チュートリアルで退場するはずだったモブですが、実は最強の魔法使いになる素質を持っていたようです

第12話 魔法の可能性

　ガブリエラ先生にエリスの聖水を返す。先生はすぐにそれを胸元へとしまった。きっと大事な物なんだろう。でも、いくら思い出そうとしても、昔の記憶の中にそのようなアイテムはなかった。当然、ガブリエラ先生がそのようなアイテムを持っているという描写もなかったはずだ。

　突如として新たな記憶がよみがえったりしない限り。

「エリスの聖水はね、魔力を蓄えることができるのよ」

「魔力を蓄える？　そんな力があるようには見えませんでしたけど……」

「みんなは色が消えるのを見たはずよ。あれこそが魔力を吸収して起こる現象なの」

　色が消えたのは、込めた魔力が発散しているからじゃなかったんだ。不思議な液体だな。どこでどうやって手に入れるのだろうか。買えると言うことは、どこかでその液体を入手できるはずだよね。

「ガブリエラ先生はそれを使って何をしているのですか？」

「魔法の研究よ。この世界にはね、まだまだ解明されていない魔法がたくさんあるの。そして魔法によっては膨大な魔力が必要になる。そのときにこれを使っているのよ」

　膨大な魔力が必要になる魔法。それって危険なんじゃないかな？　まあ、ガブリエラ先生がそんな危険な魔法を悪いことに使うことはないだろう。使うことがあるとしたら、王国で何か緊急事態が起こったときのはず。そんな日が来ないで欲しいと思う。

「すごい研究をしているのですね。もしかして、今特別授業ではだれも知らない魔法を教えてくれるのですか？」

「そうね、そろそろ特別授業を始めましょうか。さすがに未知の魔法を教えるわけにはいかなわ。あなたたちには魔力量を増やす訓練と、威力を高める訓練をしてもらうわ」

「威力を高める、ですか？」

　始めて聞く話だ。魔法の威力はだれが使っても同じ威力であると教科書に書かれていた。ガブリエラ先生の話はそれと矛盾する。昔の記憶の中で使っていた魔法も、多少のばらつきはあるものの、同じくらいのダメージが表示されていたはずだ。

「このことは、ごく一部の魔法使いしか知らない事実なのよ。この事実が公になれば、大問題になるわ。それこそ、学園は封鎖されることになるし、魔法を使うのは全面的に禁止になるはずよ」

「そんなにですか？」

「そうよ。考えてみてちょうだい。ただのファイヤーアローをとんでもない威力にまで高めることができるかもしれないのよ。初級魔法、中級魔法といった区切りがなくなるわ。すべてが危険な魔法になるの」

　シンとその場が静まり返った。確かに危険だ。子供が使うファイヤーアローだと思ったら、ファイヤーランスの威力だった。何を言っているのか分からない状況になるだろう。間違いなく世界は混乱する。

「あの、そんな危険な方法を私たちに教えてもいいのですか？」

「もちろんよ。あなたたちならこのやり方を習得しても悪いことには使わない。そうでしょ？」

「もちろんですわ。フォルタン侯爵の名に誓って、お約束いたしますわ」

　リーズ様の言葉を皮切りに、ボクたちもガブリエラ先生と約束した。まさかそれほど先生から信頼されているとは思わなかった。胸が熱くなるな。そう思っていたときが、一瞬だけボクにもありました。

「もっとも、それを必ず習得できるとは限らないのだけれどもね」

　思わず”ズコー”って転びそうになった。だれでもできるわけじゃないのか！　そうなると、モブのボクは習得できないかもしれないな。他の三人はヒロイン候補だし、ガブリエラ先生もそうだ。ヒロイン補正がかかっているかもしれない。

「でも、あなたたちなら大丈夫。習得できるまであきらめないでしょう？」

　確かにそうかもしれないな。それなら必ず習得できることになるだろう。……学園を卒業するまでの三年間を費やすことになるかもしれないけどね。これは一ヶ月でやめるわけにはいかなくなったな。こんなボクでも、女の子にはいいところを見せたいと思うくらいのプライドはある。

「ガブリエラ先生、特別授業を始めましょう。絶対に習得してみせますよ」

「その意気よ、ジルベール。それじゃ、特別授業を始めるわ」

　こうしてガブリエラ先生による特別授業が始まった。基本となるのはやはり得意属性である。ボクの場合は、まずは得意属性で威力を高める方法をマスターし、そこから他の属性へ広げていく。

「あの、ボクはどの属性で練習すればいいんですかね？」

「そうだったわね。どうしましょうか。うん、やっぱり一番使い慣れている火属性でやりましょう」

「分かりました」

「全属性が得意だなんて。やっぱりジル様はただ者ではありませんでしたのね」

「いや、ただ者だよ。リーズ、間違ってもクラスで言いふらさないでよね。みんなもだよ」

　うわ、どうして四人とも嫌そうな顔をするんだ！　もしかして、明日、言いふらすつもりだった？　危ない、危ない。ギリギリセーフだった。明日からいきなりみんなの目が変わるとか、耐えられないよ。それにこのことをエリクが知ったら、ネチネチと粘着してきそうで嫌だ。

「ううう、ジルのすごさをみんなに知ってもらうチャンスなのに」

「ジル様がそう言うのであれば……」

「やっぱり言ったら大騒ぎになるよね」

「残念だわ。自慢できると思ったのに」

　どうしてそんなに教えたがるんだ。それで矢面に立つのはボクだからね？　しかもなぜか、ボクのことを自慢する形になっている。ボクとしてはあまり目立ちたくないんだけど……。