第40話 シロちゃんのメモ帳

 学園へ帰った三人は大丈夫かな? ちょっと心配になってきた。こんなことなら、シロちゃんを一緒に連れていかせるべきだった。それなら何か起こっても対処することができたはずだ。


「ジルベール、他の人の心配もいいけど、私たちも安全じゃないことを覚えておいた方がいいわよ」

「と言いますと?」

「この中に犯人がいるかもしれないということよ」


 サッと顔から血がなくなったかのような気がした。だんだんと上半身が冷たくなってくる。

 そうだ。ボクが勝手にエリクが犯人だと思っているだけで、別人の可能性だってあるのだ。ゲームに捕らわれているのはボクの方なのかもしれない。


「まさか、フルール様を狙ったとか?」

「その可能性もあるかもしれないわ。フルール様のことは機密事項として扱っていたけど、ジルベールのように気がついた人がいたかもしれないわ」


 フルール様たちのことがますます心配になってきた。だけどフルール様の身分が明らかになったことにより、表立って護衛がつくようになっている。今はその屈強な護衛たちがしっかりと守ってくれるはずである。それに今さら、離れた場所にいるボクができることなんてほとんどない。


「みんなが無事に学園へたどり着くことができるように祈っておきます」

「そうね。今の私たちにできることはそのくらいね。きっとあちらも馬車の中で私たちの安全を祈っているはずよ」


 緊張しながらその日は眠ることになった。眠れないかなと思ったのだが、ケガをしたことと、魔力をそれなりに消費したからなのだろう。気がついたら朝になっていた。隣でガブリエラ先生が寝ていたが、もちろん若さ故の過ちなんてものはなかった。




 翌日、迎えの馬車が来るのと同時に学園へと戻ることになった。体の不調はすっかりと解消されていた。さすがはフルール様の完全回復魔法。効果が段違いだ。

 そのため、馬車が来るまでの間、ガブリエラ先生と一緒に負傷者の治療を手伝っていた。


 なにせボクにはシロちゃんがいる。シロちゃんによるドーピングによって、ボクの使う治癒魔法は完全回復魔法並みになっていた。

 調子に乗って魔法を使っていると途中から拝まれ始めたので、何事もほどほどが一番だと思う。調子に乗ってはダメ、絶対。


「さすがはジルベールね。まるで聖女様だと言われていたわよ」


 同じ馬車に乗ったガブリエラ先生が笑顔でそう言った。その声はどこかうれしそうである。なぜなのか。


「あの、ボクは男の子なんですけど……」

「あら、女装すれば女の子に見えるから問題ないわよ」


 何が、どう、問題ないのかをガブリエラ先生に問い詰めたい。もしかしてボクを男の娘にするつもりなのではないだろうか。ちょっと怖くなってきたぞ。ギュッとシロちゃんを抱きしめた。


『パパ、震えているでちよ』

「気にしないで。それよりもシロちゃん、昨日書いていたメモをボクにも見せて……」

『ダメでち。これにはボクのおやつがかかっているでち』


 くっ、あのメモ帳をゲットするにはフルール様以上の報酬が必要か。だがちゅるビーフ以上の高級ペットフードをボクはまだ知らない。もっと調べておけばよかった。

 シロちゃんとの攻防戦を繰り広げている間に王都へと到着した。あとは学園までまっすぐに向かうだけである。


「どうやら昨日の話は取り越し苦労だったみたいですね」

「そのようね。よかったわ。あとは使われた道具が見つかればいいのだけれど」

「その道具は何度も使えるものなのですか?」


 ゲーム内では一度しか使ってない。だが、その道具が壊れて使えなくなったという話も出ていない。何度も使える道具ならば、これから先も警戒しなければならない。ガブリエラ先生は少しためらったが、ボクの方を向いて姿勢を正した。


「何度も使えるわ。だからこそ、見つけて破壊しなければならないのよ。昨日、私たちがいた場所にとどまっていた人たちについては一人残らず調べたわ。でも、見つからなかった」

「それじゃ、可能性があるのは真っ先に帰った人たちですね」

「そうなるわね」


 証拠隠滅のために道中で捨てた可能性もあるな。そのことについてガブリエラ先生に話すと、すでに捜索中とのことだった。それなら追って報告が来るだろう。ボクに知らされることはないだろうけどね。


「ジルベール、犯人についての心当たりはないかしら? この際、怪しい人物でもいいわよ」

「怪しい人物……」


 どうしよう。エリクのことを話すべきかな? 使ったという確証はないけど、あのときだれよりも早く逃げ出していたのはエリクたちのチームである。笛の音が聞こえてからすぐだったので、怪しいといえば怪しい。


 予想外に集まって来る魔物が多かったので、逃げ出した? それとも、ボクたちが戦ったマッドホースを見て、かなわないと持って逃げ出したのか。


「何か心当たりがあるようね。だれにも言わないわ。約束する。だから教えてちょうだい」


 ガブリエラ先生にジッと見つめられて、黙っておくことができなかった。そんなことはあって欲しくないと思いながら、エリクたちのことを話した。不自然ではあったからね。


「なるほど、確かに怪しいわね。このことはフルール様たちにも聞いてみてもいいかしら?」

「もちろん構いませんよ。ボクの思い過ごしかもしれませんから」

「他の人にも聞いてみる必要があるわね。大会本部に最初に戻って来た人はだれなのか。最初に魔物が集まってきたことを報告したのはだれなのか。忙しくなりそうだわ」

「すいません。仕事を増やしてしまって……」

「気にしないで。ありがとう、ジルベール。これが何かの糸口になるかもしれないわ」


 そう言ってガブリエラ先生が優しい笑顔を向けてくれた。だがボクは、その笑顔に影があることに気がついた。

 エリクはガブリエラ先生が受け持っているクラスの生徒だ。ちょっと目に余るところはあっても、そんなことをする人物ではないと信じたいのだろう。ボクだってそう思う。ボクの勘違いだったらいいのだが。





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