第10話 フラグ構築中?
特別授業は夕食が終わってから行われることになっている。そのため、ボクたちは早めに夕食を食べることにしていた。これで夜食を食べたりしたら太るだろうな。気をつけないといけない。
「さあ、これで宿題は終わりましたわ。時間もいい頃合いですし、食事に行きましょう」
「フルールお姉様、もうですか? 少し早いのではないですか?」
ボクたち三人は顔を見合わせた。
特別授業のことをクリスさんに話してもよいものか。ガブリエラ先生からは特に秘密にするようにとは言われていない。だが、特別にボクたちにだけ行われる授業なのだ。秘密にしておいた方がいいのではなかろうか。
不穏な空気を敏感に感じ取ったのだろう。クリスさんの顔色が悪くなっている。今にも泣き出しそうだ。さすがにこの場で泣かれるとまずい。これは話した方がよさそうだな。
さいわいなことにクリスさんはフルール様とリーズ様を崇拝しているようだ。悪い結果にはならないだろう。
「実は、ボクたちこれからガブリエラ先生の特別授業があるんだ。秘密にしろとは言われなかったけど、だれにも言わないで欲しいかな」
「そうなのよ。だから早めに夕食を食べる必要があるのですわ」
「ガブリエラ先生の特別授業……」
クリスさんがつぶやき、アゴに手を当てて考え始めた。考え始めたということは、自分も一緒に受けることができないかと考えているのだろう。ボクたちはクリスさんが口を開くのを静かに待った。
「あの、ご迷惑でなければ私もご一緒させていただけませんでしょうか? ガブリエラ先生にダメだと言われたら、近くで見学しておきますので。お願いします」
そう言うとテーブルにおでこがつきそうなくらいに頭を下げた。どうやら、ただついて行きたいというだけじゃなくて、本当に一緒に受けたいようである。ボクたちは顔を見合わせてうなずいた。
「分かりましたわ。ガブリエラ先生に掛け合ってみましょう。学習意欲のある生徒に受けてもらいたいとおっしゃっておりましたからね。その点、クリスは合格だと思うわ」
「うふふ、私もそう思うわ。ジルもそう思うでしょう?」
「きっとガブリエラ先生もいいって言ってくれるよ」
「ありがとうございます!」
方針は決まった。次は食事だ。ボクたちは昨日と同じく、高位貴族の子供が使用することができる特別な食堂へと向かった。もちろんクリスさんを引っ張って来ている。
「あ、あの! 私がここを使うのはよくないと思いますわ。私は下の食堂で……」
「あなたは何を言っているのかしら。私の許可があれば大丈夫ですわ。先ほどからそう言っているではありませんか」
「そうよ。クリスにはテーブルマナーも教えてあげないといけないものね」
青い顔をするクリスさん。自信がないんだな。助けて欲しそうな瞳でこちらを見ている。助けてあげたいところだけど、クリスさんは二人を見習って、立派な淑女になるんだよね? このくらいのマナーは身についていて当然だと思う。あ、そうだ。
「それならさ、ボクも一緒にテーブルマナーを教えて欲しいかな。一応、家庭教師の先生からは及第点をもらっているけど、もっと上を目指したいんだよね」
一人でテーブルマナーを習うのは緊張してしまうかもしれない。でもそれが二人ならどうだろう。少しはリラックスして食事をすることができるのではないだろうか。ナイスアイデア。自分の発想力が怖い。
「ジルは頑張り屋さんなのね。もちろん構わないわよ」
「さすがはジル様ですわ。その向上心、私も見習わなければなりませんわね」
喜びの表情になる二人。驚いたように目を大きくするクリスさん。でもすぐにスズランのような笑顔になった。ちょっぴりほほが赤い。もしかしてボクの意図に気がついたのかな? そしてもしかして、変なフラグを立てちゃった? どうかそうではありませんように。
マナー講習つきの夕食になったが、それほど緊張することなくおいしく料理を食べることができた。それはボクだけでなかったようで、クリスさんも楽しそうにしており、おいしい、おいしいと言って食べていた。
学生寮の食事は無料である。そのため、ここの高級料理もタダである。クリスさんはものすごく恐縮していた。すぐに慣れるよ、きっとね。
食事の会話の中で、お互いに普段通りに話そうと言うことになった。結局、クリスの”お姉様呼び”は直らなかったけど、お互いの距離は縮まったと思っている。
「ここが約束の場所ですわね」
「いつも使ってた場所だね。ちょうど一番端だし、他から目立ちにくくていいのかな?」
「いつも使ってる、とは?」
眉をひそめたクリスにこの場所でボクがいつも魔法の練習をしていたことを話した。全然気がつかなかったようで驚いていた。そしてそんな発想ができたボクを尊敬のまなざしで見ているような気がした。……なんだかまずくない? だんだんとフラグが構築されていっているような気がするんだけど。
「あら、人数が多いわね」
「あ、ガブリエラ先生、これには深い訳が……」
「別に構わないわ。それじゃ特別授業を始めるわよ」
別に構わないんかーい! 少なくとも食事中に三回は、どうやってガブリエラ先生を説得させようかという話が出たぞ。あのみんなで悩んだ時間を返して欲しい。まあ、無事にクリスも許可をもらえたみたいなので、結果オーライなんだけどね。
「まずは……そうね、あなたたち、”聖水見式”はやったことがあるのかしら?」
「聖水見式?」
「私はあります」
「私もありますわ」
ボクとクリスが首をひねる一方で、フルール様とリーズ様はその”聖水見式”というものをやったことがあるらしい。腕を組んだガブリエラ先生は一つうなずくと、豊満な胸の谷間から何かを引き出した。ヤバイ、おっぱいぷるんだ。三人も大きいけど、先生が一番だった。
「聖水見式というのはね、”エリスの聖水”と呼ばれる特殊な液体に魔力を流すことで、その人の得意な属性を知ることができるというものよ」
「え、そんなことができるのですか! あれ、でも、どうしてそれを入学式のときにやらないのですか? 得意な属性を知っていた方が、どの魔法を重点的に練習すればいいか分かりますよね」
クリスも同じことを思ったのか、ウンウンとうなずいている。クリスだけじゃない。フルール様とリーズ様も気になったようだ。じっとガブリエラ先生を見ている。
そんなボクたちを見て、ガブリエラ先生が両腕を組んで、拳でほほをトントンし始めた。
「そうね、理由は二つあるわ。まずはこの”エリスの聖水”がものすごく貴重だということよ。聞いた話だと、その昔は入学した生徒全員に”聖水見式”をやらせていたそうよ。でも、何度か破損することがあってやめたみたい。要するにお金の問題ね」
なるほど、お金か。確かに初めて聞く名前のアイテムだし、きっとものすごく高いんだろうな。うっかり落として割れたとしても、学園はお金をもらっている立場だし、親に請求できなかったんだろう。
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