第104話 マスター、大変です






 俺はある時、霧夢の腕輪の中身を整理していた。

 着替えなんかも入れっぱなしだったし、モンスターのドロップアイテムなんかも入っていた。


「え~っと、これは洗濯物だろ? これは倉庫行き、っと」


 俺の部屋の中は物で溢れかえっていた。

 足の踏み場もない中、スライムのルンが俺の頭の上でミョンミョンと上下運動をしている。


 籠の中でグリフォンの子供のヴェルはクアっと小さなあくびをしながら俺の作業を眺めていた。

 天龍の赤ちゃんのアウラはヴェルと一緒の籠の中ですやすやと寝ている。

 ヴェルが前足で自分の嘴をカキカキ。痒いのか?


 俺は洗濯物を纏め、洗濯籠の中へと放り込む。

 結構溜まっているなぁ。早いとこ洗濯せねば。


 倉庫行きの荷物を纏めて霧夢の腕輪へと一時しまい、倉庫へ。

 倉庫に行き、次々と荷物を取り出して整理していった。


 霧夢の腕輪の最後の方に入っていた石を取り出す。

 混沌神の欠片だ。


 どうやら神様の体の一部らしいが、詳しいことは分からない。


 日に透かして見ると透き通ったその石は反対側の景色を映し、光を反射してキラリと光る。

 手のひら大のアメジストのような石の角度をクルッと変えると間の抜けた平凡な少年の顔が映った。


 俺は苦笑して石をポンポンと片手お手玉しながら考える。これをどうしたものか、と。

 神様の体の一部ということなら神様が管理すべきじゃないか?


 おれは倉庫を出て、拠点の家の裏へと回る。

 ここには元いた世界の地蔵尊とロキ神の像が置いてある。


 台座の上に小さな建屋があり、その中に像が見える。

 像も建屋も俺が大地の力で作ったものだ。


 神様案件なんだからこっちだよな。

 俺はロキ神の像の前へ行き、手に持った混沌神の欠片をお供物を置く台の上に置いた。


 お供え者の台の上で混沌神の欠片はキラリと光りを反射している。


―神様のことは神様で解決して下さい。


 俺はパンパンと二礼二拍手一礼をロキ神の像に参拝した。

 すると像が一瞬ポワンっと光り、お供物の台の上の混沌神の欠片がフッと消える。

 いつも思うけどお供物はちゃんと相手に届いているのだろうか?


 ……まぁ、これでヨシ!

 俺はふぃ~っと腕で額を拭きながら息を吐く。


 一応辺りをキョロキョロと見回してみたが何かが起こったような事もない。

 しかしあの神様、ずいぶんと適当だったしな~。大丈夫だろうか?


 俺は一抹の不安を感じながらもその場を後にするのだった。




 とある日。

 俺は暑い日差しの中、麦わら帽子を被って農作業をしていた。


 家の中からティファが駆けてくる。

 珍しいな、ティファが走るなんて。

 メイド服のスカートをたなびかせて俺のところまでやって来る。


「マスター、マスター。大変です。一大事です」


 ちっとも大変そうじゃない顔をしてティファが言う。

 いや、よく見ると焦っている?

 ティファの顔色はわかりにくいがいつもとは違う様相だ。


 俺はどっこいしょと立ち上がり、腰をトントンと叩きながらティファに向き直る。


「どうした? ティファ。何かあったのか?」


 俺がティファに尋ねると、


「はい、マスター。スティンガーのダンジョンコアに問題が発生しております。至急、管理室まで起こし下さい」


 と、ティファが答える。


「なんだって!? そりゃあ大変だ!」


 俺はティファに連れられて倉庫の地下室へ。

 前に設置した転移石のある部屋だ。


 階段を降りると、部屋の中央の台座の上に鈍く輝く転移石が見える。


「マスター、お手を」


 ティファが転移石に手を触れながら、俺にもう片方の手を差し伸べてくる。

 俺は差し出されたティファの手を握った。

 柔らかく、ふっくらとした感触だ。


 緊急事態らしいのに、そんな関係ない事を俺は考えていた。

 一瞬の浮遊感と共に景色が変わる。

 瞬きの間に以前拉致され連れて来られたダンジョンコアがある部屋へと来た。


「……マスター。お待ちしておりました……」


 身の丈ほどもある、鈍く輝く大きな石から声が響く。

 ダンジョンコアはチチチとなにか機械音のような音を立てて、その周りには何かの文字列が光を発しながら周回している。


 これだけ見たら幻想的な雰囲気だ。


「それで、問題ってのは? ダンジョンコアは大丈夫なのか?」


「是……地脈の流れから異物の力を感知。ラインを切断して流入を防いでいます……」


「異物の力か……また邪神絡みか!?」


 俺は疑問に思った事を口にする。


「解……すぐに切断したので精査出来ていません。これ以上の接続は危険と判断……」


「マスター。その流れ込んでいる異物の力を何とかして欲しいのです。このままではダンジョンが枯れてしまいます」


 そりゃあ大変だ。


 この町はダンジョンありきで回っている。

 ダンジョンが枯れてしまったら職にあぶれる人がたくさん出てくるだろう。

 これは気合を入れなきゃだな。

 俺はメイちゃんや町のみんなを思い浮かべながら思った。


「分かった。俺にどれだけできるか分からないが、出来ることはやってみよう」


「是……仮のラインを一時地脈に繋げます。マスターには異物の除去をお願いします……」


「分かった」


 俺はダンジョンコアに触れると、大地の力を流して探査を始めた。






――――――――――――


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