第2話 試してみる!

「……どうにも間違いはなさそうだなぁ」


 容姿が神崎琢磨の時点で察するべきだったが、身辺調査をしたところ俺は確信せざるを得なかった。

 どうやら俺は本当に悪友キャラである神崎琢磨になったらしい。

 転生先は不遇でも世界観は最高だ。

 何せこの『ソードマジックラブリ―』の世界は剣や魔法、多種族で賑わうファンタジー世界なのだから。


「―――ということは、デスサイズも召喚できるし魔法も使えるってことだよな?」


 無意識に心臓が高鳴る。

 だが、ソードマジックラブリーの世界ならそれができても不思議ではなかった。

 いや、できなきゃおかしい。できて当然なのだ。

 俺は早速、一度生唾を飲み込んで実際に試してみることにした。

 神崎琢磨が実際にゲームでやっていた様に右手を虚空に突き出し唱える。


「たしか、えっと―――【来い、デスサイズ】」


 詠唱すると、何もない空間から大鎌の掴み手が右手に現れる。

 それを掴むと、重みがずっしりと掌全体に伝わってきた。


「……すげえよ、こりゃすげえ」


 目を見開き感嘆の声を漏らす。

 神崎琢磨の魂の武器――デスサイズは間違いなく俺の右手にあった。

 精巧な作りをしていて、赤と黒が調和した鎌はどこか禍々しく目を惹かれる。


「……は、ははっ。ほ、本物だ。本物っ!」

 

 今すぐ外に飛び出して暴れまわりたいくらいには俺の気持ちは昂っていた。


 続いて魔法。

 こちらも是非使ってみたいところだ。

 基本的な魔法でいえば、【小さな風】あたりが妥当だろうか。

 魔法ではたしか神崎琢磨は風の魔法に適正があったはずだ。

 そのため、俺は誰にでも使える初級魔法――【小さな風】を使ってみることにした。

 とりあえず鎌を握っている反対の手をかざし詠唱する。


「……【小さな風】」


 ……あれ、おかしいな。

 本来であればそよ風程度の小さな風が詠唱に合わせて吹くはずなのだが、詠唱してみても何も変化は起こらなかったのだ。


「やり方が違うのか? たしかゲームではそうやってたはずなんだが……」


 もしかしたら、俺が思っている以上に魔法は複雑なのかもしれない。

 ゲームではクリックすれば勝手に魔法を使ってくれていたため、魔法の原理や仕組みについては見識が全くもってなかった。


 ……仕組みや原理について理解しないといけないのかもな。


 そう推測を立てる。

 だが、どうにも魔法を使ってみたくてうずうずしていると、そこで扉が開かれた。


「お兄ちゃん、そろそろ朝だから―――って何やってるの?」

「えっ……あ、ああ」


 部屋に入ってきたのは、神崎琢磨の妹だろうか。


 ゲームでは神崎琢磨の妹についての話は聞いたことがなかったため、目の前の人物に見覚えがなく思わず戸惑ってしまう。


 そういえば……神崎琢磨は妹がいると作中では口にしていたっけ。

 でも、名前が分からないぞ……。すっごく美少女なのはわかるけど……。

 戸惑っていると、美少女は目を丸くさせ奇異の視線を向けてきた。


「朝ごはんで起こしに来たんだけど……魔法の練習? 珍しいじゃん」

「……いや、ま、まあな」

「なんでそんなにおどおどしてんの?」


 いえるわけもない。

 貴方の名前が分からなくて困ってます、なんてのは口にも出せない。


「でも、やめてよね。ここは一応家なんだし。魔法と武器の練習なら外でやってもらわないと」

「あ、ああ」

「それで、ちなみに聞くけどどんな魔法使ってたの?」

「か、風魔法を使ってたぞ、い、妹よ……」


 内心では困惑しながらやり取りをする。

 無理もない。

 向こうからしたら神崎琢磨とは長年の仲なのだろうが、俺からしたら初対面なのだ。

 近い距離感と言葉遣い、それに可愛らしい容姿をしているためか、挙動が思わず不自然になってしまう。


「な、なんか今日のお兄ちゃん変だね」


 彼女はジトっと目を細めて唇を尖らせた。

 思いっきり不審がられているが、これはチャンスかもしれないとそう俺は思うことにした。

 何せこの世界の住人との接触なのだ。

 色々、家族ということもあって聞けることも多いだろう。


「……それにしても、入学式はまだ先だってのに、気合い入ってるんだね。お兄ちゃんは」

「え?」

「だって、まだ一か月くらい? かな。入学式まで時間空いてるでしょ」


 聞いてもないのに早速、有益な情報ゲットである。

 『ソードマジックラブリー』では本編は学園の入学式から開始することになっている。

 つまり現状を踏まえれば、俺は本編開始前の時間に転生を果たしたということになるらしい。


 本編開始前の時間軸。

 悪友キャラに転生。

 ポテンシャル最強の裏設定。


 今の自分の立場を思い起こすと、俺は無意識のうちに掌を握りこみ瞳に光を宿らせていた。

 その目に映るのは―――"野望"という名の渇望だ。


 この状況……ゲーム知識も備わっている身からしたらかえって最高の境遇じゃないか! 

 メインヒロイン達や主人公と肩を並べながら、俺は学園を満喫できるかもしれない。

 いや、満喫するんだ……!


 そして、最強とチート溢れるキャラ達を凌駕する。

 今の俺ならきっとできるはず―――!

 俺は内心でガッツポーズを決め込んだ。

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