第13話 ただいま魔法の特訓中

 まずは基本の確認から始まった。それぞれが魔法的に向かって魔法を放つ。ボクとクリスは火属性、フルール様は風属性、リーズ様は土属性である。それなりに得意属性がばらけていて、いい感じなのではなかろうか。ここにガブリエラ先生が加われば水属性が追加されるので完璧な布陣である。


「ひとまずは問題はなさそうね。クリスティーナもお手本が近くにあるおかげか、動作がずいぶんとよくなったわよ」

「ありがとうございます!」


 お手本、それすなわちボクのことである。ガブリエラ先生に言われて何度もクリスの前で披露したかいがあったと言うものだ。これで四人そろって同じスタートラインに立つことができた。


 そこからボクたちはガブリエラ先生から魔力を集束させる方法を習った。これが威力アップの鍵となるようだ。しかし、その日はだれも習得することができなかった。

 やはり習得難易度はかなり高いようである。だが逆に言えば、これを習得することができれば、他の人よりも何歩も前に進むことができるのだ。


 その後もボクたちは特別授業を受けながら学園生活を過ごしていった。いつまでたっても追放されないボクを、エリクが忌ま忌ましそうな目で見ていたが知ったことではない。知らんぷりをしていた。


 どうもエリクはハーレムエンドを望んでいたみたいなんだよね。でも残りの三人がエリクには無関心。それで三人と仲がよいボクのことを敵視しているようだった。ボクがいなくなればすべて解決する、なんて怖いことを考えないよね?


 まあ、特定の場所以外での魔法は禁止されているし、もし魔法を使えば犯罪になる。学生だからといって許されないのだ。むしろ、学園に入学するときにしっかりと規約を結んでいるので、容赦なく罰せられる。


 その昔、魔法を使ったことでギロチンになった人もいるそうだ。ボクなら怖くて使えないね。その辺りをエリクがどう思っているかは分からないけど。常識があればそんなことはしないだろう。


「ジル、今日も頑張りましょうね。今日こそできるようになるわよ」

「そうだね。ガブリエラ先生がフルールは筋がいいって言ってたからね。きっともうすぐできるようになるよ」


 特別授業を受け始めてから一ヶ月ほど経過したが、まだだれも習得していなかった。ガブリエラ先生には焦りの色は見られなかったが、ボクたちは”もしかして才能がないのでは”と不安に思うようになっていた。


 そんな中、ガブリエラ先生は”できるようになるまでにはそれなりに時間がかかるから焦らないように”と何度も言っていた。そうだよね、そんなに簡単にはできるようにならないよね、とお互いに慰め合っていたのだが、少しずつ心の奥底に焦燥感は募っていった。


 その日の特別授業でボクはファイヤーアローを集束させることに成功した。魔法的に当たったファイヤーアローの音がいつもとは違ったのだ。それはガブリエラ先生がお手本として見せてくれたときに聞いた音と同じだった。シュン、ではなく、ジュバッ、である。


「今の音ってもしかして……」

「おめでとう、ジルベール。どうやらうまくいったみたいね。一ヶ月でできるようになるだなんて驚きだわ」

「すごいわ、ジル! 何かやり方をつかんだのなら教えて欲しいわ」

「さすがはジル様ですわ。思った通り、才能にあふれてますわね」

「すごいです!」

「ありがとう、みんな」


 そこからはボクが何となくつかんだコツのようなものを教えた。そのコツというのは、ファイヤーアローを放つ前に、ほんのわずかだけその場に魔法をとどめることである。そのわずかな間に魔力をめい一杯込めるのだ。


「ちょっとだけ魔法を放つのを止める……なるほど」

「考えたこともありませんでしたわ。でも、止めることなんてできるのかしら?」

「あら、面白い考えね。確かにそれができたら、魔力を込める時間ができるわね」


 ガブリエラ先生も半信半疑の様子だったが、それを意識するようになってから、何となく魔法的に当たるときの音が変わってきたように感じた。みんなも手応えを感じているようである。

 見た目には止まっているように見えないのだが、気持ち的には一瞬止まっているのだろう。


「今までは雲をつかむような感じだったけど、なんとなくいけそうな気がするわ」

「あら、フルールもそう思うの? 私もよ。もうちょっとでできそうな気がしますわ」

「ううう、私はまだ……あ、今、何となく止まったような気がします!」


 ワイワイと騒ぎ出す三人娘。その様子をガブリエラ先生が満足そうに見つめている。きっとフルール様に友達ができたことを喜んでいるんだろうな。


 口には出さないけど、フルール様がいるクラスの担任になったということは、様子を見て欲しいと上から言われているはずだからね。そして他にも秘密のミッションがあるのかもしれない。


 その一つが友達を作ることだろう。フルール様の兄である皇太子殿下も、学園で側近となる親友を何人も作っていた。フルール様にも同じように、頼れる友達を作ってもらいたいと国王陛下が思っていても不思議ではない。


 ボクも安心して三人を見ていられる。この三人なら大丈夫。身分の差など関係なしに、お互いを尊重し合っている。ただ、フルール様がお姫様だと打ち明けたときに、クリスは卒倒しそうだけどね。


 そのときは気をつけておかないといけないな。今からクリスを支える練習をしておこう。そのためには筋肉が必要だな。夜寝る前の訓練に、腕立て伏せを追加しておこう。


 さっきの感覚を忘れないようにボクも練習に加わる。アドバイスをしながら練習を続けたが、その日に習得することができたのはボクだけだった。だが、三人とも手応えを感じていたようなので、すぐに使えるようになるだろう。そんな気がした。

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