第14話 レインボーアローの使い手?

 それから数日のうちに、立て続けに三人が集束魔法を使えるようになった。三人とも使えるようになったのでちょっとホッとしている。一人だけ使えないとかになると空気が重くなりそうだったからね。


 三人が集束魔法の練習をしている間、ガブリエラ先生から別の課題を与えられていた。それはすべての属性魔法を使えるようになること。

 もちろん習得するのはすべて初級魔法である。それでも一筋縄ではいかないだろう。そう思っていたんだけど……。


「すごいわ! もう全属性の魔法が使えるようになるだなんて」

「さすがはジル様ですわ。光属性に闇属性、初めて見ましたわ」

「お姉様、それだけではありませんわ! 氷属性に雷属性。使える人はほとんどいないって授業で習いましたわ」


 ちょっと練習したら、すぐに使えるようになった。とは言っても、どれもまだアロー系の魔法しか使えないんだけどね。それでも十分すごいようだ。

 なんというか、アロー系の魔法を使うコツを習得したみたいなんだよね。それが他の属性の魔法を習得するのにとても役に立ったようだ。


 今のボクは全属性のアロー系魔法を使える、レインボーアローの使い手である。そんな名称があるのかどうかは知らないけど。


「ジルベールの中にこれほどの才能が眠っているとは思わなかったわ。これは将来が楽しみね。大賢者シリウスの生まれ変わりと言われるかもしれないわ」


 ガブリエラ先生もニッコリである。いや、ただのニッコリじゃない。なんだか顔が上気しているように見える。まさか、ロックオンされちゃった? 夜寝るときはしっかりと窓に鍵をかけておかないといけないな。


 そんなガブリエラ先生の様子を危ないと察してくれたのか、フルール様が流れを変えようとガブリエラ先生に向き直った。


「ガブリエラ先生、全員が集束魔法の使い方を習得しましたし、次はどのような授業を行うのですか?」

「おっと、そうだったわね。ここからはジルベールがファイヤーボールを覚えたように、一つランクが上の魔法を練習しましょう。使える魔法が増えれば、やれることが増えるわよ」


 確かにそうだな。一部の生徒をのぞいては、まだアロー系の魔法くらいしか使えない。それに同じ火属性の魔法でも、相性がある。人によって使える魔法と使えない魔法があるのだ。

 それを早く知るためにも、新しい魔法の練習はみんなの望むところだろう。


「具体的にはどんな魔法を教えてくれるのですか?」

「ジルベールは中級魔法のファイヤーランスにしましょう」

「中級魔法!」


 いいのかな。それって、普通なら来年習う魔法だよね。でもガブリエラ先生がそういうのなら大丈夫なのかな? テンションが上がったのはボクだけじゃなかった。三人の表情も期待に満ちている。


「フルールはウインドバリア、リーズはアースロック、クリスティーナはファイヤーボールにしましょう」

「私とフルールは支援魔法なのですわね」

「そうよ。四人でバランスよく魔法を覚えた方が、いざというときに戦略の幅が出るわ。あなたたちはいつも四人で一緒なのでしょう?」

「はい。四人で一緒です! 頑張ろうね、リーズ」


 とびっきりのいい笑顔を見せるフルール様。四人一緒で扱われたことがとてもうれしいようである。ちょっと苦笑したリーズ様だったが、満更でもなさそうである。




 ランクが上の魔法を覚えるのは簡単ではない。なかなか思うように魔法が習得できない日が続き、もんもんとしていたある日の夕食。

 空気の重さを感じ取ったフルール様が一つの提案をした。それはすぐにリーズ様とクリスに受け入れられることになる。


「明日の休みはみんなで一緒にどこかへ出かけましょう! 今の私たちに必要なのは心のリフレッシュだと思うわ」


 実にいい考えだと言わんばかりの笑顔である。だがちょっと待って欲しい。フルール様はこの国のお姫様なのだ。学園内なら自由に動き回ることができるのであろうが、学園の外に出るとなれば大問題になるのではないだろうか?


「大丈夫かな?」

「あら、心配は要りませんわ。私の家からちゃんと護衛を出しますわよ」

「そっか。リーズがそう言うなら安心だね」


 この場に侯爵令嬢がいてくれてよかった。当然、王家からも護衛がつくだろうが、それは影ながらの護衛になるはずだからね。そうなると、フルール様とは距離があいてしまう。万が一の場合には圧倒的に不利だ。


 その点、リーズ様の家から護衛が出れば、それはボクたちのすぐ近くで護衛することになる。これなら心強い。さすがにボク一人では何かあったときに守れない。そのくらいのことは自覚している。みんなを逃がすくらいならなんとかなると思うけどね。


「それじゃ決まりね。明日の朝八時に正門に集合よ」

「明日が楽しみです!」

「朝八時! リーズ、護衛の手配は大丈夫?」

「大丈夫ですわ」


 そう言ってリーズ様がダイニングルームの入り口に立っている人物を呼んだ。リーズ様が何やら話すと、その人は早足に去って行った。きっと今から急いで報告しに行くんだろうな。リーズ様が”わがまま令嬢”みたいに思われないといいんだけど。

 念のためボクも護衛を呼んでおこう。多くて問題になることはないはずだ。


 夕食が終わるといつものように特別授業が始まる。なんだか気合いが入っているボクたちに気がついたガブリエラ先生に明日のことを話すと、納得してもらえたようである。


「なるほどね。あなたたちが優秀だから、つい、内容を詰め込みすぎたかもしれないわ。確かに気分転換は必要ね。しっかりと楽しんで来なさい。ジルベール、しっかりエスコートするのよ」

「エスコート! そんな仰々しいものじゃないですよ、ね?」


 恐る恐る振り返った。そこには期待に満ちあふれた目をした三人娘がいた。これはひょっとしてボクだけリフレッシュできないやつなのでは? トホホ。出かける前に胃薬を飲まなきゃ。

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