第17話 お姫様、聖竜を飼う
あっけに取られるボクとフルール様以外のみんな。まあそうなるよね。何も知らなかったらそんな反応にもなるよね。ガブリエラ先生は両手をワキワキさせて聖竜を見ている。
今すぐにでも捕まえて、詳しく調べてみたそうな様子だ。
いいですよ、ガブリエラ先生。ボクに構わず聖竜を捕まえてどこかへ連れ去って下さい。そうすれば、この状況もなんとかなるかもしれない。
「えっと、これはどういうことなのかしら? 先ほど、ジル様とフルールがラブラブって言ってたけど……まさか」
「リーズ、まさかとかないからね? 変な妄想をしちゃダメだよ。ボクも意味が分からないからね」
「これが伝説の聖竜ちゃん。かわいい……」
クリスも聖竜を触りたそうに両手をワキワキと動かし始めた。二人の怪しい様子に気がついた聖竜がさらにフルール様にしがみつく。くっ、胸の形があんなことになるなんて。眼福です。
「困りましたわね。えっと、聖竜様はどうして私たちの前に姿を現したのですか?」
『呼ばれた気がしたでち』
「呼んでないから」
『まさか、お呼びでない、でち?』
特に思い当たることがないのでうなずいておいた。他のみんなも次々にうなずいている。それを見た聖竜が”ガーン”みたいな顔になった。プルプルと震えている。そのまま橋の下に捨てられた子犬のような瞳でフルール様を見た。
「はうう……よ、呼んではいないけど、私が責任を持って面倒を見るわ!」
「ちょっとフルール、ペットを飼うような感じで聖竜を飼うのはどうかと思うよ? もう一度、封印した方がいいと思うんだけど」
「ジルベールの意見はもっともだと思うけど、どうやって再封印するのかしら?」
「え? えっと、地面に埋めれば……」
『雑! それにそんなことをされたら窒息死するでち!』
聖竜も窒息死するのか。これは思わぬ発見だ。いや、今はそんなことを考えている場合じゃなくて……再封印の方法は分からない。もしかして、このまま連れて帰るしかないのか?
フルール様が面倒を見るというのは理にかなっているな。もともと王家と何かしらの関係があるみたいだし、国としても、お姫様が聖竜をゲットしている方が心強いだろう。ボクなんかが面倒を見るよりもずっとよろしい。
「それじゃあ、フルールが飼うしかないのかな?」
「そうね。フルールになついているみたいだし、そうしてもらいましょう」
ボクの意見にガブリエラ先生が真っ先に賛成してくれた。王家が関わってくる案件なのを知っているので、これが最適解だと判断したようだ。判断が速い。
「まさか聖竜様を飼うだなんて……ところで、勝手にそんなことを決めてもよろしいのかしら。国に報告するするべきではなくって?」
「それについては私が責任を持って報告するわ。そのためには詳細な情報が必要よ。フルール、聖竜様を見せてもらってもいいかしら?」
フルール様が聖竜にうなずくと、パタパタとガブリエラ先生の元へと飛んで行った。
ついに合法なやり方で聖竜をゲットしたガブリエラ先生。
今度はガブリエラ先生の豊満な胸に頭をうずめる聖竜。ぐぬぬ。
もしかして、わざとやってる? ちらりとボクを見たその顔には”うらやましいだろう”と書いてあった。うらやましいです!
「ガブリエラ先生、私も聖竜様を触ってみたいです!」
「私も触ってみたいですわ」
クリスとリーズ様も聖竜と触れ合いたいようである。キャアキャアとガブリエラ先生の近くではしゃいでいる。
三人の目が離れたすきに、フルール様がボクの方へ急ぎ足でやって来た。
「ジル、本当に身に覚えがないの?」
「ないよ、本当に。ボクを信じて」
橋の下に捨てられた子犬のような目でフルール様を見た。う、とフルール様がうめいたような気がした。どうやら信じてくれたようだな。いっそのことジルも一緒に、とかなんとかブツブツと言っているのが気になるが。
まさか聖竜と一緒にボクも飼うつもりじゃないよね?
恐らくフルール様にも身に覚えがないのだろうな。きっと国王陛下になんて言おうか悩んでいるのだろう。ありのままを言えばいいんじゃないかな。ボクはその場にいないから力になれないけどね。ホッ。
「ジル、実はね、私には秘密が――」
「やめてよフルール。ボクはフルールにどんな秘密があっても気にしないからさ。秘密は秘密のまま、そのままにしておいてよ」
危ない、危ない。フルール様から”自分がお姫様であること”を暴露されて、一緒に国王陛下にことの事情を説明しに行く流れになるところだった。さすがにそれは無理だよ。ボクの心臓が止まっちゃう。
「ジル……」
え、何この感じ。ボクを見つめるフルール様の目が潤んでいるんだけど。そこは裏切り者として、”お父さんの脱ぎたての靴下を見るような目”でボクを見る場面じゃないの? なんだかちょっぴりドキドキしてきたぞ。
『むむむっ! 今、パパとママのラブラブの波動を感じたでち!』
「いいからキミはガブリエラ先生にしっかりと見てもらいなさい。特に頭をしっかりと見てもらった方がいいんじゃないかな?」
「ジル様……?」
「ジルくん……」
「何もなかったからね!」
ああもうむちゃくちゃだよ。この聖竜、一体なんのために現れたんだ? ボクとフルール様の関係を結びつけに来たのか、それとも切りに来たのか。そこが分からない。
ボクに指摘されてそう思ったのか、ガブリエラ先生が聖竜の頭をペタペタと触っていた。
「そ、そうだわ! 聖竜様のお名前はなんと言うのですか?」
聖竜の発言が図星だったのか、声色を少し高くしたフルール様がそう言った。そういえば聖竜の名前を聞いてなかったな。ゲームの中では確かフルール様が”シロ”という、見たまんまの名前をつけるんだったっけ。
『名前? 名前はまだないでち。そうだ、パパとママに名前をつけてもらいたいでち!』
なぜそこでボクを巻き込むのか。フルール様に頼めばいいじゃないか。聖竜がパパママと呼ぶたびに、みんなの視線がこちらに向くんだよね。ちょっと恥ずかしい。ボクたちが子作りをして生み出したみたいじゃないか。
「そうね……ジルは何かいい名前はないかしら?」
「え、ボク? うーん、何かかっこいい名前がいいんじゃないかな。聖竜だから、ドラちゃん?」
『うーん、悪くはないでちけど、もっとこう、グッと来る名前がいいでち』
「それじゃ、シロちゃんはどうですか? 真っ白な聖竜にはピッタリだと思うけど」
『いい名前でち! シロちゃんにするでち』
あ、これ”ちゃん”まで名前に入っている感じだ。訂正した方がいいかな? そんなことを思っているうちに、みんながシロちゃんと呼び始めた。どうなってもボクは知らないぞ。
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