第23話 相棒

 ボクとガブリエラ先生が何やら話していることに気がついたのだろう。フルール様とリーズ様、そしてクリスがこちらへとやって来た。来てはダメだと言ったのに、我慢できなかったようである。


「ごめんなさい。どうしても気になっちゃって……」

「フルールが悪いわけではありませんわ。私も気になっていましたもの。ジル様、大丈夫ですか? 無理してませんか?」

「ジルくんが絶対に無理してるってお姉様たちが心配していたわ。もちろん、私も心配だったけど……治療はほとんど終わってるみたいね」


 物おじしない性格なのか、クリスがチラリと倒れている二人を見て、現状を確認していた。それを聞いたフルール様とリーズ様があからさまな吐息をもらした。

 グロテスクな場面をみんなに見せなくて本当によかった。トラウマになるところだった。


「これで治療は完了ね。ありがとう、ジルベール。あなたと相棒のおかげで、この子たちも後遺症を残さずにすみそうよ」

「ガブリエラ先生、相棒ってだれのことですか?」

「もちろん、小さな相棒よ」


 ハッとした表情になるフルール様。その表情を見たリーズ様とクリスも納得がいったようである。口には出さなかったが、ボクの方を見て神妙にうなずいている。

 ガブリエラ先生は男子生徒を呼び、二人を医務室へ運ぶように指示した。そして無傷の生徒から詳しい事情を聞くべく、どこかへと連れて行った。残りの時間は自習になった。


「ジル、さっきリーズも言っていたけど、無理はしてない?」

「大丈夫だよ。無理はしてない。ありがとう、フルール、リーズ、クリス」

「ありがとうだなんて……でもジル様に何事もなくてよかったですわ」

「みんなから色々とウワサされていたわよ」


 クリスの視線を追うと、同じクラスの女子がコソコソと何やらこちらを向いて話していた。ボクがそちらを向くと、サッと目をそらせた。まさかモブのボクがウワサされる日が来るとは思わなかった。


 ボクが追放されずに学園に残ったせいで、本来のシナリオがどんどんと書き換わっているような気がする。これが良いことなのか悪いことなのか。今はまだ分からない。でも、先ほどクラスメイトを助けることができたので、よかったのだと思いたい。

 ゲーム内であんなイベントあったかな? 残念ながら覚えがない。


 ガブリエラ先生が戻ってきた。そして今度はボクが呼ばれた。フルール様とリーズ様、クリスがボクを離さなかったので、みんなまとめて連れて行かれた。ガブリエラ先生は首を振っていたけどね。


 連れて行かれたのは小さな会議室だった。テーブルとイスが置かれているだけの、飾り気のない部屋だ。みんながイスに座ったところでガブリエラ先生が口を開いた。


「シロちゃんが一緒にいるみたいね?」

『ここにいるでち。オレ、参上でち!』


 どこでそんな口上を覚えて来るのか。もしかして、フルール様が聖竜の教育の一つとして教えているのだろうか。それはそれで止められないのでどうしようもないな。

 姿を現したシロちゃんはフルール様の膝の上に収まった。隣に座るクリスがシロちゃんをなでている。


「それじゃ、どうしてシロちゃんがいるのかから話してもらえないかしら?」


 ガブリエラ先生に、朝からシロちゃんがボクの部屋に来たこと、そして授業を見たいとせがまれたことを話した。子犬の話をすると、四人とも納得したかのように深くうなずいていた。

 もしかしてみんなも、シロちゃんからおねだりされていたりするのかな?


「ガブリエラ先生、先ほど相棒と言っていたのはシロちゃんのことですわよね。ジル様と何かあったのですか?」

「ええ、そうよ。聖竜の特別な力の一端が発揮されたみたいなの」


 みんなの注目がガブリエラ先生に集まった。


「ガブリエラ先生、どういうことですか?」

「ジルベールから詳しい話を聞きましょう。私も十分な説明を受けていないのよ」


 今度はボクに注目が集まった。ここにいるメンバーはすでに聖竜であるシロちゃんのことを知っている。そこに新しい情報が付け加えられても問題はないだろう。先ほどシロちゃんから教えてもらったことをみんなに話した。


「魔法の効果を高めるねぇ。初めて聞く現象だわ。国の聖竜に関する報告書にはそのことが書いてあるのかしら?」


 ガブリエラ先生がほほを拳でトントンとたたきながら考えている。つぶやきがもれているが、かなりきわどいつぶやきである。フルール様がそれに反応したらどうするつもりなのか。フルール様が王族であることを知っているのは、ガブリエラ先生だけなはずなのに。ボクも知っているけど。


「ねえ、シロちゃん、私も試してみたいんだけど、いいかしら?」

『もちろんでち。ママも試してみるでち』


 シロちゃんにそう言われたフルール様が風魔法を使った。たぶんそよ風を発生させる魔法を使ったのだと思う。だが効果が高まりすぎて、つむじ風のようになっていた。その風に押されてイスごと転げてしまった。


「ジル、大丈夫!」

「だ、大丈夫だよ。ちょっと油断しただけだから。みんなに被害がなくてよかった」

「ごめんなさい。まさかこんなことになるなんて思わなくて……」


 ションボリとするフルール様の頭を”なんともないよ”とポンポンする。

 そしてやったあとで気がついた。これって、かなり親しい間柄、例えば恋人同士とかでないと女性は不快に思うんだった。


 これはまずい。しかもこの国のお姫様の頭をポンポンしたのだ。ギロチンの刑に処されてもおかしくはない。

 内心でアワアワとしていたのだが、当の本人はなんだか満足げな表情でほほ笑んでいる。


 これは許された感じかな? 次からは気をつけないと。なでなでもダメだぞ。倒れたイスを起こしていると、リーズ様がすぐに手伝ってくれた。


 侯爵令嬢にこんなことさせてもいいのかな? そんなことを思いつつお礼を言うと、リーズ様が頭を差し出して来た。これは……なでろということなのかな?

 何かを期待するようなまなざしに負けてリーズ様の頭をなでる。いいのかな~こんなことして。でもリーズ様が満足そうな表情をしていたのでヨシということにしておいた。

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