第24話 闇属性
「私も試してみたいのだけど、いいかしら?」
『いいでちけど、たぶん無理だと思うでち』
そう言ってシロちゃんがガブリエラ先生の膝の上に飛び乗った。ほんの一瞬だけ、ガブリエラ先生の顔が、ヨダレが出そうなほど崩れたけど見なかったことにする。みんなも同じことを思ったのか、口が真一文字に結ばれている。
ガブリエラ先生の手元から水が滴り落ちた。あれは初期魔法の飲み水を作り出す魔法だな。加減はしているようだが、ガブリエラ先生は残念そうな顔をしている。
「シロちゃんが言うようにダメみたいね。そうなると、シロちゃんの父親と母親に認定された人にしか、効果を発揮できないということなのかしら?」
『そうでち。パパとママだけでち』
うーん、限定的。そうなると、フルール様はともかくとして、ボクの重要度も高まることになるな。そのうち王族から召集がかかって、お城に閉じ込められることになるのではないだろうか。それはちょっとイヤだな。
そんな思いが顔に出ていたのか、ガブリエラ先生が宣言した。
「ジルベール、心配する必要はないわ。いいこと、このことは他言無用よ。分かっているとは思うけど、一応ね」
ガブリエラ先生から表現しがたいほどのどす黒い魔力があふれ出した。みんなの顔がサッと青くなる。これは闇属性の魔法だな。ガブリエラ先生は水属性と闇属性が使えるという設定になっていたはずである。
ゲーム内での闇属性は、主に相手の魔法を妨害する、防御に特化した魔法だったはずだ。それなのにこんなふうに攻撃にも使うことができるだなんて。本気を出せば、ボクたち全員を恐慌状態にすることもできたはずだ。オシッコをちびりそうだ。……みんなは大丈夫だよね?
「分かってもらえたようでうれしいわ。そうそう、さっきの授業でのことなんだけど……」
そこからはガブリエラ先生があのとき何が起きたのかを教えてくれた。なんのことはない。あの三人がふざけて魔法を使っただけである。それがどうやら妙な具合に組み合わされたようで、巨大な火柱が上がったようだ。
意識を失っていた子も、今は意識を取り戻しているようである。この事故が起きたことで、しばらく魔法の実習は中止されることになるらしい。そしてガブリエラ先生はこれから怒られるようだ。
ボクたちは”ガブリエラ先生は悪くない”と主張したのだが、先生であるために責任を取る必要があるらしい。しかしボクとガブリエラ先生で生徒のやけどを完全に治療したので、そこまで怒られることはないだろうとも言っていた。
「ガブリエラ先生は悪くないのにね」
「そうね。でも、生徒がケガしてしまったことに、ガブリエラ先生も心を痛めているはずだわ。むしろ逆に、何か罰があった方がガブリエラ先生も納得できるのかもしれないわね」
会議室を出て教室へ戻る途中でそんな話をする。ガブリエラ先生の無罪を主張するボクに対して、フルール様は上に立つ者の立場からそう言った。
権力を手にするということはそういうことなのだろう。何かあれば責任を取らなければならないのだ。まあ、うまく逃げようとする権力者は多いけどね。大人ってズルイ。
結局のところ、どうやらガブリエラ先生には庭の草むしりをするという処罰だけですんだようである。ひそかにフルール様が裏で手を打ってくれたのではないかとボクは思っている。あのときの状況をフルール様もよく知っていたわけだし、特別授業でお世話になっている先生だからね。
魔法暴発騒ぎによって、ボクたちのクラスは魔法の授業は遅れることになった。他のクラスでは初級魔法の次の魔法を練習しているのに、ボクたちのクラスは初級魔法をひたすら練習している。
エリクが”狩り大会に間に合わない”とかブツブツ言っているそうだが、そもそも全学年が参加する狩り大会で一年生のボクたちが活躍できるはずはないのだ。邪魔にならないように見学するのが関の山だろう。
そんなおかしなことばかり言うエリクのことが少し気になりながらも、学園は夏休みを迎えた。夏休みの間は多くの生徒が実家へと帰ることになる。ボクもその一人だ。
とは言ったものの、両親は王都に住んでいる。遠くまで移動する必要はないのだ。楽ちんである。家でノンビリするぞ。
そう思っていたのだが、どうやら現実は非情のようであった。
「え! おじい様が倒れた?」
「どうやらそうらしい。夏休みの前日に領地から手紙が届いたんだ。”父危篤、すぐ帰れ”ってね」
「……怪しくないですか、その手紙?」
「……そうだな」
お父様が首をひねっているが、確証はない。そうなれば領地へ行くしかないのだ。
すでに領地へ戻る準備は終わっているらしい。ボクが家に戻ってくるのを待っていたようである。
これはまずい。夏休みはみんなで遊びに行こうと約束していたのだ。急いで手紙を書いて出さなきゃ。受取人はリーズ様でいいかな? フルール様に手紙を送ろうと思ったら、王城宛てになるからね。そしたらフルール様の正体を知っていますと言っているようなものだ。
手紙をしたため、使用人にフォルタン侯爵家へ届けてもらうように頼んだ。宛先を見て使用人が驚いていたが、詳しい話はあとだ。急いで馬車に飛び乗ると、マルモンテル伯爵領へと出発した。
「久しぶりに会ったのに、バタバタしちゃったわね。でも元気そうで何よりだわ」
「お母様も元気そうで何よりです。アルトも元気そうで安心したよ」
「はい、元気です! お兄様は……その、なんだかたくましくなりました?」
「……まあね、色々あったからね」
思わずアルトから目をそらす。本当に色々あった。これまでの人生で一番濃い、三ヶ月だったんじゃないかな? そしてそれはこれからもしばらくは続きそうな気がする。来年には落ち着いているといいんだけどな。
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