腰を落ち着ける。


「コウヘイはテイマーなのか?」


 ギースがテーブルの上のルンを見て言う。


「え? いやぁ、自分でもよくわからないんですよね。あと家にグリフォンと龍の幼体がいますが……」


「グリフォンと龍! テイマーでもなかなかいないぞ! それにこのスライムも見たことがない色だ」


 ギースはアゴに手をやり、ふんふんとルンを眺めている。

 すると、ルンがギースの膝の上に飛び乗った。


「うおっ」


 ギースが驚く。


「ルンと言います。撫でてやって下さい」


「うむ。……これは。……これはクセになるな」


 ギースが膝の上でルンをモミモミ。

 そうでしょうとも。

 俺はニヤリ、と笑うのであった。






――――――――――――


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