第37話 身バレ

「ジル様はフルール様が光属性魔法を使えることを知っていたのですね」

「うん。たまたま知ってたんだ。フルールが光属性魔法を使えることがバレたら、すごい騒ぎになると思って内緒にしてたんだよ」

「そうでしたのね。それではフルール様がこの国の王女殿下であることは?」

「……は?」


 思わず素の声が出た。そういえば、さっきからリーズ様がフルール様のことを”フルール”じゃなくて”フルール様”って呼んでいるな。まさかフルール様の身分までバレちゃってるとは思わなかった。


「あー、えっとあの、シラナカッタナー?」

「ジル様、知っておりましたのね。棒読みになっておりますわよ」


 リーズ様がジト目でこちらを見てきた。それは明らかにボクを非難するような目つきだった。あ、クリスも同じような目でボクを見ている。どうして早く言わなかったんだって顔に書いてある。


 その一方で、フルール様はなぜか感激したかのようにプルプルと震えて、その美しい大きな瞳に涙を浮かべていた。あ、これ、まずいやつ。お姫様に泣きつかれるパターンだ。


「ジル、やっぱり私が何者なのか分かっていたのね。それなのに、ずっと黙っていてくれて、ずっといつも通りに接してくれたのね」


 はう! フルール様の強烈な頭突きがボクのおなかに突き刺さった。ケガの影響なのか体がうまく動かないところでの頭突きである。当然、よけられないし、よけることなどできない。だって、お姫様だもん。不敬になっちゃう。


「あー、えっと、度重なるご無礼をお許し下さいフルール様」

「ちょっとジル」

「ごめんなさい冗談です」


 顔をあげたフルール様のほっぺたがプクッと膨らんだ。今すぐその膨らんだほほを突いてプシュって言わせたいけど、不敬になるので我慢した。すぐ近くで笑い声が聞こえる。リーズ様とクリスだ。なんだかつきものが落ちたかのような感じである。


「そうでしたわね。フルールとはお互いに名前で呼び合う関係でしたわね」

「そうですよ。たとえフルールお姉様が王妃殿下でも、私のお姉様に変わりはありませんわ」

「リーズ、クリス、ありがとう!」


 今度は二人に抱きついたフルール様。その光景はとても美しいんだけど、ボクの体をまたいで抱きつくのはやめてもらえませんかね? おっぱいが、おっぱいがボクの体の上をはってる!


「ウフフ、さすがはジルベールね。私の心配はいらなかったみたいだわ」

「ガブリエラ先生?」

「心配したのよ? フルール様の身分が発覚したことで、あなたたちの友情が崩れてしまうんじゃないかってね」

「大丈夫ですよ。ボクたちは固い絆で結ばれた親友ですからね」


 ドヤ顔でそう言った。これなら誤解されることはないだろう。

 そう、ボクたちは親友。恋愛感情など持ち合わせていないのだ。クリスはまだいいとして、フルール様もリーズ様も、ボクには荷が重すぎる!


「ジル」

「ジル様」

「ジルくん」

「ジルベール……」


 あれ? なんだか三人の様子がおかしいぞ。笑顔なんだけど、全然笑っていないように見えるのはなぜだろうか。その一方で、ガブリエラ先生だけが満面の笑みである。間違いない。これほどうれしそうなガブリエラ先生の顔は見たことないぞ。どうして……。


『パパがうれしそうな顔をしているでち。よかったでち』

「シロちゃんにも心配をかけたね。もう大丈夫だよ。体はまだよく動かないけど」


 ナイス、シロちゃん。キミのおかげでこの謎の空気から抜け出せそうな気がしてきたぞ。

 多くの人が治療中だとガブリエラ先生が言っていた。そうなると、今日はここに泊まることになるのかな?


「ジルベール、あなたの体の動きを調べないといけないわ。ケガは完全に治っているはずなのに体が動かないのはおかしいわ」

「雷が直撃したのが原因かもしれません。動かしていればそのうち元に戻ると思うので大丈夫ですよ」

「そういうわけにはいかないわ。ほら、まずは手を動かしてみて」


 ガブリエラ先生に言われるがままに体を動かす。問題なく動くことには動くのだが、プルプル震えたり、動きが鈍かったり、力が入らなかったりする。これは神経がやられているな。でもリハビリすればすぐに元に戻るはずだ。


「ごめんなさい。私の魔法が完全じゃなかったばかりに……」

「フルールのせいじゃないよ! 雷の影響でまだしびれているだけだから。フルールの魔法は完璧だった。間違いない」


 当然である。フルールが使った魔法はゲーム内に唯一存在する完全回復魔法なのだから。それなのに完璧に治らないはずがない。神経もつながっているはずなので、信号の伝達がうまくいっていないだけだろう。リハビリすれば大丈夫なはずだ。こればかりは時間をかけてやるしかない。


「ジルベールの言う通りよ。フルール様の魔法は完璧だったわ。ひん死のジルベールを元の通りに治すくらいにね」

「フルール、ありがとう。おかげで命拾いしたよ」

「何言ってるのよ。ジルが私たちの前に立ってくれたから、私たちがこうして無事でいられるのよ。こっちこそ、ありがとう、ジル」

「ジル様、ありがとうございます」

「ありがとう、ジルくん」


 三人とも涙を浮かべながらそう言った。恋愛弱者でも分かる。これは間違いなく、みんなの好感度があがったやつだ。その中でも特にフルール様の好感度アップが高そうである。

 それにしても……。


「フルール、魔力は大丈夫なの? かなりの魔力を使ったと思うんだけど……」


 完全回復魔法はすべてを元の通りに戻してくれる。だがしかし、魔力を全部消費してしまうのだ。シロちゃんの力も借りていたから、そんなことにはなっていないと思うけど。


「それが、ほとんどの魔力を使っちゃって、今日はもう魔法が使えないのよ。本当は他の人たちも治癒魔法を使ってあげたかったんだけど」

「ダメですよ、フルール様。それはさっきも言ったでしょう?」

「はい。ガブリエラ先生……」


 どうやらボク以外のケガ人の治療もしようとしたみたいだ。さすがはフルール様。そりゃ、放っておけないよね。本当に天使のような人だなぁ。ションボリとうつむいてしまったが、かける言葉がない。

 大人しく一緒に寝とく? とか、言えそうな雰囲気ではないし。


「ジルベールはこのままここに泊まることになるわ。あなたたち三人は迎えの馬車に乗って学園に戻りなさい」

「あの、ガブリエラ先生は?」

「私はここでジルベールの面倒を見ておくわ。もちろん、他の負傷者もね」


 ガブリエラ先生の言葉を聞いて、三人の目がグワッと見開かれた。なんだろう、これ。修羅場の予感がするぞ。

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