第30話 夏の思い出
ボクたちが見つめるその先で、アルラウネが砕け散っていくのが見えた。勝った、ボクたちの勝利だ!
急いで屋敷に戻ったボクたちはすぐにアルラウネの話をした。お父様とおじい様が血相を変えてどこかへと出かけて行った。
「みんなが無事でよかったわ。もし何かあれば、マルモンテル伯爵家は潰れていたわ。すべてはこちらの責任です。本当に申し訳ありませんでした」
お母様が頭を下げる。慌ててボクもみんなに頭を下げた。それをフルール様たちが止める。
「やめて下さい。こうしてみんな無事でしたから、問題はありませんわ」
「そうですわ。ケガした護衛たちもジル様の治癒魔法で治していただきましたし、大丈夫ですわ。それに、こちらへ突然押しかけたのは私たちですから……」
「そういうわけにはまいりませんわ」
ケガをしていた護衛たちはボクが水属性魔法を使って治療しておいた。そのため、今は健康そのものである。外傷だけでなく、骨まで治るとは思わなかったけど。すごいな、治癒魔法。
「本当に問題ありませんから。ジルがこうして守ってくれましたから」
「フルールの言う通りですわ。ジル様が体を張って守ってくれましたもの」
「そうですよ。ジルくん、格好よかったんですよ!」
そうだったっけ? 体を張った記憶は全くないんだけど……。どちらかというと、アルラウネのおぞましい姿に腰が引けていたと思う。端から見ると、そんなふうに見えていたのかな? そうかもしれないので、否定はしないでおこう。
それからはおばあ様とアルトも呼んで、なぜかみんなでボクの自慢話になった。ことの重大さを理解しているおばあ様は終始青い顔をしていたが、アルトは無邪気にボクのことを褒めていた。そしてそそがれる尊敬のまなざし。ちょっとまぶしすぎるかな。
戻って来たお父様とおじい様も三人に平謝りだ。どうやら三人に謝る前に、領内の見回りを徹底させていたようだ。おじい様が言うには、一年の間に二匹も異常固体が現れるのは異例のことらしい。数世代前の領主の日記に、かろうじて書き記されていただけだそうである。
「本当に申し訳ありませんでした」
「顔を上げて下さい。先ほどから何度も申し上げているように、今回は予期せぬ事態で、防ぎようがなかったことですわ。この通り、みんなも無事ですから、もう気にしないで下さい」
「そういうわけには……」
お父様もおじい様も困り顔である。おそらくこれから謝罪の手紙を国王陛下へ送ることになるのだろう。考えただけで胃が痛くなりそうだ。国王陛下からの返答次第では、本当に家がなくなっちゃうかもしれないな。
まさか、ボクが追放フラグを回避したのが原因か? 何かしらの強制力が働いて、ボクを学園から追放しようとしているのかもしれない。
フルール様とリーズ様、クリスは笑って許してくれているが、マルモンテル伯爵家からすれば、大きな借りを作ったことになる。
もしあちらから要請があれば、ボクとの婚約は即、決定することだろう。当然、ボクに拒否権はないし、喜んで受けるつもりである。
「本当にごめんね。まさかこんなことになるだなんて思ってもみなくて……」
「もういいわよ。たくさん謝ってもらったわ」
「そうですわ。これ以上謝るのはやめて下さい」
「お姉様たちの言う通りですわ。これからは普通に戻って下さい」
ボクたちは別のサロンへと移動していた。あのサロンではこれから家族会議が開かれるみたいだったからね。聞かせられないこともあるだろうと思って、気を利かせたのだ。
そして今、ボクは改めてみんなを危険にさらしてしまったことを謝っている。
でも、これ以上謝るのはやめた方がよさそうだな。ボクの中ではまだまだ許すことができないけど、逆にそのことでみんなを困らせているみたいだからね。
「おわびのつもりってわけじゃないけどさ、この屋敷にいる間はなんでも言ってよ。できる限りのことをかなえるからさ」
「本当に? なんでも言うことを聞いてくれるの?」
「……できる限りでお願いします」
あ、フルール様の口がガチョウみたいになっている。一体何をお願いするつもりだったのか。よく見ると、リーズ様とクリスも同じような顔をしていた。なんだかボクの周りに集まっている女の子たちって怖くない? もしかして病んでるのかな……。
そこからの日々は、領内にある牧場で乗馬をしたり、街に買い物へ行ったり、庭で魔法の練習をしたりして過ごした。
本当は個人宅で魔法の練習をするのはダメなのだが、我が家に魔法的があったので、バレなければ大丈夫だろうということだった。
詳しく聞いてみると、どうやらリーズ様の家にも魔法的があり、ひそかに練習しているようである。さすがは高位貴族である。それなら我が家もギリギリセーフなのかな?
フルール様とリーズ様は乗馬もできるみたいで、すぐに馬を乗りこなしていた。
その一方で、クリスは初体験だった。ボクが手取り足取りクリスに教えていると、なぜか自分たちもと二人がやって来た。
三人がかりで教えたこともあり、最終的にはクリスも一人で乗れるようになっていた。全力では走ることはできないけどね。
湖に行ったときはみんなで小舟にも乗った。湖の上は涼しい風が吹いて、とても心地よかった。こんな体験は初めてだとみんな喜んでくれた。シロちゃんも楽しそうにはしゃいでいた。
「楽しい時間はあっという間ね」
「本当ですわ。もう帰らなければいけないだなんて、残念ですわね」
「でも、みんな一緒に帰るから、寂しくなんてないですよ」
三人からの要請で、一緒に王都へ帰ることになっていた。王都に着いてから学園が再開されるまでは十日ほどあるが、その間は王都の屋敷で過ごすつもりである。フルール様とリーズ様、クリスはその間に実家に帰るようだ。
これで少しは落ち着くかなと思っていたのだが、その十日間は王都で予定していた夏休みの思い出作りをしようということになった。どうやらマルモンテル伯爵領での夏の思い出だけでは物足りなかったようである。もちろん、どこまでもつき合うけどね。
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