第44話 同じ部屋
事件が解決するまでエリクには注意を払わないといけないな。ボーッとしてたら、後ろからブスッとやられてしまうかもしれない。それはみんなも同じだ。
「フルールはちゃんと護衛をつけておいてね。もちろんリーズも。そうなると問題はボクとクリスになるね」
「それならこうしましょう。ジルとクリスはいつも私かリーズと一緒にいること。どうかしら?」
ボクたちは基本的に四人で一緒にいることが多いので今さらな気もするが、当然、一人になることもある。それを無くそうということなのだろう。安全が確保されるのならそれが一番だと思う。
「そうなると、学生寮に戻ったときが一番危険になりますわね。クリスは女子寮なので私たちの部屋に呼ぶことができますが、ジル様はさすがにそうはいきませんものね」
「そういえばそうだね。そうだ、私のところに来ればいいのよ!」
とてもよいことを考えついたかのようにフルール様が両手をパチンとたたいた。そういえばフルール様は女子寮よりも安全性の高い、職員寮に住んでいたな。そこなら男女による区別はないので、ボクが入っても犯罪者にはならないだろう。でもね。
「それって、フルールの部屋に泊まるってことだよね?」
「そうよ。
『わーい! パパと一緒になるでち。これで退屈しなくてすむでち!』
喜ぶシロちゃん。どうやら遊び相手が増えたと思っているようだ。だがちょっと待って欲しい。それはそれで大丈夫なのか? 王族の部屋に伯爵家の、しかも男の子がいたら、非常にまずいのではないだろうか。
「フルール、気持ちはありがたいけど、さすがに無理があるんじゃないかな?」
「きっと大丈夫だよ!」
グッと握りこぶしを作るフルール様。これは権力を乱用して押し進めるつもりの顔だ。そんなことをさせたら、わがままなお姫様としてみなされてしまうかもしれない。フルール様のブランド力を傷つけるのは不本意だ。一体どうやって断ればいいんだ。
「それなら思い切って、みんなでフルールのところに住むのはどうかしら?」
「リーズお義姉様、いい考えだと思いますわ。それならずっと一緒にいられますね!」
とんでもないことを言い出したリーズ様とクリス。このままだとフルールに押し負けると思ったのだろう。それなら自分たちもと妥協案を考え出したようである。
どうしてそうなった。どうしてそこであきらめるんだ。そしてフルール様、そんなぐぬぬみたいな顔をしないで下さい。かわいいだけだから。
『みんな一緒がいいでち。みんなと遊ぶでち!』
シロちゃんが飛び跳ねている。どうやらこの案に大賛成のようである。食堂にボクたちしかいなくてよかった。他の人がいたら大騒ぎになっていたぞ。まあ、だからこそ、シロちゃんが姿を現しているんだけどね。
「ガブリエラ先生、リーズとクリスはいいとして、男の子のボクが一緒にいるのはまずいですよね?」
頼みの綱はガブリエラ先生だけだ。ここで先生からしっかりと否定してもらわなければ、なし崩し的に三人と一緒に暮らすことになってしまう。
期待するようなまなざしをガブリエラ先生に向ける。頼みますよ、先生。
「確かにちょっと外聞がよくないわね。そうね、私がジルベールの部屋で寝泊まりすることにするわ」
え、なんで、なんでそうなるのっ!
驚きのあまり三人を見ると、三人ともそろってほほをプックリと膨らませていた。ほほにヒマワリの種を詰め込んだハムスターかな? いや、そんなことよりも、先生を止めなきゃ。
「ガブリエラ先生、さすがにそれもダメなんじゃないですかね? ガブリエラ先生も女性ですし、男子寮に寝泊まりするのは、それこそ外聞的にもよくないと思いますよ」
「そうかしら? 私は別に気にしないわ」
「そこは気にして下さい」
ダメだこの人。色々と頭のネジがぶっ飛んでる。普段はとてもよい先生なんだけどね。授業も分かりやすいし、特別授業までしてくれる。でも好感度が上がりすぎると暴走する傾向にあるんだよね。背中をふかせたり、隣で寝たり。
「それじゃ、私もフルール様のお部屋に泊まるのはどうかしら? それなら生徒たちの監視としての役割を持つことができるし、あなたたちの外聞も悪くならないわ」
なるほど、確かにそうかもしれない。先生の許可の下に同じ部屋で過ごしているのなら、清らかな関係として見られるはずだ。これにはフルール様も否定することはできなかったみたいで、しぶしぶといった体で許可していた。
どうやらフルール様はガブリエラ先生を最大のライバルだと思っているようだ。フルール様だけじゃない。リーズ様とクリスの顔つきも険しいところを見ると、二人も同じように思っているみたいである。
これはあれだな、さっき見たシロちゃんのメモ帳が、三人に大きな影響を与えているな。それも悪い方向に。
やっぱりなんとしてでもシロちゃんからあのメモ帳を取り上げて、中身を書き換えておくべきだった。みんながゆがんできたような気がする。
「それじゃ、引っ越しの準備をしないといけないわね」
「引っ越しって、何を持って行けばいいのかな?」
「教科書と服くらいかしら? 私は使用人に持って来させるわ。このままジル様とクリスの部屋に行った方がよさそうね」
「それじゃ、私も準備をしておくわ」
フルール様が使用人たちを呼びつけて、何やら指図していた。その使用人たちが途中で目を大きくしてボクの方をガン見したのを、ボクは見逃さなかった。
やっぱりダメだよね? 使用人たちからもガツンと言って欲しかったが、それをした場合、もれなくガブリエラ先生がボクの部屋に来ることになるんだよね。
どっちがよいのかと
ゲームの開発者はどうして隠しヒロインをこんな特殊な性格にしてしまったのか。
そんなこんなでボクたちはフルール様の部屋へと移ることになった。もちろんずっとではない。犯人が見つかるか、今回の騒動が落ち着くまでの間だけの話である。
そうだよね? 間違いないよね?
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