第1話(11) 『聖神騎士団』
射貫くような視線に耐え切れず逃げ出した後買い物を続けていたが、セリシアがいつまで立っても赤面から回復しないからどの店に行っても宿敵を見るような目で見られてしまった。
これ信用させる云々と言ったが、もう既に信用度は地の底に落ちてしまったんじゃないか? もしかしたら次三番街に来たら今度こそ殺されてしまうかもしれない。
まあそんなことがありつつ何とかセリシアの赤面タイムも終わりを迎えた頃、俺達は三番街の出口付近へ辿り着いた。
兵士らしき二人の人物が門の左右に立っていて、門にはご丁寧に『二番街』と書かれた看板が立てられている。
どうやらここから先が二番街の敷地になるらしい。
両手で持つ荷物が若干重いと感じ始めるようになったのでかなりの距離をセリシアと歩いたのだと理解する。
二番街は気になるが今は用も無いので軽くセリシアに説明してもらいつつ移動。
そしてしばし歩いた所で『三番街聖神騎士団詰め所』と書かれた看板が目に入った。
「聖女様」
「はい、どうしましたか?」
足を止め、呼び止めるとセリシアも立ち止まってこちらを振り向く。
「『聖神騎士団』ってなんですか?」
「……? メビウス君はコメットさんから聞いていないんですか?」
「……誰?」
誰だよコメットさん。
そんな名前の奴聞いたことないってか名乗られたこともないが。
「では見ていきましょう!」
首を傾げるとセリシアもすぐに察してくれて詰め所の扉を軽く叩いてくれた。
数回ノックすると部屋から足音が聞こえ扉が開く。
出て来たのは、先程俺を対等な視点で見てくれた男だった。
今は純白に塗られた鎧を装着しているため一瞬誰だかわからなかったが。
男はセリシアの姿を見ると嬉しそうに顔を綻ばせた。
部屋の奥でもセリシアが来たことを知るや否や、より一層姿勢や業務に精を出している他の兵士たちが見える。
「聖女様……! よくぞいらっしゃいました!」
「突然訪問してしまいすみません、コメットさん」
「いえそんな! むしろ我ら騎士団としては聖女様が来てくれたというだけで大変嬉しく思っております! ……どうか致しましたか?」
「メビウス君に街を案内していた最中だったんです。それで『聖神騎士団』とは何かを知りたいそうで、せっかくですし実際に見ていただこうかなと」
「……なるほど」
そう説明され、チラリと俺を一瞥するコメット。
その表情は何だか露骨に残念そうに見える。
失礼極まりないな。
「先程も思ったが、君はどうやらこの世界の常識についてかなり疎いようだな」
「す、すみません……」
「やっぱり、メビウス君のことはまだ認められませんか……?」
「い、いえいえ! そんな! 我ら一同彼のことは一目置いています! もう彼は三番街の住民ですよ!」
「……!! ありがとうございます、みなさん……!」
適当に申し訳なさそうな顔をしたらセリシアが釣れた。
そしてセリシアのしょんぼりとした顔に他の男達が釣れて全員が焦りながらご機嫌取りをし始めている。
……うん、何だか気分が良い。
セリシアを餌にすれば何をしても許されるんじゃないか説が浮上した。
が、それだと俺が彼女から引き剝がされるだろうからやはりほどほどにしておこう。
「……こほん。まあ知らないものは仕方ない。聖女様の願いだ。『聖神騎士団』について説明しよう」
「ありがとうございます」
「聖女様、どうぞお座り下さい。……おいお前たち! 紅茶と茶菓子の準備を!」
「「「はいっ!!」」」
「ありがとうございますっ」
コメットに椅子を引かれ、セリシアは感謝の言葉を述べて席に座る。
そしてコメットはその対面に腰掛け、俺は何故か立たされたまま。
……あれ俺は?
なんで俺だけ立たされなきゃいかんの?
コメットは用意された紅茶を軽く傾けつつ、小さく息を吐いて口を開く。
どうやら立たされることは決定事項らしい。
「『聖神騎士団』とは大聖堂によって各番街に送られた、聖女を守るためだけに組織された少数人の精鋭のことだ。もちろん保護対象には各番街の住民たちも入っている」
「……大聖堂?」
「大聖堂というのは【イクルス】から離れた場所にある【帝国】の象徴だ。聖女を保護し、神の使いとしての役目を不自由なく行えるよう数々の支援をしている。この【イクルス】も聖女を守るためだけの城塞都市だ」
つまり城塞都市【イクルス】というのは聖女のために作られた街、ということなのだろうか。
ということはセリシアのためだけに作られたということか? それはさすがに太っ腹過ぎる。
「え、聖女様のためだけにこの街はあるんですか?」
「ああ。聖女様
方、ということはどうやら聖女はセリシアだけではなく他にも何人かいるらしい。
それもそうか。
もしもセリシアだけだったらわざわざ三番街に拠点を構える必要なんかないはずだ。
「こう見えても私達は実力、信仰心共に一定水準以上を持っているからこそ【帝国】からここに配属されたんだ。聖神騎士団に入れたことは私達にとって誇りだよ」
そう言ったコメットたちは本当に誇らしそうだった。
自分たちが聖女を守ることが出来る。
それは信者にとって何よりも名誉なことなのだろう。
しかし一つの街が作られる程聖女というのは本当に重要な存在のようだ。
何となくしか理解していなかったが、そこまで言われてしまうと美味しそうに茶菓子を頬張っているセリシアの見方も変わって……こないな。
結局聖女だとしてもセリシアはセリシアだ。
同調圧力的なもので口調を変えてはいるが、本心では彼女に対する感情が変わることはない。
「だから君も気を付けるといい。聖女様に人間が害を与えでもすれば情状酌量の余地なく即打ち首だ。それに対し聖女様の証言があれば一切の処罰が課せられることはない。それはこの街の住民全ても同じだ。誰も躊躇しないぞ」
「……普通、そういう権限は『聖神騎士団』の人間だけっていうものじゃないんですか?」
「……私達も聖女様の結界を通り抜けられる程信仰心が高いと聖神ラトナ様に認められていない。だから巡回は定期的に行っているが我らですら教会近くでの護衛は禁止されている。いつ如何なる時でも聖女様を守れるように【イクルス】ではそのような政策が取られているんだ」
「つまり『聖神騎士団』と言っても、あくまで実力のある治安維持組織だということですか?」
「……まあそういった見方もあるな」
それはまあ何とも名前負けしてる感はある。
しかしこういうのはそこに存在しているだけで一定の抑止力になるし、いざという時必ず頼れる存在がいるというので聖女や住民に安心感を持たせることは出来るだろう。
そうなると聖女の住む教会にシスターのような補助人間がいないのも納得出来る。
それ程までに大事にされてる聖女の傍に、例え正当な役職を持っていても一切の闇も持っていないかどうかわからない人間は置けないのだろう。
孤児が許されている理由はわからないが。
それもまた何かあるのだろうか?
とにかく、知りたいことは知れた。
「なるほど。わかりました。これからは発言に気を付けようと思います」
「その方がいいな」
「ありがとうございました、貴重な時間を使っていただいて」
ペコリと軽く頭を下げる。
一応見た目だけなら誠実で礼儀正しい人間っぽい振る舞いだったのでコメット含め騎士団のメンバーもそのお礼を素直に受け取ってくれた。
「ああ。また何かあれば来るといい」
そう言って『聖神騎士団』への訪問は終了した。
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