第8話 秘策
俺の発言を愛奈は信用していない様子だった。
むしろ、この危機的状況でもジト目を向けられているあたり余程俺は頼りないらしい。
石ころ作戦で信頼は地に落ちたのだろうか。
だが、今回に関していえば……勝機は十分に考えられた。
真剣な表情で愛奈を見やると彼女は小さく息を吐く。
「……まあ、聞くだけなら……ただだから聞く」
「時間がないから助かる……」
この作戦は神崎琢磨の力だけではどうにもできない。
愛奈の協力があってこそ成立する作戦だ。愛奈の武器と神崎琢磨の武器の力が合わさればあのゴートキングも倒せるかもしれない。
変わらずジト目を向けたままの愛奈に指し示すかの様に俺は虚空に右手を突き出した。
そして、‘魂の武器‘を顕現させる。
「来い―――【デスサイズ】」
声に呼応するかの様に、右手に神崎琢磨の武器が召喚された。
禍々しく光る大鎌。その武器に愛奈は目を丸くする。
魂の武器で大鎌なんてのは確かに神崎琢磨以外で見ないからな……。
基本的に多いのが刀か剣、弓といった主要なものが多い。だから愛奈は物珍しさで思わず驚いたのだろう。
「珍しいよな」といって雑談したいところだが、生憎と時間がない。
焦りながら俺は愛奈に向き合った。
「……このデスサイズをあのモンスターに飛ばすことができるか?」
「魂の武器は他者の干渉ができないはずでしょ?」
「そうだな……だから、俺がこのデスサイズを風魔法で宙に浮かす」
愛奈は首を上下に振って先を促す。
「それで、君の魂の
「……言いたいことは分かった。要はあなたの魂の
「そういうことだ」
「そんなんで本当に勝てるの?」
「きっと勝てるはず」
神崎琢磨の魂の武器―――"デスサイズ"。
断ち切れる物がないとされる変わりに使いこなす難度が鬼畜設定の武器。
現状、特訓の甲斐もあってか風魔法で宙に浮かせることは可能となっていた。
振り切れれば一撃必殺の技を放てる武器のため、それはゴートキングに通用するはずだ。
魂の武器は魂の武器でしか干渉することができない———。
それは『ソードマジックラブリー』の世界で言わば掟となっていることだが、これこそがゴート・キング攻略の鍵だった。
「……その眼はホントみたいね」
「し、信じてくれるか?」
「時間もないし………仕方ないわ」
そんなやり取りをしている間にも、ゴート・キングは着実に近づいてくる。
俺は改めて愛奈に向き直った。
「よし、なら確認だ。俺がデスサイズを宙に浮かせるから、君がデスサイズをアイツに飛ばす。それでいいか?」
「分かった……どっちにしろ詰んでるし、あなたに賭けるわ」
仕方ない、と肩をすくめながらも協力してくれることになった愛奈。
時間もないため、すぐさま俺は風魔法を起動する。
「………【小さな風】!」
詠唱に際して、神崎拓磨の武器であるデスサイズが少しずつ宙に浮いていった。
俺は全身の力を込めて、魔力量を上げて風の出力を上げていく。
———ドンドンドン。
地を揺らしながら、ゴート・キングは姿を現した。本来であれば、逃げ出したいところだが、"隠しダンジョン"は倒すか、倒されるか。
その二択しか用意されていない。
正方形のキューブが逃してくれることを許さない仕様となっているのだ。
………ダンジョンに潜って早々、命の危機に晒されてるなんてな………。
緊張感を辺りに漂わせながら、俺は愛奈に合図を送った。
「今だ——!」
俺の掛け声に合わせて、愛奈が自身の魂の
火花が散り、強い衝撃が走る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
思った以上にデスサイズが不動なためか、愛奈は全力を尽くしている様だった。
愛奈の咆哮が耳に心に響いてくる。
その間にもゴート・キングはこちらを捉えると歩みを早めていき————。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
その叫びに呼応するかの様に、デスサイズはゴート・キングに目掛けて飛んでいった。
こちらに歩みを早めてきていたそのモンスターの胴体に穴が空く。
デスサイズ。
その一撃必殺の武器がゴート・キングの身体を貫いたのだ。
「………えっ」
デスサイズの威力を目の当たりにし、愛奈は驚いたのだろう。目を丸くさせ思わず呆然とした表情を浮かべてみせた。
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