第10話 思わぬ再会
目を覚ますとそこは神崎琢磨のベッドの上だった。
思った通り、転移はセーブポイント、つまるところプレイヤーが最後に眠りについた場所で設定されている様だ。
転移後にダンジョン攻略の報酬として回復がされたからか、背中の痛みは引いていた。
ふと衣服に目をやればボロボロの服も再生されている。
恐らくこれも回復魔法の一環なのだろう。
俺はベッドから起き上がると、まず額に手をやった。
「……やばいことしたな、俺」
失言だった。
いや、失視だったかもしれない。
あまりにも胸を凝視してしまった。
そのせいで愛奈からはさぞ嫌われてしまったことだろう。
なぜ、俺は本物の神崎琢磨みたいなことをしてしまったのか。
次に愛奈と会うことは考えたくもないが、会ったら土下座を決めて許しを請おう。
そう決意を固めて、俺は気になっていた別のことに思考を切り替えた。
「そういえば経験値ってどうなったんだろうか」
原作のゲームで経験値とはキャラのステータスを強化するために用いられていた概念である。
身体能力、魔法、魂の武器の熟練度、などなど。
その項目は多くゲームではそのどれもが数値化されていたが、その世界が現実となった今、経験値を得たといってもどういうものか、よく分からなかったのだ。
もっとも、隠しダンジョン攻略で経験値を得られたといっても貢献度でいえば愛奈に分があるため、俺に振り分けられている経験値は微々たるものかもしれないが。
「たしか、本で読んだけど魔道具で魔力量とかは測定ができるんだっけか」
午前の図書館勉強で、得た知識の一つ。
ちなみに、原作ではそんなものはなかった。
俺は端末を開いて詳しく見ると魔導具専門の店があることを確認する。
外はすでにほんのりと空が藍色に染まっており、店の営業時間も過ぎていた。
……明日、鑑定にしようか。気になって仕方がないけど。
胸の高鳴りを抑えられないでいると、ふと部屋がノックされた。
「……お兄ちゃん、ご飯の時間。これる? 今日は大事な話もあるし」
「ああ、すぐいく」
どうやらもう夕食の時間らしい。
俺と妹の真矢は食卓まで急いだ。
それにしても大事な話? 一体全体なんだろうか。
♦♢♦
頭の中が情報でいっぱいとなりながらも、食事を終えたのち、俺は部屋へと戻った。
しかしだ。困惑を深めるのも無理はないだろう。
なぜなら……。
家庭教師を雇うって急展開すぎるだろ!
そう、大事な話とはそういうことであるらしかった。
どうにも俺が魔法に目覚め毎日特訓している姿を見たからか、両親は俺のために家庭教師を雇うことを水面下で決めたらしい。
まあ、悪友キャラあるあるの一つで、主人公の親友は金持ちなケースが多く、神崎琢磨も家は金持ちだった。
そのため、経済的な余裕は大丈夫らしく、妹も努力している俺に触発されて魔法を頑張りたくなったのだとか。
それが両親の背中を後押ししたことで、家庭教師が近々家に来るらしい。
いや、嬉しいけどさ……何というかシナリオをすでに大幅に変えてしまっている気がする。
現時点をゲームに当てはめると、本編はまだ開始すらしていない状態だ。
少なくとも、神崎琢磨が家庭教師を雇っていた、なんて話は聞いたことがないためシナリオを変えている可能性は十分考えられた。
「……まあ今更考えてどうにかなることじゃないな。それに家庭教師が家に来ることになれば俺が大幅にパワーアップできるのは間違いないだろうし」
強くなるための。
主人公やヒロイン達に追いつくための環境が劇的に良くなるのは間違いない。
スキルのことダンジョンのことについて聞きたいことや知りたいことが山積みな俺にとって家庭教師は有難い存在でしかなかった。
まあ、家庭教師についてはまだ先の話だろうし、後々考えるとしようか。
♦♢♦
翌日。
俺は朝一で端末を開き魔導具総合店に訪れた。
扱っている魔法器具や魔導具が多い場所。
恐らく俺が求めている商品はここにあるだろう。
「……魔力の測定器ですか? え~とでしたら、こちらが良いかと」
いや、値段高いって。
こんなに高いとは思わず俺は苦笑を浮かべて頬をかく。
すると、そんな俺を見かねた店員が他の魔導具を紹介してきた。
「あはは。まあ高いですよね。精度を落とすなら良い中古品がありますけど……いかがされますか?」
「ぜひ、お願いします」
一応、店員さんに見せてもらったが、なんとか買えそうな値段だった。
親にねだれば、新品の性能が良いものも買えただろうが、家庭教師を雇ってもらうことを考えるとそんなことは頼めない。
「えっと、これでお願いします」
あくまで得た経験値、自分の今の魔力量を知りたいだけのため、一先ずそれを購入。
店員さんは機転が利くのか、おずおずと声をかけてきた。
「よろしければ、鑑定は私が見ますがどうでしょう?」
話を聞くに店員さんは冒険者ギルドの受付嬢の経験があったようだ。
そのためか、魔力鑑定も正しく行うことができるらしい。
俺は頷いて早速購入した魔導具で測定してもらうことにした。
手をかざし目を瞑り魔力を器具に流し込む。
「あ~これは申し上げづらいんですが、魔力量が確認されませんね」
「……ま、マジですか……」
「はい、残念ながら」
どうやら期待するだけ無駄だった様だ。
トボトボと肩を落としながら帰ろうとしたところで――――。
「……か、神崎っ」
「えっ」
ふと来客してきた者が視界に映る。
そこにいたのは今一番会いたくない人物であった。
来栖愛奈。隠しダンジョンで死闘を一緒に繰り広げ胸を凝視してしまった、この世界のメインヒロインである。
……ええと、嘘だろ!?
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