第150話 ナイトメアブロブ






『ははっ。それがおまえの答えか?』


 俺の姿をした幻影が馬鹿にしたように笑う。


―うるせえよ。

 だってそうだろうが!

 こんな何も持たない平凡な男に好意を寄せてくれるなんてあり得ない・・・・・

 理由があるとしたら元の世界のお地蔵様からもらったこの能力か?

 これだって俺自身の力じゃないじゃないか。


『ありのままの僕ちゃんを見てくだちゃいーってか? ハンッ! 笑わせる!』


 幻影が悪態をつく。


―しょうがねえだろうが。


 俺は、俺はそう育って来たんだから。

 両親、姉妹は美男美女。

 そんな中、平凡な顔で生まれてみろ!

 みにくいアヒルの子じゃねえんだよ。


 学校でだってそうだ。

 美人の姉妹に比べられ、陰口を叩かれる始末。

 そりゃこうなる・・・・


『かーっ。いじけてやんの。お前そんなんでこの先大丈夫なのかよ』


―大きなお世話だよ。

 どうせ俺には平凡な人生がお似合いさ。

 平凡に生きて、平凡な結婚をして、平凡に死ぬ。

 そんな人生だろうさ。


『へえ。結婚できる気でいるんだ? なんでもない男なのに?』


―知らねえよ、先のことなんか。


『じゃあまだ何も決まっていないじゃないか。君が何者かになれる事だって』


―そうか? そうかも知れない。


『そうさ! 君だって望んで平凡な男をやっている訳じゃないんだろう?』


―君って。お前も俺だろうが。

 だが、たしかにこの異世界に来て俺は変わったのかも知れない。

 元の世界でも俺の周りには人がたくさんいたが、何故か美男美女ばかりだったっけ。


 あいつらも元気でやっているのだろうか?

 ろくに別れも言えずにこちらの世界に放り出されたけど、俺はまぁ元気だ。


『それにあの新しい子のキキって子もどうするんだい?』


―どうって言ったってなぁ……。

 正直、俺の手には余りそうだ。


 ただでさえ今の時点でたくさんの少女に囲まれている。

 このうえ一人増えようが大した違いは無いのかもしれない、が。

 それはあまりに不義理だろう。


『「一人一人と向き合わないと」』


 俺と俺の幻影の意見が一致する。


『「後悔のないように」』


 脳裏に小鳥遊たかなしの泣き顔が浮かぶ。

―いつまで曖昧な態度を取っているんだよ! 俺!


(じゃあ、その平凡なヤツを特別に想う人が居たらどうします~?)


 小鳥遊たかなし……俺を好きでいてくれてありがとう。

 俺も、俺もお前の事は好きだった。


(もし私が好きだって言ったら付き合ってくれますか?)


「嫌なわけ……ねえだろ」


 俺は今はもう届かない想いを誰とはなしに伝える。


―父さん、母さん、俺を生んでくれてありがとう。

 陽姫あきねえ、陽愛ひめ元気でやっているか?

 学校のみんなも俺が急に学校に来なくなって心配していただろうか?


 俺は、この異世界で生きていくよ。

 元の世界のみんな……さようなら。


 俺はいつの間にか泣いていた。

 もう会うことはできない人たちのことを思って。


 学校のみんな、陽姫あきねえ、陽愛ひめ、父さん母さん、それに……

 小鳥遊たかなし


 馬鹿だな、俺は。

 こんな遠くまで来ちゃって、もう誰にも想いを伝える事ができない。


 今頃後悔したってもう遅い。

 今度はちゃんと相手に伝えなきゃ。

 伝えたい時にその相手がいるとは限らないのだから。




 しばらく闇の中を進むと小さな明かりが見えた。

 俺はその明かりを目指して歩く。


 明かりはだんだんと大きくなっていき……

 俺は白い世界に飲み込まれた。




「はっ!?」


「シッ」


 ザン! ザシュ!

 ミーシャの連撃が何かの肉塊に決まる!


「婿殿、戻ったか!」


「あなた様、ご無事で何よりです」


「ボクのハンマーがあまり効いていないよ!?」


「マスター、まずはあの塊を倒しましょう」


 俺はティファに言われるがまま、目を向ける。


 ~~~~~

 ナイトメアブロブ

 タフな肉塊

 ~~~~~


 階層ボスか!

 俺は自分のいる場所を思い出した。

 地面に手をつき、ヤツを大地の力で重力の枷に封じ込める!


「さすがです、マスター」


 ヒュガッ ッズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 ティファが氷の魔術を展開し、巨大なドリルのような物を射出する。


「そいや。ロケットパンチ!」


 バシュッ ドンッ ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 クーデリアの伸ばした腕からアームギアが放たれる!

 ティファの氷のドリルの後端を叩きつける!


 ズドオオオン! ズガアアアン!

 アインとツヴァイも氷のドリルの後端を叩く!


「ふっ!」


 ヒュッ カカカカカカカカカカカカッ!

 アルカの魔力矢が分裂してナイトメアブロブに刺さる!


「っおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ガーベラが竜化する。

 ガーベラは祈りを捧げるように両手を握り込むとその両手を前に突き出した!


「ドラゴニック・ロア!」


 ガーベラの手から魔力砲が放たれる。

 まるで竜のブレスのようだ。

 見た目はかめ○め波だな。

 ザッとアインとツヴァイが引き、ロケットパンチもクーデリアの腕へと戻る。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 ガーベラの放った魔力砲がナイトメアブロブの肉を突き破っていく。


「っおおっ!!!」


 ミーシャが叫ぶ。

 ミーシャの手足が毛に覆われていき、目の瞳孔が猫のように開く。

 牙も生えてきた。


 これが獣化ってヤツか!?

 獣人の中でも限られた人しかできない、とミーシャが言っていた。

 血の薄いミーシャにはできないだろう、とも。


「シッ!」


 ズダンッ!

 半ば獣のような外観をしたミーシャが残像を残しながら前方に跳んだ!


 皆の連携により肉塊に穴が開き、中心のコアが露出している。

 コア目掛けてミーシャの渾身の突きが放たれた。


 キキキキキキキキキキキキキ…… キンッ


 不可視のバリアを突き抜け、ミーシャの突きがコアに入ると肉塊のナイトメアブロブはドロップアイテムに変わっていくのだった。






――――――――――――


 拙作を手に取って頂き誠にありがとうございます。



 もし面白いと思った方は評価やフォロー、応援をして下さると作者のモチベーションが上がります。



 面白いと思った方は評価を☆三つ、詰まらないと思った方は☆を一つでかまわないので付けてくださると参考になります。



 よろしくお願い致します。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る