第6話 初めてのダンジョン
魔力量を増やす鍛錬、推しの側(魔導図書館)での勉強、神崎琢磨の武器である大鎌――デスサイズを宙に浮かせる特訓。
それらを日々の日課としこのルーチンを送るようになってから、早一週間が経った。
最初はしんどく辛いことも多かったが、最近では割としんどさがなくなってきている。
恐らく身体が慣れてきたのだろう。
午前中は図書館に赴き、そして午後になると家の庭で鍛錬し夜にはぶっ倒れる。
妹にも母にも父にも心配されることが多くなったが、最近ではもう呆れられれつつあった。
(……そろそろ、ダンジョンに挑んでみるのもいいかもしれないな)
高難度のダンジョンに挑むのは実力的にまだ無理そうだが、下位ダンジョンであれば挑戦できるかもしれない。
ダンジョン。
それは怪物が住まう巣窟を総称して名付けられるが、ひとえにダンジョンといってもその種類は多岐に渡る。
というのも、ダンジョンには必ずその中に
例えば岩のダンジョンであればボスはオーク。海のダンジョンであればボスはシャーク。
といった具合に、それぞれのダンジョンにはテーマがあり、それはボスのために設けられている。
(……下位ダンジョンであればスライムのダンジョンが妥当だろうな)
基本的に学生は学園に入学してから、ダンジョンに挑むのが通例とされる。
ダンジョンは、学内ダンジョンと学外ダンジョンに分けられており、学外ダンジョンの方が巨悪な怪物で溢れていることが多い。
卒業後に冒険者を志す者が多いため、その特訓や練習として学内ダンジョンは存在するのだ。
学外ダンジョンに挑むにはギルドで冒険者登録が必要とされるのだが……。
(……なんでか知らんけど、神崎琢磨は冒険者登録を済ませてるみたいなんだよなぁ)
持ち物調査をしたところ、冒険者カードが出てきた。
棚からぼた餅だ。
神崎琢磨は現状、最下層ランクのD級であるため最下層には挑戦できる立場にある。
なぜ入学前に冒険者登録を済ませているのかは謎だが、俺は立場上、学外ダンジョンに挑戦できるわけだ。
特訓の成果も、実戦で試してみなければ意味をなさない。
インプットをしたなら次はアウトプットだろう。
入学――本編開始まであと四週間ほど。
もっと頑張らないとな……!
端末を開き、冒険者ギルドまで俺は急いだ。
♦♢♦
学外ダンジョンを運営管理する冒険者ギルドの移動にそこまで時間は要さなかった。
ギルド内は血気盛んなイメージがあったが、思ったより落ち着きを見せている。
春休みで休日を謳歌している者が多いからなのかもしれない。
さて、そんななか、受付嬢にカードを掲示すれば下位ダンジョンへの挑戦はすんなりと許された。
というわけで、俺は早速ダンジョン内に入ったわけだが、ダンジョンは思ったよりも少し肌寒い。
「ゲーム通り、静かでほの暗いなぁ」
視界がぼんやりとしていて、足元には注意が欠かせなかった。
初めてのダンジョンに不安と緊張、それから形容しがたいほどの期待に俺は瞳を輝かせる。
(ゲームで見た通りの景気がホントに広がってるよ……はは、すげえよ、すげえ!)
心なしか歩みが早くなり、ダンジョンの奥へ奥へ、進んでいくと『ソイツ』は現れた。
――ぺちゃ、ぺちゃ。
液体とも個体とも言い難い最弱種とされるモンスター、スライム。
ゲーム内でスライムは何度も見てきたためか、俺は初めてのモンスター、だというのにぱあっと笑顔に花を咲かせてしまった。
「ははっ、これがスライムか! ゲームで見たまんまの見た目だな」
感動に浸りたいところだがそうもいかない。
いかに最弱のスライムといっても油断は大敵だ。
何せ俺が神崎琢磨に転生して初めての実戦となるのだから――。
地面に音を立てながら近づいてくる固有の形を持たない、スライム。
ソイツが一体、奥の方から跳ねながら近づいてくる。
きりっと瞳を細め、俺はこれまでの成果を実感すべく、意識を研ぎ澄ませた。
「【つじ切り】」
初級魔法である【小さな風】の上位互換。
それは、そよ風を圧縮させた風の斬撃。
俺は鍛錬を重ねたことで、この技の習得に至っていた。
神崎琢磨が実際に使っていた技の一つで、この技が初めて使えたときの感動は記憶に新しい。
詠唱に際し、俺のかざした掌からは魔法陣が現れ、つじ切りが発生した。
標的のスライムに向かって斬撃が向かい、スライムはそれを凌げない。
「よし、やったか!」
斬撃を一撃くらったスライムは光の粒子となって消滅する。
その際にアイテムとしてか、スライムの魔石が床に転げ落ちた。
それを拾いあげると、俺は口角を緩めざるを得ない。
倒した敵は最弱のスライム。
ただのスライムだ。
どの冒険者でも倒すことは容易で苦戦することはまずないといえる。
だが、俺は初めて魔法でモンスターを倒せた。
その事実がどうしようなく俺の心を高ぶらせたのだ。
「……やぱいな、これ……はまりそうだ」
その表情に灯るのは"野望"。
俺はスライム狩りをもっと堪能したいがために、奥へと進んだ。
だが、時に――奥へと進めばダンジョンには罠が存在する。
名を隠しダンジョン。
無作為に高難度のダンジョンに飛ばされる恐れのあるトラップだ。
ゲーム内でそれは地雷として設定されているのだが、この『ソードマジックラブリー』の世界では製作者が悪趣味なのか、その隠しダンジョンに引っ掛かった冒険者をランダムに外部者にその光景を通知し、観測することができるのだ。
俺は偶々、隠しダンジョンを観測する外部者に選ばれたらしい。
そのため、何気なく隠しダンジョンに引っ掛かってしまった冒険者を目にとめたのだが……。
「……あっ、あれって」
そこに映っていたのは、ソードマジックラブリーのパッケージを飾るヒロイン、
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