第32話 狩り大会

 それからしばらくして狩り大会の日がやって来た。この日は朝から学園の生徒全員で隣街へと向かうことになっている。何台もの馬車が連なる光景はなかなか見られない景色であり、壮観だった。


 俺たちはリーズ様のご厚意によって同じ馬車に乗っている。乗っているのはいつもの四人プラス一匹である。


「シロちゃんはどうしましょうか?」

「フルールについてもらうのがいいんじゃないかな。どのみち、このメンバーで一緒に動くことになるよね?」

「そうですわね。私とクリスについてもらっても、いざという時の役には立ちませんものね」


 リーズ様が残念そうに眉を下げて笑っている。シロちゃんの特殊能力が発揮されればよかったのだが、前に試してみたところ、やはりダメだった。それはクリスも同じである。

 残念ではあるが、ローテーションでシロちゃんを部屋で預かることができるようになったので、そこまでの不満はないようである。


「そうすることにするわ。シロちゃんは私と一緒にいてちょうだい」

『了解でち!』


 手をあげて、元気よくシロちゃんが答えた。その場にいるだけで癒やし効果を与えることができるのも、聖竜の特殊能力の一つではないかと思っている。みんながシロちゃんで癒やされている中、フルール様が首をかしげた。


「私たちがバラバラになることなんてあるのかしら?」

「狩り大会のルールによってはあり得るかもしれないね。グループじゃなくて、個人で動かなければならないとか、グループの人数に制限があるとか」

「そういえばお兄様も狩り大会のルールは毎年少しずつ違うって言ってましたわね。同じだと対策を採られてしまうとか言っていましたわ」


 今度はほほに手を当てて考えている。ちょっとガブリエラ先生の考えるときの癖が移りつつあるような気がする。

 それにしても、毎年ルールが変わるか。マンネリ化を防止する意味もあるんだろうな。上級生たちが魔物討伐用の罠なんて物を考えて持ち出したりしたら、明らかにそのチームが有利になってしまうからね。


「事前に狩り大会のルールが説明されていないのはそういうことだったのか。どんなルールなのか、ちょっと気になって来たぞ」

「そうですわね。私が調べた限りでも、魔物を一番多く倒した人が優勝するということしか分かりませんでしたわ」


 リーズ様は事前にどんな大会なのかを調べていたのか。ボクたちにそのことを話さなかったのは、ルールが微妙に違っていて、どれが本当なのかが分からなかったからだろう。フタを開けてみれば、どれも本当で、どれも違ったというわけだ。

 ただし、優勝者を決める仕組みだけは毎年同じのようである。


 ゲーム内ではどうだったかな? 確か主人公がともに戦う仲間を三人選んでいたはずである。つまり、四人一組のチーム戦。

 エリクはおそらく、他のヒロイン候補である、ミュルス、マリア、ソフィアを選ぶはずである。好感度をあげるためにも、まず間違いないだろう。


 対してボクの方はと言うと、ボクにフルール様、リーズ様、クリスの四人。そこにひそかにシロちゃんが加わるという形だ。どう見ても第二の主人公チームだよね? しかもガブリエラ先生からの特別授業を受けているし、シロちゃんもいる。戦力的にはこちらの方が上である。


 優勝はできないにしても、エリクたちを上回ることになりそうな気がする。そうなれば、またエリクが難癖を言いに来そうだな。やれやれだ。


「ジル様、どうかしましたか? 気分でも悪いのですか」

「大丈夫だよ。もし四人のチーム戦だったら、このメンバーになりたいなと思っただけだよ」

「そうでしたか。私もジル様と同じ気持ちですわ」

「私もよ」

「私もです」

『シロちゃんもでち!』


 どうやらこの四人のチームで決まりそうだな。狩り大会では何が起こるか分からない。なるべく前線には行かないように気をつけないといけないな。

 朝早くから学園を出発したこともあり、十時ごろに隣街へとたどり着いた。ここからは狩り大会のルール説明が行われ、早めのお昼ご飯を食べてから狩り大会が開始されることになる。


 狩り大会の時間は午後三時ごろまでを予定しているようである。その時間帯になったら、先生や騎士が生徒を探して街まで連れて帰ることになるのだ。

 学園の生徒全員が街を出て、少し進んだところにある広場へと集められた。狩り大会の会場となる森はもう目の前である。


「ただ今より、本年度の狩り大会のルールを説明します」


 副学園長が拡声器の魔道具を使って話し始めた。ルールはゲーム内と同じ、最大で四人一組のチーム戦だった。そしてチームを組むのはクラスメイトでなくてもよいという説明が加えられる。これでクラスの中でチームが組めなかった人も安心だ。


 しかもボッチにも優しい最大で四人というシステム。裏を返せば、別に三人でも二人でも、最悪一人でもよいということになるのだ。ただし、人数が減る分、危険度が高くなるため、あまり遠くまでは行くことはできないだろう。


 森の中には一定間隔で先生や騎士が監視役として立っているらしい。そのため、何かあればすぐに手助けしてくれる。ただし、手助けがあった場合はチーム全員が減点されるそうである。なるべくなら避けたいところだな。


 魔物の討伐については、近くにいる監視役が判断することになっている。一番ダメージを当てた人がポイントを得ることができるようだ。当然、横取り厳禁だ。

 倒された魔物は学園の職員と騎士が片づけてくれるそうである。至れり尽くせりだな。さすがは国内で最高の学園だけはあるな。


 それだけ貴族がお金を払っているということである。もちろんボクの家も多額の支援金を支払っているはずだ。今年は王族もいることだし、かなりの金額が学園に入っていることだろう。それなら失敗は許されないはずだ。

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