第130話 ガーベラ=ドラクロニアス






「ほぅ」


 湯船に浸かりながらため息をつく。

 我が国にも火山の麓にはあると聞く温泉。

 その温泉にこうしてゆっくりと入る機会がやって来るとは。


 湯船には形の良い大きな胸が二つ浮かび、滑らかな肢体を揺らめきながら映している。

 我はガーベラ=ドラクロニアス。

 竜王国の姫だ。

 まぁ姫とは名ばかりの大うつけ者であるが。


 幼い時分から冒険者の真似事をし、十二歳の現在は銀級冒険者なぞをしている。

 幸いにして才能があったのか十を数える頃には竜化も出来るようになった。


 竜王国で言われている竜の試練。

 竜の巣の最奥のアースドラゴンを制する。

 それを目標に頑張ってきた。


 我はおごっていたのだろうか。

 サオルと名乗った、あの男との戦闘を思い出す。

 それなりにやる・・と自負していたものの、あの男相手には全く歯が立たなかった。


 いいように実験体として扱われ、なにやら怪しい薬を飲まされて自我も虚ろになった。

 そんな我を救う者が現れた。


―婿殿。


 一見冴えない普通の男のなりをしているが、その実熱い思いを抱いている少年。

 その少年に我は救われたのだ。

 それと同時にあれだけこだわっていた竜の試練も今はどうでも良くなってしまった。


 思えば最初の出会いも、スタンピード騒ぎで竜の巣が閉鎖されて苛ついていた時のことだった。

 今思えばあれは良くない態度だった、と我はそう思う。



 湯を両手ですくい顔にかける。

 いつの間にか婿殿の従魔であるスライムが湯船でプカプカと浮かんでいる。


「ふむ。ルンだったか?」


 我は湯に浮かんでいるスライムに湯をかけるのだった。





「なぁ。海ってなんだ?」


 三人娘のエミリーである。


「んあ? 海か? 海ってのはでっかくて塩っぱい湖みたいなもんだ」


 俺はエミリーの疑問に答えた。


「ふーん。みんな同じようなこと言うんだな」


 頭の後ろで腕を組みながらエミリーが言う。


「そりゃ、同じ様な答えしか返って来ないだろ」


 俺は苦笑しながら言った。


「じゃあ、お姉ちゃんが連れてってあげます!」


 バァーーンと擬音語がつきそうな勢いで登場するエウリフィア。

 腕にはヴェルとアウラを抱えている。


「連れていくったって、どうやって?」


「海はすごく遠いんだぜ!」


「お姉ちゃんに任せなさい!」


 エウリフィアはそう言って俺にヴェルとアウラを渡してくる。

 そうするとエウリフィアは外に出た。


 ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 何か雷がすぐ近くで落ちたような音が鳴った。


 なんだなんだ!?

 俺たちも外に出てみるとそこには巨大な天龍と呼ばれる龍の姿があったのだった。


『さ、お姉ちゃんに乗って海に行きますよ。海の幸を食すのです! キミもみんなを集めてきなさい』


 巨大な天龍からエウリフィアの声が聞こえてくる。

 俺は軽く目眩めまいを覚えたが、皆を呼ぶべく家の中へと戻った。



『皆、乗りましたね? では行きますよ?』


 エウリフィアは皆が乗り込んだのを確認すると上昇し始めた。

 羽根も無いのに飛べるなんて不思議生物である。

 俺は若干現実逃避し、抱っこ紐の中を撫でながらそんな事を考えた。


 ドパアアアアアアアアアン!

 空気の膜を越え、天龍が飛ぶ。

 周りの景色がどんどん後ろに流れていく。

 すごいな、まるで新幹線みたいだ。


 飛龍の何倍もの速さで飛ぶと、あっという間に南の島にたどり着いた。

 たぶん南。


 俺たちは誰の足跡も無い砂浜に降ろされる。

 白い砂浜が遠くまで続き、透き通った碧い海がキラキラと光を反射している。

 こいつぁキレイだ。

 俺たちはしばし無言で海を眺めた。


「ふぅ、すぐ着きましたね」


「ああ、フィアありがとう」


 フフッとエウリフィアが笑う。


「ホントに塩っぱいんだぜ!」

「ですです」

「水がぁ透き通ってぇ綺麗ですぅ」


「うむ。海もいいものだな」


「あなた様。日差しが強いです」


「これが海か! 妾もはじめてなのじゃ!」


「マスター。ここにも転移石を設置しましょう」


「婿殿、我は泳げないのだ」


「コウヘイさん、ボクも泳ぐのはあんまり……」


 皆が銘々海を眺めている中、俺はその辺のぶっとい流木から布を作り出していた。

 なにかって?

 M・I・Z・U・G・I ダヨー。水着。

 やっぱりせっかく海に来たんだから皆にも楽しんでもらわないとな。


 俺は皆の水着を作って配った。

 ビキニタイプの水着だ。

 ノーナとゼフィちゃんはスクール水着だ。

 胸にはひらがなで「のーな」「ぜふぃ」と書いてある。抜かりは無いぜ。


 ヤシの木の倒木があったので、それで脱衣所を作った。

 皆がキャイキャイと着替えに行っている間にパラソルや浮き輪なんかも作成した。

 俺もなんだか浮かれているみたいだ。

 頭の上のルンもミョンミョンと楽しそうだ。


 皆が着替えて脱衣所から出てくる。

 なんか皆恥ずかしそうだ。


「コウヘイ。これ露出が多くないか?」


「あなた様、日に焼けてしまいそうです」


「マスター、終わったら転移石ですよ」


「おお、この輪っかはなんなのじゃ?」


「ボクは恥ずかしいよ」


「我もこのような面妖な服は初めてだ、婿殿」


「泳ぎにぃ行きますよぉ」

「です!」

「アタシも泳げないんだぜ!」


「海の幸を狩りますよ。キミも手伝いなさい」


「おお、みんな似合ってるな! 輪っかは水に浮かべて遊ぶんだ。転移石も設置しちゃうか! 狩りはその後な!」






――――――――――――


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