第39話 犯人を考察する

「えっと、ガブリエラ先生?」

「何かしら?」

「あの、あとは自分でふけますので……」


 背中はしょうがない。この小さなタオルではどう頑張ってもふくことはできないだろう。ボクの体は硬いからね。でも残りの部分は自分でふける。

 シロちゃんと目が合った。またメモに何やら書き込んでいる。ボクが断っていたことをしっかりと書き込んでいてもらいたいところである。


「ジルベール、あなたはケガ人なのよ。何も遠慮する必要はないわ。それに大事な人を守った英雄でしょう? ジルベールに何かあれば、私が怒られるわ」


 こちらへ優しい笑顔を向けるガブリエラ先生。どうやらボクが身をていして戦ったことを高く評価しているようである。それがガブリエラ先生からの好感度アップに結びついたようだ。


 ガブリエラ先生は男らしいというか、英雄のような人が好きなのかな? 確かにゲーム内でも、エリクが英雄的な活躍を何度かすることで気になった感じだったからね。強い子孫を残したいという野性的な本能が働いたのかもしれない。


 だがそれはそれ、これはこれである。フルール様から完全回復魔法を使ってもらっているんだ。タオルで自分の体をふくことくらい、なんの問題もない。それに体の機能も徐々に回復しているみたいだからね。


「もう大丈夫ですよ。こんなに元気になりましたから。ガブリエラ先生の気持ちはうれしいですが、なんだかこちらばかり色々とやってもらって、申し訳ないような気がして……」


 ん? 今、ガブリエラ先生の目が輝かなかった? ボクなんかまずいこと言っちゃいましたかね?

 ガブリエラ先生がグッと体を寄せてきた。何これヤバイ。


「それじゃ、私もジルベールに体をふいてもらおうかしら? それならお互い様よね?」

「え?」


 何言っちゃってるのこの人ー! 先生の言い分は分かるけど、それって教師と生徒の関係としてはよくないことですよね? はわわ。

 ボクが困惑している間にガブリエラ先生が手早く体をふき始めた。


 どうやらこちらに選択権はないようである。なされるがままになるしかなかった。どうしようって、もうどうしようもないよね? あとはシロちゃん様を拝むしかない。


 無事にボクの体はふき終わり、ガブリエラ先生の体をふくことになった。べ、別に下心とかないんだからね。ふいてくれって言われたからふいただけなんだからね。敬愛する先生のお願いを断ることができなかっただけなんだからね。そこのところよろしく。


「と言うわけなんだからね。変な報告をしないでよね」

『ふんふん、いやらしい手つきで大人の女性の体をまさぐるように……』

「違うから、背中をふいただけだからね! ガブリエラ先生もなんとか言ってあげて下さいよ」

「そんなことよりも、ジルベールに聞きたいことがあるのだけど」


 そんなことって……ボクにとっては全然そんなことなんかじゃなくて、生命の危機なんですけど! 服を着たガブリエラ先生がおけを片づけながら聞いてきた。一体、なんの話だろうか。フルール様とボクとの関係のことかな? 特に何もないんだけど。


「笛の音が聞こえたそうね? ジルベールが一番にそのことに気がついたって三人からは聞いているわ。ジルベールに言われて、確かにあの音は笛の音だったって。間違いないわね?」

「それは間違いないです。森の奥から笛の音が聞こえたのでなんだろうと思っていたら、シロちゃんが向こうに魔物が集まって来てるって言ったんです」


 慎重に言葉を選んで話さなくてはいけないな。ボクが魔物を呼び寄せることができる笛の存在を知っているのは非常によくない。どうして知っているのかと聞かれるのも返答に困るし、最悪、ボクが持ち込んだと思われるかもしれない。


「そうだったのね。魔物を呼び寄せる道具を使った形跡があるって話をしたわよね? その道具の一つが笛の形をしているのよ」

「それじゃ、ボクたちが聞いたのはその音なんですね?」

「ええ、そうよ。あなたたちがその音を耳にしてくれたおかげで、使った道具が特定できたわ。その場に現物はなかったけど、目星がついたわ」


 ガブリエラ先生の目が鋭くなった。

 うわ。エリクがこのことを知っているのなら、今すぐ魔物を呼び寄せる笛を処理した方がいい。証拠品として狙われているぞ。まあ、エリクが知ることはないんだけどね。


 この場にはいないし、すでに無事な生徒たちと共に学園へ戻っていると思う。……まさかやけになって帰り道や学園でその笛を使ったりしないよね? そんなことをするような人じゃないよね?


「ジルベール?」

「……ガブリエラ先生、もしその笛を使ったのが学園の生徒だったら、その人はまだその笛を持っているということですよね? それが帰り道や学園で使われる可能性はないのでしょうか?」


 下を向きながら腕を組んだガブリエラ先生。豊かな胸元がますます強調されている。下着、ちゃんとつけ直したよね? ノーブラじゃないよね? なんだかドキドキしてきた。

 ああ、シロちゃん、今の視線はいやらしい視線じゃないからね。不安な視線だからね。あとであのメモを見せてもらわないといけないな。


「十分に考えられるわね。街道はそれなりに安全だし、街からも近いからすぐに守備隊がやって来ると思うけど、ちょっと迂闊うかつだったかしら? 学園へはすぐに報告を入れるわ。警戒と持ち物検査をするようにね」


 ガブリエラ先生はまさか生徒が使用したとは思ってもみなかったようである。禁止アイテムだし、手に入れるにはそれなりのお金がかかる。本来なら、学生が持っているような道具ではないのだろう。


 しかし、ゲーム内では裏路地で行われるミニゲームを攻略することで手に入れることができるのだ。ゲーム攻略サイトを見たことがあれば、だれでも入手することが可能である。もちろんエリクも。なんだか怖くなってきたな。

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