悪友キャラに転生したので、ゲーム知識と努力でこの世界を思う存分満喫する
脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー
プロローグ
悪友キャラになんてなるものではない。
理由は単純。境遇が恵まれていないことが多いからだ。
そもそも、悪友キャラとは何なのか簡単に説明しよう。
"悪友"。
それはゲームで言えば主人公の側で騒ぐ三枚目。ヒロインのスリーサイズを主人公にこっそり教えたり、主人公に好きなタイプを聞いたりする冴えないキャラ。
そのいかにもモテそうにない男こそ、悪友に他ならない。
ちなみにその悪友はギャルゲには絶対といっていいほど存在する。
主人公とヒロインのイベント促進のためか、あるいは主人公に恋愛に対しての興味を持たせたい、といったシナリオライターの都合なのか、真意は定かではないが、なぜか悪友はついて回る。
少なくとも俺がプレイしてきたギャルゲは基本的にそうだった。
ハーレム作品で主人公以外に男が登場することが許されない空間でさえも唯一、悪友は許されるのだ。
そりゃどんなシナリオでも悪友がいたって不思議ではないだろう。
さて、そんな悪友だが報われないことにも定評がある。
悪友キャラは普段の素行はお世辞にも良いとは言えないが、人柄で見れば基本良いやつなのだ。
大事な場面で主人公に助言をしたり、喝を入れたり……。
特に主人公がヒロインを選ぶ分岐に入ると、必ずといっていいほど悪友は活躍するのだ。
なのにめっぽうモテない。なぜかモテない。
主人公がモテまくるのを血涙を流しながら、羨ましいぃぃ! とずっと嘆くのが悪友の立ち回りである。
もっとも、ヒロインは全員主人公に好意を寄せてしまう作りとなっているため不遇にならざるを得ないのだが……。
そのため、主人公が(もちろん例外もあるが)勝ち組となる世界で、あるいは主人公に都合の良い世界で、悪友になんてなるものではいないのだ。
繰り返そう。
決して悪友になんてなるものではないのだ。
こと、ギャルゲーの世界では。
なぜなら、そんなキャラに自分がなりにでもしたら人生はハードモードになってしまうから……。
「おいおい……マジかよ。ってか嘘だろ」
女神なんて信用するものではないのかもしれない。
俺は姿見に映る自分の姿に絶句してしまっていた。
鏡に映し出されている自分は自分であって自分じゃない。
前世より顔つきはイケメンになって転生を果たした様だが……そのキャラに問題があった。
「うん、大好きな世界にこれて嬉しい……嬉しいんだが……このキャラはないだろ」
女神からこうして大好きなゲームの世界に転生させてくれたのは、ありがたかったが、このキャラに転生するなんてのは聞いてなかった。
「どう考えてもこいつ……あのモテないで有名な悪友キャラだよな」
そのいかんとかもしがたい事実に俺は口角をひくつかせていた。
♦︎♢♦︎
鏡に映る自分の姿を見て頭を抱え込んでいる男を画面越しに眺める女神は愉悦そうに邪悪な笑みを浮かべていた。
「あははは。何よその間抜けは面は……良い気味、良い気味」
身体をよじらせ、瞳を怪しく光らせる。
美しい顔つきが今は醜く歪んでいた。
きっと今の姿が女神の本性なのだろう。
「アンタの大好きな世界とやらに転生させてやったけど、アンタも他のやつらと変わんないってとこ見せてね? なるべく惨めに。そして精々もがき苦しみなさい? 私、人間の醜い部分が大好きだから」
女神は悪趣味をしている。
お世辞にも性格が良いとは言えなかった。
観測しかできず退屈を持て余す女神は人間の負の感情を楽しむことくらいしか娯楽がないのだ。
「どいつもこいつもそう。ファンタジーの世界に行けると知ったら、目を輝かせる。どの世界にいったって、自分が頑張らなければ報われるはずがないってのにねぇ〜」
やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめると女神は画面に映る男を指さして喜んでみせた。
「アンタもきっとそんな他のやつらと一緒なんだから……。精々大好きな世界とやらで落ちぶれていくのを私に見せるのよ。それが私の快楽なのだから」
先の未来を予想すると、女神は恍惚の表情を浮かべ気持ちを高揚感に包ませた。
ずっと観察している様では、面白味にかける。
他の転生者も観察しつつ、とっておきは熟成させ……後の楽しみとすることにしよう。
女神は鼻歌を歌いながら、画面を切り替えた。
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