第33話 作戦会議

 副学園長のルール説明を聞いて少し騒がしくなった。狩り大会開始の日までにチーム戦であることを言わなかったのは、事前に連携などの練習をさせないためだったのだろう。

 それでも二年生、三年生は大体予想はしていたようで、すでにペアを作っている人たちがいた。


 なるほど、ペアで練習をしておけば、二人以上のチームになっても問題なく力を発揮することができるな。ボクも何かのときのために、信頼できる相方を見つけておいた方がよいかもしれない。


 今のところそれはフルール様になるのかな? シロちゃんからパパママ認定されていることだし、シロちゃんの力を借りる上でもちょうどよい。

 ハッ! もしかしてシロちゃんはこうなることを予測してボクとフルール様のことをパパママと呼ぶようになったのでは?


『パパ、どうしたでち?』

「い、いや、何でもないよー。それよりも、四人一組ならメンバーは決まりだね」

「そうね。よかったわ。みんなと一緒になれて」

「確かにそうですわね。これが三人一組とかだったりしたら……考えたくないですわね」

「ううう……そのときはお姉様たちに譲ります」


 一人落ち込むクリス。実際に三人一組になるわけでもないのになぜそうなってしまうのか。その場合、男であるボクが抜けるという可能性も十分にあると思う。そうなったらたぶんボッチだな。


「ちょっとクリス、リーズが言っているのは例えばの話だからね。本気にしちゃダメよ」

「あっ、そうでした。いや~、あまりにも現実的だったから、つい悪い方向に考えてしまいました」


 クリスはときどきこうやってネガティブモードに突入するときがあるな。いつもは元気なのに、そのことだけがちょっと心配である。フルール様だけでなく、リーズ様もクリスを励まし始めたところで副学園長のルール説明が終わった。


 学園で行われる大会の結果は学園を卒業してからでもついてくる。狩り大会で優勝すれば、国に所属するエリート魔導師団の一員としてスカウトされる可能性だってあるのだ。


 そりゃ先輩たちも目の色を変えるはずだ。それなら確かに、ガブリエラ先生が言うように、入学したばかりの一年生では太刀打ちできないな。


「それじゃ、お昼を食べながら作戦会議だね」

「他のみんなは昼食の時間に組む相手を探したりするんでしょうね。昼食の前に説明があるのも納得だわ」

「昼食は自分たちで取りに行くみたいね。食べ過ぎないように注意しないといけないわね」

『おなかいっぱい食べたかったでち』

「シロちゃんはおなかいっぱいになるまで食べても大丈夫だよ」


 シロちゃんはフルール様の肩に乗って移動するので問題ない。それに空を飛ぶことができるので、重さは関係ないのだ。それぞれが昼食をお皿に盛り付けて戻って来た。ここからは作戦会議の時間だ。


「森の奥へは行かない、でいいよね?」

「その方がいいわね」

「優勝を狙っているわけではありませんものね。一人一体ずつ魔物を倒すくらいでよいのではないかしら?」

「リーズお姉様の言う通りですね。一体でも倒せるかどうか分かりませんけど、頑張ります!」

「これだけ人数がいると、魔物を見つけるだけでも大変そうだね」


 いくら近くの森が広いとは言っても、これだけの人数が一度に動けば魔物に遭えない可能性もある。それならそれで安全が約束されるされることになるからいいんだけどね。

 森の奥へ行けば当然、魔物の数は多くなる。そして魔物も強くなるはずだ。うん、やっぱり奥へは行かない方がいいな。なんと言っても、お姫様が同じパーティーにいるのだから。


 周囲に人が増えてきた。続々とチームが出来上がっているようである。やはり四人組が多いな。当然と言えば当然だけどね。

 そんな中、エリクの姿を見つけた。予想通り、ヒロイン候補たちを連れている。こちらが気になるのか、チラチラとこちらを見ていた。


「エリクのことが気になるの?」

「えっと、まあ、そうかも」

「あの人はジル様に突っかかって来ることがありますものね。模擬戦のときも、みんなでお出かけしたときも」


 そのときのことを思い出したのかリーズ様がプリプリと怒り始めた。本人よりも怒っている。その気持ちはありがたいんだけど、ボクとしてはエリクとこれ以上かかわることがなければ、それが一番なんだけどね。


「ちょっと心配ね。周りにいる女の子たちにいいところを見せようとして、無理をしないといいんだけど」

「そう言われてみればそうですわね。ジル様もそれを心配しているのでしょう? あの子たちが巻き込まれるのは見過ごせませんわ」


 フルール様とリーズ様の警戒度があがった。クリスも気になるのか、チラチラとあちらの様子をうかがっていた。

 しまったな。ボクの勝手な疑惑のせいで、三人にいらない心配をかけてしまっている。ボクたちが今すべきことは、目の前の狩り大会に集中することなのに。


「よし、この話はこれで終わりにしよう。気持ちを切り替えて魔物討伐に集中しないと。他のクラスメイトよりも有利だとはいえ、油断は禁物だよ」

「ジルくんの言う通りね。向こうを気にしてもしょうがないわ。私たちは私たちがやるべきことをやりましょう」


 クリスの宣言にみんながうなずいた。目の前のことに集中しなきゃ。

 それからはどのようなフォーメーションにするか、どの魔法を優先して使うかなどを話し合った。もちろんパーティーの先頭はボクだ。これだけは譲れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る