竜王国

第103話 夢と冷やし中華






「杉浦せーんぱい!」


 日直当番の後片付けをしている俺に声が掛けられる。

 時刻は夕方近くで日が傾き始めていた。


「なんだ小鳥遊たかなしか」


「むう。なんだとはなんですかー」


 プンプン! という擬音語尾が聞こえてきそうな様子で小鳥遊が怒る。


 小鳥遊たかなし 夏海なつみ。俺の一個下の後輩だ。

 一個下の妹の陽愛ひめと同級生になる。


 小鳥遊は大きな目に蕾のような唇、よく通った鼻筋と美人さんだ。

 胸も大きい。

 髪は肩辺りで切りそろえられており、ショートカットがよく似合う。

 どこぞのアイドルグループにいても埋もれることは無いだろう。


「何か用だったか? これから先生に日誌を見せに職員室に行かなきゃなんだけど……」


「え~。用が無かったら先輩に会いに来たら行けないんですか~?」


「いや、別にそんな事は無いけどさ……」



―これは夢だ。



「杉浦先輩って付き合ってる人っていないんですか~?」


「こんな平凡なヤツを好きになるもの好きなんていやしないよ……」



―夢なんだからもっと良いものを見せろよ!


 この後の展開を知っている俺はそう強く思う。


「じゃあ、その平凡なヤツを特別に想う人が居たらどうします~?」


「はっ。それはあり得ないね。へそが茶を沸かすよ」


―おい! 俺! やめろ!


「ふ~ん。それじゃ、もし私が好きだって言ったら付き合ってくれますか?」


「いや、それは無いだろ」


 いつもの冗談のつもりで返事を返す俺。


 すると小鳥遊の大きな目に涙が溜まっていき……



 バッ

「ふぅ……」


 今となっては見慣れた部屋を見回す。

 森の拠点の家。俺の部屋だ。


 俺は杉浦 耕平。平凡な男だ。

 人に聞けば十人が十人平凡だと、そう答えるだろう。

 んなこと人に言われなくても自分が一番知っている。


 俺は水差しからコップに水を入れるとそれを一気にあおった。

 膝の上のルンをモミモミしながら物思いにふける。

―どうすりゃ良かったっていうんだよ。


 今考えても意味はない。

 そう自分に言い聞かせながらベッドから起き上がる。


「さ、今日も一日が始まるぞっと」


 俺は伸びをした後、籠の中のヴェルとアウラを一撫でするのであった。




 夏も真っ盛りなこの頃。

 俺は格闘していた。


 ……料理の素材と。


 というのも、俺は食いたくなってしまったのだ。

 “冷やし中華”を。


 それは神樹の森の別荘に行った時の事だ。

 俺は発見してしまったのだ。


 神樹の森のエルフは麺をよく食べていた。

 他にも主食の存在はあったが、俺は麺に着目した。


 これがツルツルしこしこでなかなか具合がいい。

 もしやラーメンも夢ではないと来た。


 そして茹だるような、この夏の気温。

 “冷やし中華”でしょう、となった訳だ。


 神樹の森で分けてもらったとある植物の実をすり潰し、粉にしてから水を加えてまとめていく。

 それを少し寝かせてから麺棒で伸ばし、たたむ。

 端から均一の細さで切り分けていけば、後は茹でるだけだ。

 ラーメンの麺には本来は鹹水かんすいと呼ばれるものが必要なのだが、ここは異世界食材。

 こねるだけでラーメンの麺が出来上がるのだ。


 上に乗せるきゅうりもどきやハム、卵焼きなどをじゅんびする。

 紅生姜もどきもね。これは元々赤い奴だ。

 これらを千切りにして用意しておく。


 タレの準備も万全だ。

 醤油もどきにみりんや酢、砂糖などを加えていき、味を整える。


 細切りにして用意しておいた麺を茹であげた。

 水球と氷魔術をつかって引き締める。


 皿に盛り付けて完成だ。

 麺を中央に乗せ、その上に千切りにした素材を盛り合わせる。


 これはたまらん! もう一人で先に食べちゃおうかな?


 と、思ったらいつの間にかほへぇっとした顔で俺の作業を見つめているノーナと目が合った。

 合ってしまった。


「あい。コーへ。なに作ってる?」


 口元に人差し指を当てながらノーナが尋ねてくる。


「う、うん。これはな、冷やし中華というものだ。」


「ひやしチューカ? おいしい?」


「ああ、美味いぞ。この暑い季節にピッタリな料理だ」


「あい! ノーナ食べたいです!」


「そうかそうか。ノーナにも作ってやろう」


 俺はいそいそとノーナの分の冷やし中華を作る。

 ザザッとね。こんなもんかな?


「あい! きれい!」


 ノーナが皿の前でキャッキャッと喜ぶ。アホ毛が一緒に揺れる。


 さて、実食。

 しようと思ったら玄関から皆が帰って来る。


「おなかぁ空いたですぅ」

「ですです!」

「腹ペコだぜ!」


「ふむ。なにかいい匂いがするな」


「本当ですね。あなた様、今晩はどんな料理ですか?」


「マスター、お腹と背中がくっつきそうな匂いです」


「ボクもお腹ペコペコ~」


それぞれ三人娘、ミーシャ、アルカ、ティファ、クーデリアである。


「みんな揃って帰宅か。もうそんな時間なのか?」


 俺が窓の外を覗いてみると、もう夕方になっていた。


「ノーナ。みんなと食べようか」


「あい! そうします」


 この間拡張したリビングに出来上がった料理を皆で運んでいく。


「うむ。彩りが良いな」


「あなた様、味が想像出来ません」


「マスター、早く食べましょう」


「ボクももう我慢できないよ」


「じゃあ皆そろった事だしいただくとするか!」


 こうして俺は皆に冷やし中華を振る舞った。

 味の方はもちろん美味しかったですとも。まる。






――――――――――――


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