第43話 進展
何回くらいほほをたたいただろうか? ガブリエラ先生がテーブルの上に両手を組んだ。
「もし学園のだれかに罪をなすりつけようとしたのなら、それらしい証拠や情報がすでに入って来ているはずだわ。迷宮入りしてしまっては意味がないもの」
「確かにそうですよね。危険な道具だし、値段も高いはずですよね? それを無駄にするとは思えません」
今のところそれらしい情報は入って来ていない。これは犯人がうまく隠れているからだろう。そうなると、学園のだれかが犯人ということになるな。やっぱりエリクが?
この話はガブリエラ先生にしかしていない。気をつけないといけないな。
「あなたたちに改めて聞きたいのだけど、笛の音を聞いて、最初に逃げ出していたのはエリクたちだったのよね?」
「はい。まだ狩り大会は終わっていないのに急いで大会本部の方へと戻っていましたわ」
「そのとき、だれか一緒にいなかった?」
みんなと顔を見合わせた。エリクの他には、ヒロイン候補の三人がいた。ボクには印象深い人物たちだけなのでしっかりと覚えていたが、他の三人はちょっと首をひねっていた。
ここはボクが答えるしかないな。
「ガブリエラ先生がご存じかは分かりませんが、いつもエリクと一緒にいる三人の女の子が一緒でしたよ」
「ああ、あの三人ね。確かにそれなら一緒にいてもおかしくないわね」
「そう言われれば、その三人がいたような気がします」
「ええ、そうですわ。エリクを含めて四人でしたわ。後ろ姿しか見えませんでしたが、あの髪型は確かにそうだったかと思います」
「髪の色も同じでしたね」
フルール様とリーズ様、クリスも少しずつそのときの光景を思い出しつつあるようだ。それを聞いたガブリエラ先生は再びいつものポーズで考え始めた。ボクたちはそれを邪魔しないように、ヒソヒソと話し合う。
「ガブリエラ先生はエリクが怪しいと思っているみたいね」
「帰り道で捨てたのなら、持ち物検査で見つかるはずがないよね」
「ジル様の言う通りですわ。物的証拠がないなら、周囲の証言から追い詰めるつもりかしらね」
「そういえば、今日、あの三人が一緒にいなかったような……」
どうやら三人はエリクが犯人ではないかと疑い始めたようである。確かにエリクの近くに三人のヒロイン候補の姿は見えなかった。今回の事件と何か関係があるのは確かだろう。
でも、もしエリクが犯人だとして、ヒロイン候補たちと仲が悪くなるのはよくないんじゃないかな? それとも、もしかして共犯にされてる?
「ジル、どうかしたのかしら?」
「もし、あの四人が共犯だとしたら、口を割りそうにないなと思ってさ」
「共犯……確かにそれなら言えないわね。言ったら学園を追放されるどころか、ろう屋へ入れられることになるわ」
「それじゃ、あの三人が離れたのは?」
「これ以上、罪を重ねたくないってことじゃないかな」
四人が結託して魔物を呼び寄せる笛を使ったのなら、四人がバラバラになることはなかっただろう。だが、エリクが他の三人を共犯者に仕立て上げたのなら、三人が離れる可能性は十分にある。
「やっぱりエリクが怪しいわね」
フルール様もどうやら同じ結論に行き着いたようである。リーズ様とクリスもうなずいている。きっと同じ考えなのだろう。そのとき、ガブリエラ先生が動いた。どうやら考えながらも、ボクたちの話を聞いていたようである。
「あなたたち、今の話は他ですることのないようにね。色々と問題が生じるかもしれないわ。下手をすると、口封じをしようと動くかも」
「そ、そんな。それほどのことですか?」
「可能性の話よ。でも、これまでのエリクの生活態度を見ていると、絶対にそれはないとは言い切れないわ」
シンとその場が静まり返った。だれもそのことについて反論しない。もちろんボクも反論することができない。正直に言わせてもらえれば、エリクを擁護することよりも、三人の安全確保の方が大事である。
「分かりました。この話はここだけにしておきます」
ボクがそう言うと、フルール様とリーズ様、クリスが口を引き結んだ状態でうなずいた。シロちゃんもコクコクと首を縦に振っている。お分かりいただけたようである。
ガブリエラ先生はこれからエリクの近くにいた三人に話を聞きに行くはずだ。
三人が本当のことを話すかどうかは分からない。だが少なくとも、ガブリエラ先生に話を聞かれたことをエリクへ言うことはないだろう。
どうやら完全にエリクの好感度はゼロになったようである。ボクが知ってるゲームじゃない。主人公の好感度がゼロになることなんてなかったはずだ。
そう思ったとき、ボクの頭の中に、忘れていた記憶がよみがえって来た。
これは狩り大会での一幕。そして、パワーアップイベントと好感度アップイベントが同時に起こる、”魔物襲撃イベント”だ。
そこではやはりエリクが魔物を呼び寄せる笛を使っていた。ルールは簡単。何度も押し寄せる魔物をすべて討伐すればクリアだ。そして失敗すれば……そのとき一緒にいたヒロイン候補たちの好感度がゼロになる!
なんてこった! エリクはこのイベントを失敗したんだ。だからヒロイン候補たちの好感度がゼロになって、みんな離れていってしまったんだ。
こうなってしまうと、これから先が予測できないぞ。
完全にゼロになってしまった好感度は二度とあがることはない。そうなると、わずかな望みをかけて、フルール様とリーズ様、クリスにちょっかいをかけて来る可能性は十分にある。ボクが、ボクが三人を守らなきゃ。
「フルール、リーズ、クリス、なるべくボクのそばにいるようにしてね。やけになったエリクが何か仕掛けて来るかもしれない」
真剣な顔をして三人の顔を見た。
あれ? なんか三人とも顔が赤くない? なんだかさっきの”シロちゃんメモ”を読んでいたときのような表情になってるぞ。
いや、それよりもなんだが上気しているような気がする。なんか目が潤んでいるし、目元も心なしか下がっているように見える。
うっとり、と言った方が正しいのかもしれない。
「あら、ジルベール、その中に私は入っていないのかしら?」
「ガブリエラ先生も、もちろん入っていますよ」
どうして……どうしてガブリエラ先生はそこで対抗心を燃やしてしまうのか。
『パパー! ボクは? ボクはどうなんでち?』
「もちろんシロちゃんもだよー?」
ボクのところに飛んで来たシロちゃんを全力でナデナデする。
シロちゃん、それはボクの心の癒やし。この修羅場を照らしてくれる希望の光。
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