第29話 怪しい電波?

 森林浴は問題なく進んだ。なんだかシロちゃんが気持ちよさそうに息をスーハーしている。ここの空気が気に入ったのかな?


「シロちゃん、王都の空気と何か違うのかな?」

『違うでち。ここの空気はおいしいでち。力がモリモリと湧いてくる気がするでち』

「へー」


 あくまでもシロちゃんの感想である。ボクがスーハーしたところで、その違いは分からない。それはボクだけじゃないようで、みんなもスーハーしていたが、特に変わった様子はなかった。


 それよりもシロちゃんをスーハーした方が元気をもらえるような気がするな。聖竜吸いをやってみたいものである。


 森の中はボクたちの貸し切り状態だった。遠くに家族連れが見えるが、目に映る人はそのくらいである。

 そのままみんなを連れて、さらに奥にある滝へと向かった。この滝はその水しぶきによって癒やし効果があると言って、絶賛売り出し中なのだ。


 完全な精神論であり、その確証はもちろんない。だれが最初に言い出したのかは分からないが、今ではだれもがそれを知っているのだから驚きだ。そのおかげで観光名所としても人気が出ている。なかなかの策士がいるようだ。おじい様かな? なんかそんな気がしてきたぞ。


「ここが自然公園の中にいくつかある滝のうちの一つだよ。道が整備されていて、一番訪れやすい場所だね」

「すごい音と迫力だわ! やっぱり絵では分からないわね」

「水しぶきが気持ちいいわね。これが癒やし効果なのかしら?」

「大きいです! あ、見て下さい。小さな虹がかかっていますよ」


 ボクたちを歓迎するかのように、滝つぼの近くに小さな虹がかかっていた。まあ、天気がよければいつでも見られるんだけどね。それは言わないでおこう。

 十分に癒やしパワーを蓄えると、元来た道を引き返した。これだけ喜んでくれるのなら、別の滝にも連れて行ってあげたいところだな。


『む』

「どうしたの、シロちゃん?」


 キョロキョロするシロちゃん。何かを察知したようである。まさか、怪しい電波を受信しちゃった?

 ボクの声に、みんなの視線がシロちゃんに集まった。お構いなしに顔と鼻をしきりに動かすシロちゃん。


 まさか、おいしい匂いがしてきたのかな? でも、この近くにはお店が一件もないんだよね。近くでバーベキューでもしてる人たちがいたりするのかな。

 ボクがソワソワし始めたころ、シロちゃんが一点を凝視した。


『こっちに向かって何か来てるでち!』

「何かって何?」


 ボクの目には何も見えないんだけど……。そう思っていると、遠くに土煙が見えた。それはだんだんと大きくなってくる。

 なんだか悪い予感がしてきたぞ。この辺りには魔物はいないはずなのに。


「急いで安全な場所に逃げよう!」

「逃げようって……あの速さでは逃げられそうにありませんわよ!」


 それはどんどんこちらへ近づいて来た。上半身は人の姿をしているが、下半身は植物のように青々とした葉が茂っている。あれってまさか。


「アルラウネ!」

「え? た、確かにそうですわ。でもあんなに速く走る魔物でしたっけ?」

「うわ、まずい!」


 一直線にこちらへ突進してきた。それに気がついた護衛たちが、盾を構えてスクラムを組んだ。逃げられないと判断したようだ。そのままアルラウネの進行を止めるつもりみたいだ。


「今のうちに逃げ……?」


 ガツンと堅い物同士がぶつかったような音と衝撃があった。振り返ると、護衛たちが吹き飛ばされていた。なんてパワーだ。だが、アルラウネの動きも止まったようだ。まるで跳ね返されたかのように倒れ込んでいる。しかし、すぐに体をモゾモゾと動かし始めた。


「もしかして、倒すなら今しかない?」

「そうみたいね。あの足の速さなら逃げられないわ。あれは……葉っぱ? ウインドバリア!」


 アルラウネが小さな葉っぱを飛ばしてきた。それがまるで刃のようにボクたちに襲いかかってくる。だがそれはフルール様の魔法が防いでくれた。ガブリエラ先生との特別授業の成果である。危なかった。


「これ以上はやらせませんわ。アースロック!」


 すぐにリーズ様が魔法でアルラウネの動きを阻害する。石の囲いに阻まれたアルラウネはそれを破壊しようと葉っぱをガンガンと打ちつけている。葉っぱでたたく音じゃない。石の囲いが壊されるのも時間の問題なだ。


「相手が植物なら、火に弱いんじゃないかな?」

「そうだ、それだ! クリスも加勢して! ファイヤーボール!」

「はいっ! ファイヤーボール!」


 二つの火の玉がアルラウネを襲う! あれ? なんだか思ったより燃えてないぞ。どういうことなの? 多少葉っぱは黒ずんでいるけどね。そしてすぐに火は消えてしまった。


「もしかして……」

「何か分かったの、リーズ?」

「乾燥していないからだと思うわ。ほら、アルラウネの葉っぱはみずみずしいじゃない?」

「確かに言われてみればそうだね。薪も乾燥していないとうまく火がつかないからね」


 まさかそんなことで防がれるとは思わなかった。思わぬ発見……じゃなかった! 大ピンチだぞ。こうなったら切り札を使うしかない。


「雷属性の魔法を使うから、みんな離れて!」


 さすがのアルラウネでも雷なら効果があるだろう。これがダメだったら、ボクが土属性の魔法でアルラウネの動きを封じ込め続けている間に、みんなに逃げてもらうしかない。

 急いでみんながボクから離れた。よし、やるぞ。


「これで倒れてよね。サンダーボルト!」


 手のひらから放たれた雷がアルラウネを襲う! パリパリと空を切り裂くような音が鳴る。これが大きな音だったら、周りに知らせることができたのに。


「グギギ……!」

「ダメージは入っているみたいだけど、まだ動いてる! しぶといな。あ、そうだ。シロちゃん、ちょっと力を貸してもらえないかな?」

『もちろんでち!』


 そういえば昔、偉い人が上空の冷たい空気を地上に吹きつけて、無限に増える植物を凍らせて倒していたな。つまり、植物は凍らせて倒すことができる。氷属性魔法の効果の低さはシロちゃんでカバーする。


「アイスボール!」


 巨大な氷の玉がアルラウネに当たる。それと同時に玉がはじけ、周囲をあっという間に氷漬けにした。シロちゃんによる威力増幅の効果もあって、ちょっとしたスケートリングのようになっている。これはすごいな。


「やったか?」

『やったでち?』

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