第4話 初めての魔法

 推しの側で勉学を捗らせ、それからは超基礎的な魔法書と‘魂の武器‘についての本を借りて家に帰ってきた。


 しばらく本を読み進めたが……魔法というのは俺が思った以上に奥が深い。


 書いてあった内容は魔法そのものの定義から超基本的な魔法の使い方まで。


 この借りてきた超基本的な魔法書というのは、初心者のためか、イラストが数多く描かれていて分かりやすかった。

 文章ばっかりは苦痛でしかない。

 だから、非常に助かった。


 現時点で、得た知識を基にするならこの世の生物すべては体内に魔力を秘めているらしい。


 そして、その魔力を消費することで超常現象を引き起こすことができる。


 それを総称して魔法と定義しているそうだ。


 また、魔力の基になるものを魔素といって、これは空気中に含まれているらしい。

 だから、ゲームでは精霊が存在できるって言ってた気がする。本にもそう書いてあった。


 まあ、その精霊やら魔素はさておくとして、今は‘魔法‘だけに着目しよう。


 光を発生させたり、火を放出させたり、水を放出したり、風を巻きこしたり。


 一般的には今挙げたような魔法にはそれぞれが適正があるとされる。


 そして、その適正は魔水晶といった道具で確認することができ、ゲームで神崎琢磨は風の適正がある、と分かっているため……風の魔法を極めたいところだ。


 ちなみに、この適正――通常は一つとされるが主人公やヒロインは何属性も適正を持っている。そのため、彼らはあまりにチートなのだ。


 その彼らに追いつきたいと願うなら、努力は必ず欠かせない。


 裏設定では本当かは分からないが、神崎拓磨は潜在能力だけは一番にしておいたと原作者が零していたしな。


 頑張れば追いつけることは多分だけど、保証されているのだ。


 頑張らないわけにはいかないだろう。


 俺は超基本書に書いてあった魔法を体現すべく、意識を研ぎ澄ませる。


「……魔力の量をあげるには魔法を限界まで使って量を増やしていくしかないみたいだからな」


 いわば筋肉と同じ。

 筋トレしないと筋肉がつかないのと同じで魔力量も魔法を使わねば増えないということだ。

 目を瞑って神崎琢磨の中に宿っている魔力を俺は探知する。


「……なるほどな。これが身体に魔力が宿っているってことなのか」


 それは体内に血液が流れているかのように、肺を使って呼吸を繰り返しているように。

 普段は無意識でやっていることを意識すれば、魔力の探知も自然と行うことができた。


「意識できると、なんか簡単な魔法なら使えそうな気がしてきたぞ……」


 こう身体全体に活力がみなぎっている様なそんな気がしたのだ。

 きっとこれは……魔力。

 ならば魔法に変換できるかどうかで答えはつく。

 俺は神崎琢磨の適正魔法である風の初級魔法を詠唱した。


「【小さな風】」


 今朝、転生して初めて使おうとしたけど使えなかった初級魔法。

 少し知識をつけたからといって、魔力を感じれたからといって実際に使用できるとは断言できなかった。

 しかし、軽く突き出した掌からは確かにそよ風が発生していた。


「……できた、おいおいできたって。……すげえよすげえ!」


 もちろん、"魂の武器"を顕現させた際も驚き感動したが魔法はその感動がケタ違いだった。


 そのあと、何度か詠唱し【小さな風】を使用する。

 すると、またまた掌から小さなそよ風が吹いたことで俺は歓喜に打ち震えた。


「緑の魔法陣も勝手に手の中から発生したし。なんだこれ、ゲームじゃん! いや、そうなんだけどさ……!」


 瞳に光を宿らせてそれからは何度も何度も同じ初級魔法を繰り返す。


 この世界で、こんな初級魔法で感動するのは精々幼児くらなものなのだろが、俺にとってはゲーム知識があるとはいっても実際にこうして目にするのは初めてのこと。


 驚かないわけがなかった。

 しばらくすると、魔力切れを起こしたのか、身体が倦怠感に襲われて魔法が使えない状態となる。


「……これ……意外と、きついな」


 自分でも気づかぬうちに、肩で呼吸をしてしまっている。


 正直言って、かなりきつく身体はふらふらとしてしまっているが、これを繰り返せば自ずと魔力量は増えるはずだ。


 そうすれば、ダンジョンにも冒険にも学園でメインキャラ達にも……。


「……へ、へへっ」


 先の未来を想像すると、思わず俺は口角を吊り上げる。

 すると、そんな神崎琢磨の姿を見てか妹である真矢が口をぽかんとあけてみせた。


「頭、ほんとにおかしくなっちゃったの? お兄ちゃん」

「……え?」


 そこで俺は初めて部屋に真矢が入ってきていたを認識した。


 部屋に入ってきても気づかないほど魔法に感動を覚えていた、ということなのだろう。

 ただ、客観的に見て初級魔法を使いまくって感動している。

 うん、頭おかしくなったと思われておかしくなさそうだな。


「……い、一体いつから見てた?」


 おそるおそる尋ねると、真矢はふうと息をひとつ吐いた。


「ごめんけど、最初から最後まで」

「……あ、まじか」

「うん、悪いけど。だって全然夕飯の時間になっても部屋からでてこないんだもん。ノックしても反応なかったし」

「そ、それはすまんな」

「それで部屋に入ってみたら、初級魔法をへとへとになるまで使っててさ。それで笑ってて……頭おかしくなったのかと思った」

「いやあ、魔法に目覚めてだな」


 とりあえずそれっぽいことを口にして誤魔化す。

 真矢はしばらく怪訝な顔つきをしていたが、納得してくれたのかやがて肩をすくめた。


「……まあいいけど。ご飯の時間だからそろそろ降りるよ」

「分かった、降りる」


 そんなやり取りをして、俺は食卓まで急いだ。

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