第1話 転生までの流れ
ゲーマーの引きこもり体質でお世辞にも良い人生を送れたとは言えないだろう。
それが俺、
十七歳という青春真っただ中の時期のはずが、あえなくトラックに弾かれてしまったのだ。
もっとも、青春真っただ中と言いつつ引きこもってばっかりなのだが……。
死の直前に走馬灯が見えたが、人生を振り返ってみたときに思い起こされたのはファンタジー世界のギャルゲーの数々だった。
ゲームに明け暮れてばっかりだったからそれも仕方がないのかもしれない。
だけど、人生を振り返ってでてくるのが、家族や友人ではなくゲームだった事実に少し空しい気持ちにさせられた。
もっと実生活で真面目に生きていれば良かったのだろうか。
俺は友達も多い方とは言えなかったし、不真面目だったからな……。
今更後悔しても遅いが、ギャルゲーの世界なら俺は頑張れただろうか。
きっと大好きなゲームの世界でなら、充実したリアルを過ごせたはずだな……。
結局、トラックに弾かれて意識を失うまで頭の中にあったのはゲームのことだけだった。
♦♢♦
目が覚めると、そこは無の空間だった。
何も感じらない無機質な空間。
目の前には玉座というべきか、偉そうな椅子が中央に立てられている。
そこに座っているのは、美を感じさせる形容しがたいほどの美少女だった。
「アンタ、ファンタジー世界なら頑張れるとかぬかしていたわよね?」
凛とした声が響く。
どうにも愉快そうで機嫌が良いのか、声が上ずっていた。
足を組んで見え隠れする太ももに思わず目がいきそうになるが、ぐっと堪える。
「あ、あなたは一体?」
「私は―――」
話を聞くに、目の前の美少女は"女神"らしい。
文字通り女神。人智を超えた存在。
うさん臭さが凄いが、ファンタジー世界に造詣の深かった俺は内心でテンションを高ぶらせていた。
「アンタは選ばれた人間ってわけ。だから、どう? 異世界に転生してみない?」
――異世界。
その響きに思わず目を輝かせる。
行けるのか? 憧れた世界に俺が?
俺は無意識のうちに頷いていた。
「そうよね。アンタならそうすると思ったわ。さあ、どんな異世界にする? アンタが望む世界を選べるわ。もっとも生まれは選ばせてあげられないけどね」
十分だった。
大好きな世界に行けるというなら、生まれは特段気にすることはなかった。
ただ配慮はしてくれるらしい。それなりに良い境遇が期待できそうだった。
俺が選んだのはゲーム世界。
偶然にも女神が提示してきた世界の一覧には、俺が大好きだったギャルゲーのものがあったのだ。
思わず運命を予感し、俺は剣と魔法のファンタジー世界を選択する。
「良い世界を選んだわね。それじゃあ、この世界に行って精々頑張ることね」
クスクスと女神は不適に笑っていた。
その真意は定かではないが、俺にとってもうそんなことは些細なことだ。
大好きなあの剣と魔法のファンタジー世界に行けるだけで十分なのだ。
―――この世界でなら、俺は頑張れる。
その決意を胸に俺の意識は遠のいていった。
♦♢♦
「―――にしても、転生先がコイツとは聞いてなかったんだけどなぁ」
そんな転生に至るまでの流れを整理すると、俺は思わず愚痴をこぼした。
ギャルゲーの悪友キャラ。
今、鏡の前に映っているこの男『
正直にいって、勘弁してほしいところだ。
この神崎琢磨が登場するゲームは『ソードマジックラブリー』といってユーザー数を数多く獲得したギャルゲ界では屈指の名作である。
戦闘型のPCゲームで、ユーザーは学園でヒロイン達とのイベントを進行させたり、戦闘ではダンジョンや敵地で死線を超えていく。
またキャラにはそれぞれ固有の武器が存在していて替えが利かない。
それは魂の武器と言われていて、主人公やヒロインにはチート級の武器が固有の武器とされているのだ。
例えば主人公は【黒の剣】。ヒロインは【妖刀】といったそんな具合だ。
この神崎琢磨にも当然、固有の武器があるのだがかなり使いにくい武器である。
―――大鎌、デスサイズ。
響きだけ聞けばカッコいいが、ギャルゲあるあるのお約束。
主人公以外の男性キャラは性能がそこまで高くない様に設定されてしまうのだ。
―――なぜかって?
そりゃギャルゲで使うなら美少女を使うにきまっている。
ユーザーとは俺を含めてそんなものだ。
野郎より可愛いが優先。
男性キャラを強くしたところで使われないのだから、美少女を強くさせガチャで課金を誘発させる。その方がゲーム会社も利益が出るためそうするのだ。
そして、まんまとその罠に引っ掛かりユーザーは課金を留めることを知らずに沼に落ちていく……。
ただ、神崎琢磨はその不遇すぎる境遇のためか製作者が裏設定として『ポテンシャルだけは作中一にしたんですけどね(笑)。もっともヒロイン達がチートすぎて霞んじゃってますけど』
そんな風に言っていたような気がする。
胸の高鳴りが収まらぬまま、俺は一息ついた。
「……とりあえず近辺調査から始めていくか」
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