第20話 新しい魔法

 返事に困ったボクを見かねたのか、ガブリエラ先生は首を左右に振った。その様子はまるで”打つ手なし”とでも言いたそうであった。


「エリクは相変わらずね。学園でも、外でも、自分が一番だと思っている節があるわ。それに比べて、ジルベールは偉いわね。普通、平民が伯爵家の長男に向かってあんな態度を取ったら、手打ちにしてるわよ」

「手打ち! そんなことしませんよ」


 慌ててボクの護衛を見た。ひい、ふう……うん。ちゃんといるね。エリクを追いかけて後ろからバッサリなんてことはなさそうだ。だが剣の柄に手をかけている。命令があれば即座に成敗しに行くことだろう。貴族って怖い。


 あせったボクはリーズ様を見た。ボクの視線を受けたリーズ様は真顔になったあと、フォルタン侯爵家の護衛を見て静かに首を左右に振った。

 危なかった。マルモンテル伯爵家の護衛の代わりに、フォルタン侯爵家の護衛が成敗に行くところだった。


 だんだんと怖くなって来たぞ。急いでこの場から離れるべく、リーズ様の背中を押す。

 エリクが戻って来て再び遭遇するようなことになれば、今度こそ成敗されるだろう。


「さあ、リーズ、次の場所へ行こう! 時間は有限だからね」

「そ、そうですわね。そうしましょう!」


 ボクの声色に何かを察してくれたようである。リーズ様が次なる目的地へとボクたちを連れていってくれた。

 その後は魔道具店や文具店をめぐり、昼食を食べてからはアクセサリーショップも訪れた。


 場違い感は半端なかったが、デートの記念に四人にアクセサリーをプレゼントした。もちろん学生の身分なのでそんなに高い物ではない。だが、四人ともとても喜んでくれた。

 ガブリエラ先生からは昼食をおごってもらったことだし、そのお礼である。決して三人のプレゼントだけを買おうとしてにらまれたからではない。決して。


「今日は楽しかったよ。みんなありがとう。また行けたらいいね」


 最初こそ、緊張で胃が痛かったが、終わってみればみんなと楽しんでいる自分がいた。みんなも同じことを思っていてくれたらうれしいな。


「好きな物を買って、好きな物を食べる。最高の一日だったわ」

「私も楽しかったですわ。またみんなで行きたいですわね」

「私も楽しかったです!」

『ボクもでち!』

「うふふ、たまにはこんな日もいいわね」


 どうやらみんな、それなりに満足の行く一日になったようだ。そして一日ですっかりとみんなになついたシロちゃん。適応能力が半端ねえ。これが聖竜の力なのか。

 予定通り、シロちゃんはフルール様が飼うことになった。別れ際にシロちゃんが寂しそうにしていたが、しょうがないよね。


 シロちゃんの存在は国家機密に値するものである。そのことは馬車での移動中にガブリエラ先生からしっかりと聞かされている。もちろん護衛たちもである。この話が漏れるようなことがあれば、真っ先に疑われるのはボクたちだろう。そんな危険は犯せない。


「それじゃあね、シロちゃん。元気でね」

『ちょっと待つでち。どうして今生の別れみたいになっているでち? パパのところにもときどき遊びに行くでち』

「やめてよね」


 断固拒否である。そういえば、シロちゃんには姿を消すという能力があったな。それを使えばボクの部屋にだって来ることができるだろう。でもそれってまずいんじゃないかな~? 引きつりそうな顔をなんとか抑えてフルール様の方を見た。めっちゃ苦笑いしている。


「止められないと思うわ」

「なんでそこであきらめるの。もうちょっと頑張ってよ」


 どうやらボクの部屋に遊びに来るのは確定事項のようである。そうだよね、小さくても聖竜様だもんね。その動きを妨げることなんてできないか。トホホ。他の人にバレないように頑張ろう。


 みんなと別れ、男子寮の自分の部屋へと戻ってきた。今日は色々ありすぎて疲れたな。しばらくデートは遠慮したいかな。さすがはヒロインズ。フラグ構築がマジ半端ない。

 まさか聖竜をゲットすることになるとは思わなかった。なんでそうなるのって叫びたい。




 翌日からは、そんなことなど一切なかったかのような日常へ戻っていた。違うことと言えば、エリクがボクのことをますますにらみつけるようになったことと、ときどきシロちゃんが遊びに来るようになったということだろう。


 聞くところによると、どうやらシロちゃんはボクの部屋だけではなく、リーズ様やクリス、ガブリエラ先生の部屋にもお邪魔しているようだ。

 まあ、それはいいんだけどさ、そのときにあった出来事をボクに報告する必要はないからね?


 シロちゃん的にはボクが喜んでくれるのだろうと思って言っているんだと思う。でもね、みんなの下着の色や、ガブリエラ先生がスケスケの下着を身につけているなんて情報は要らないからね? 次の日にどんな顔をして話せばいいのか、非常に困る。


 そんなことがありながらも、いつものように特別授業は続いていた。みんなが新しい魔法の練習をしている中で、ボクはガブリエラ先生に一つのお願いをした。


「ガブリエラ先生、ボクに治癒魔法を教えてもらえませんか?」

「それは構わないわよ。私が教えられるのは水属性の治癒魔法だけだけど、いいかしら?」

「もちろんです。その、治癒魔法って難しいんですよね?」

「そうね、簡単ではないわ。傷がどうやって治るのかが分かれば、少しは難易度が下がるかもしれないけどね」


 魔法はイメージも大事である。実際に目の前でその光景を見たことがある方が、使えるようになるのも早いのだ。もちろんそれだけでは魔法を使えるようにはならない。ある程度の才能は必要である。


「ジルが治癒魔法を使えるようになったら、私たちも安心ね」

「さすがはジル様ですわ。取得困難な魔法にも積極的に挑戦しようとするだなんて」

「頑張ってね、ジルくん。応援してるわ」

『むむっ! そういえば、パパからはなんだか不思議な感じがするでち』


 シロちゃんが鋭い目つきでこちらを見ている。不思議な感じって、もしかしてボクに全属性の魔法に対しての適性があることを言っているのかな? まさか、前世の記憶があることじゃないよね。


「シロちゃん、パパは魔法が得意なのよ。色んな属性を最大限まで発揮することができるの。すごいでしょ?」

『すごいでち! 納得したでち!』


 ウンウンとうなずくフルール様。どうしてフルール様までボクのことをパパ呼ばわりしているのか。これはボクもフルール様のことをママと呼んだ方がいいのだろうか。でもこの場でそれをすると、三人から非難の視線を受けそうで怖い。やっぱりやめておこう。



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