第31話 狩り大会の秘策

 王都に戻ってからの日々はあっという間に過ぎて行った。どこで手に入れたのか、リーズ様が王都で大流行しているオペラのチケットをもって来たり、どこぞの伯爵家でのダンスパーティーに参加したりと本当に忙しかった。


 最終日にはシロちゃんが封印されていた丘から、みんなで花火大会を見て締めくくった。完全にリア充の夏の過ごし方である。これをクラスの男子が知ったら、マジでうしろから刺されるかもしれない。




 そんな楽しい夏休みが終わり、学園の後期授業が始まった。日に焼けた人や、なんだかたくましくなった人、彼女らしき人とイチャイチャする人など、色々である。そんなボクは、相変わらず三人に囲まれていた。


 ガブリエラ先生に夏休みどうして過ごしたのかを聞かれたのでみんなで答えると、なぜかちょっとにらまれた。ガブリエラ先生はずっと仕事だったのかな? そりゃ、にらまれるか。


 後期授業が始まってからしばらく経過したが、いまだに前期授業とあまり代わり映えしない授業が続いていた。隣のクラスではすでに新しい魔法を使った、実技の授業が始まっているというのに。


 間違いなく、前期授業のときにあった”魔法の暴発事件”が尾を引いているな。もしかすると、学園長から当分、実技の授業をしないようにと言われているのかもしれない。

 そしてそれに異議をとなえる人がいた。エリクである。


「ガブリエラ先生、実技の授業がないのは困ります。もうすぐ狩り大会があるのですよ? このままでは他のクラスの後れを取ることになります」


 エリクの言葉を受けて、それを支援する声がいくつも上がっていた。どうやら不安に思っていたのはエリクだけではなかったようである。狩り大会があるのに、いまだに初級魔法しか使えないのでは心もとないのだろう。


「確かにそうかもしれないわね。でも知っているかしら? 狩り大会は主に三年生がお互いに競い合う大会よ。一年生や二年生では太刀打ちできないわ」

「そんなことはありません。俺たちだって工夫すれば上位に食い込むこともできるはずです」


 なおも食い下がるエリク。なぜそんなに必死になっているのか。それはおそらくゲームの内容と関連しているのだと思う。ゲーム内では狩り大会で強い魔物が出現する。それを倒すことができれば、大量の経験値を得て大幅にレベルアップすることができるのだ。


 もしそれができれば、今後の展開が有利になると思っているのだろう。もしかすると、ヒロインが全員エリクの方を向くと思っているのかもしれない。そんな都合のよい展開になるのかどうかは疑問だけどね。


 この世界は現実で、ゲームの中とは違う。シロちゃんの隠された能力がそれを証明していると思う。ゲームと同じだと思っていたら、絶対に足下をすくわれる。


「その工夫は上級生たちもやっているわ。むしろ、これまでの積み重ねがある分、あちらの方が有利ね。どんなことを考えているかは分からないけど、あなたの考えは向こうも考えているだろうし、すでに実行した後かもしれないわ」

「……」


 エリクはそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかった。それもそのはず。ゲーム内では魔物をおびき寄せる笛を使うのだ。言えるはずがない。この国では違法とされている道具なのだから。そのことをエリクが知っているのか不安になってきた。


「エリク、あなたの心意気は認めるわ。でも、一年生はあくまでも後方で魔物の倒し方を学ぶのが本来の目的なのよ。当然、このクラスも、他のクラスもそれに従うことになっているわ」


 それ以上はだれも何も言わなかった。もうすぐ行われる”狩り大会”についての目的をクラス全員が理解できたはずである。これなら狩り大会で突出してケガをするクラスメイトは出ないだろう。

 ……エリクの動きにだけは注意しておく必要があるかもしれないが。


 授業が終わり、いつものようにみんなで食事を食べる。最近ではこの高位貴族専用の食堂を使うことにも慣れて来たようで、クリスの表情にも余裕があった。テーブルマナーもバッチリである。ボクも含めて。


「狩り大会があるのをすっかり忘れてました」

「私もよ。きっと毎日が充実しているから、それ以外のことを忘れちゃったのね」

「うふふ、私もフルールの意見に賛成よ。こんなに学園生活が楽しいとは思わなかったわ」


 女性三人が顔を見合わせて笑っている。本当に楽しいのだろうな。この三人なら、学園を卒業してからも、ずっと友達でいられると思う。ボクは――どうなるのかな? 今のところ先が見えないな。


『狩り大会って、何をするでち?』

「隣街の近くにある森へ行って、そこにいる魔物を退治するんだよ。そして退治した魔物の数を競うんだ。治安維持と、実戦訓練をかね備えた学園の催し物だね」

『シロちゃんも手伝うでちか?』

「あー、状況によっては手伝ってもらうかも?」

「ちょっとジル、不吉なこと言わないでよ」

「ごめんごめん」


 慌ててフルール様に謝った。どうやらボクが変なフラグを立てたように思ったようである。言われてみれば確かにそうだな。すでにエリクが何かをやらかしそうなのに、それを認めるようなことを言うのは間違っているな。


「魔物のいる森に入っても大丈夫なのでしょうか? ちょっと心配になってきました」

「森の奥にまで行かなければ大丈夫よ。それに先生たちだけでなく、騎士団も派遣されることになっておりますわ。もちろん、フォルタン侯爵家からも騎士を派遣しますわよ」


 さすがはお姫様が学園にいるだけはあるな。守りは完璧なようである。これならイベントは起こらないかな? いや、ダメだ。この考え自体がフラグになってしまっているような気がする。


「ジル様、なんだか心配そうな顔をしておりますわね。何かありましたか?」

「いや、別に何もないよ。その森には強い魔物はいないんだよね?」

「もちろんですわ。事前に調査を行って、生徒たちの手にあまるような魔物はあらかじめ排除しておくみたいですわ」

「それなら安心ですね!」


 クリスが笑っている。ボクもクリスみたいに笑いたい。でもゲームのイベントがどうも気になる。この世界はゲームとは違うと言っておきながら、一番そのことを気にしているのはボクなのかもしれない。

 どうか狩り大会で何事も起こりませんように。

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