第9話 図書館
授業開始のチャイムが鳴り、今日の授業が始まった。まずは昨日の実力試験についての話だった。ガブリエラ先生が何を見ていたのか。そして何が足りていないのかを教えてくれた。
でも、喜ぶべきか、悲しむべきか、ボクに当てはまるところはなかった。つまり、ボクは問題ないということだ。たぶんフルール様も当てはまるものはないだろう。リーズ様はどうかな? 実力試験のときはまだ話したことがなくて、しっかりと見ていなかったんだよね。今日から始まる特別授業で見せてもらおう。
ボクがちゃんと見てなかったなんて言ったらガッカリするかな? でもウソをつきたくない。ちゃんと謝ればリーズ様も許してくれるはずだ。
そんな感じで授業は進み、今日もたくさんの宿題が出された。悲鳴を上げる生徒や、だれかと一緒に宿題をするつもりなのか、余裕のある生徒など様々だ。エリクは余裕そうである。きっとヒロイン候補の三人と一緒に宿題をするんだろうな。
授業終了のチャイムが鳴ると、すぐにフルール様とリーズ様がボクのところにやってきた。
「今日もたくさん宿題が出たわね。どこで宿題をしましょうか?」
「やはり図書館がいいのではないでしょうか? 机もたくさんありますし、調べ物もすぐにできますわよ」
「そうだね。三人になったし、広い場所がいいよね」
ボクの言葉を聞いたリーズ様がピタリとその動きを止めた。そのままブリキの人形のように”ギギギ”と音がしそうな様子でこちらを振り向いた。聞き捨てならない感じである。
あれ、何か悪いこと言ったかな? フルール様を見ると首をかしげている。
「その、これまではどこで宿題をやっていたのですか?」
「フルールの部屋だよ。ボクの部屋はちょっと散らかってるからね。その点、フルールの部屋はいつもキレイで清潔なんだよ」
たぶんだけど、あの部屋はあまり使っていないのだと思う。あまりにも生活感がなさ過ぎる。確かフルール様は先生たちが宿泊している”教員棟”に正式な部屋をあてがわれていたはずである。それはそうだよね。最重要人物だもん。セキュリティーがもっとも高い場所にいるのは当然だ。
「な、なるほど。お互いの部屋で宿題をするという手もありますわね」
「そうだけど、さすがに三人だと狭く感じると思うよ。ギュウギュウになっちゃう」
「ギュウギュウ! ……わ、私は別にそれでも全然構いませんわ」
顔を赤くしてうつむくリーズ様。やだこの子、何かすごい妄想モードに突入してない? 危険だ。危険すぎる。これは何としてでも図書館に行かなければならないな。フルール様もそう思ったらしく、二人でリーズ様を図書館へと引きずって行った。
学園の図書館はだれでも使っていいことになっている。ここでは上級生も下級生もない。みんな平等に本を読んだり、調べ物をしたり、勉強したりすることができるのだ。ただし、あまり大きな声で騒ぐことはできない。
よく見ると、クラスメイトの姿も見えた。どうやら考えることは同じようである。ボクたちは図書館の片隅に席を確保した。ここならあまり目立たないはずだ。
「それじゃ、手分けしてやろう。あんまり時間をかけすぎると、特別授業に遅れちゃうからね」
「時間には余裕があるわ。焦らなくても大丈夫だと思うわよ」
「そうですわね。私たちがそろえばすぐに終わりますわよ」
そんなに簡単に終わるかなぁと思っていたのだが、ここには学年上位三人がいるんだった。ボクの心配をよそに、あっという間に終わった。図書館の本なんて必要なかった。あとは夕食の時間までおしゃべりしていようかなと思っていたのだが、そうはいかないようだった。
「あ、あの、私も一緒に宿題をさせてもらってもいいですか?」
「あら、あなたは確か……」
「クリスティーナです。クリスティーナ・シュチェルボヴァーです。クリスと呼んで下さい」
ペコリと音がしそうな勢いで頭を下げた。
何ということでしょう。ヒロイン候補の一人、クリスティーナ・シュチェルボヴァー子爵令嬢がこちらへとやって来た。赤い髪にポニーテールが目印の、おてんばで好奇心旺盛な女の子である。
しかし高位貴族の子供が集まっているところによく来られたな。クリスさんはずいぶんと肝が据わっているようだ。ボクにはとてもできそうにない。すごくモジモジとしてるけどね。
「それは構わないけど、もう終わっちゃったのよね」
「え、もうですか! さすがですわ。あ、それじゃあ、私は……」
「ああっ! そんな顔をしないで。大丈夫よ。ちゃんと教えてあげるから」
フルール様は実に面倒見がいいようである。すぐに片付けていた宿題を引っ張り出して説明を始めた。フルール様だけにさせるわけにはいかないので、ボクとリーズ様も一緒になって教える。
クリスさんもテストの成績はいいみたいで、スイスイと宿題を終わらせていった。
「ありがとうございます。宿題が多くて毎回大変だったんです。何人かでやればいいのだと気がついたときには、私一人になってしまっていて……」
「分かるわ。この宿題の量を一人でやろうと思ったら大変だものね」
「あの、明日からも一緒に宿題をやらせてもらっていいですか? 明日は今日みたいに、足を引っ張りませんから」
両手で拳を作り、フンスと息を吐いたクリスさん。これはダメだと言えないやつだな。それに断るにしても理由がない。フルール様はすでに保護者のような顔になっているし、ますます無理だな。
「一つ聞きたいのですけど、クリスはどうして私たちのところに来ることにしたのかしら。他にもクラスメイトはおりますわよね?」
グルリと周囲を見るリーズ様。確かにいる。そして先ほどよりも増えているような気がする。エリクの姿はないみたいだったが。
リーズ様がそう言うのはもっともだな。ボクも理由が気になる。返答次第では断ることも考えないといけないな。
「あ、あの、リーズお姉様やフルールお姉様と一緒にいれば、私もお姉様たちのような素敵な女性になれるんじゃないかと思いまして……やっぱり迷惑ですよね。私、昔から両親に落ち着きがないと言われていて――」
「そんなことありませんわ。私がクリスを立派な淑女にして差し上げますわ」
「そうよ。私たちに任せてちょうだい」
どうやらリーズ様とフルール様の琴線に触れたようである。二人がガッチリとクリスさんの手を握っている。よかった。どうやら今回はボクではなく、他の二人にフラグが立ったみたいだ。やれやれだぜ。
本当にそうでしょうか。そんなエンディングってあったっけ?
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