永い後日談のネクロニカ-幕間


「ああ、何か面白いことはないのかしら。心が踊って、胸が痛くなって、苦しいような、でもそんな苦しみが快感となるような……」

「なに無茶なこと言ってんの……」

夢見がちな姉を窘めるのは何度目だろうか。末っ子の私が長女に小言を漏らすのは少ないことではない。

でもでもだってと我儘な姉に、ため息を吐く。

「無茶だとわかりきっているから、口に出して気を紛らわせているの。娯楽のないここで、楽しみを見出すにはみんなの力が必要でしょう?」

「はいはい。それじゃシラギクとかに聞いてみれば?」

「シラギクにも、クランにも、カプラにも聞いたのよ。でも、みんなあなたに聞きなさいって」

「厄介払いか……」

いつもこれである。腹八分で満足できないリチアの、あと二分を埋めるのは私の役割だ。

昨日(時間が正しく過ぎていればの話だけれど)は真面目な話をしたし、一昨日はルカとの様子を聞いた。結末は言うまでもない。なんだか身体が軋むような感じがした。マリアが怯えていたのかもね?


閑話休題。今日はどうやってお姉様を満足させてやろうか。満足しない限りずっと私の後ろをついてくるのだから、早めに満足させて用事を済ませたい。

「今日は先生のところに行って勉強をするから、リチアはルカと一緒にいたらいいんじゃない? ルカは今一人で待っているんでしょ?」

「ええ、でもね、今日のルカは『満足するまで一人の時間を楽しんでおいで』って送り出してくれたの! とてもとても、優しかったわ。たまには一人の時間も必要よね、ルカも、わたしも。だから、もう少しルカとは離れておくの」

「ああそう……最近優しいね」

前はずっとルカの頭と共にいたのに、最近は離れている時間が多くなってきた。リチアも落ち着いてきたのだろうか……と思いつつも、ルカのもとへ帰ってはくれないらしい。

それならば、他に出せる話題といえば。

「…………リチアってさ、あの……ええと、なに、その……」

「? なあに?」

「ルカと、どこまで進んだの?」



「ルカと? どこまで……って」

「ああほらなに、そう、あの。キスとか、夜は一緒に寝ているみたいだけど、好きだよって言い合ったりとか……ほら……そういう時って、どうしてるのかなーって?」

私がこんな話題を持ちかけるなんて誰も思わないだろう。それはリチアも同様だったらしく、目をぱちくりと瞬かせている。

そう、私だって、こんなこと、いつもなら聞かないのだ。でも、昨日帰り際に髪を撫でられたから。「かわいいですね」なんて褒められたからだ。褒め言葉と認識しているのもちょっと恥ずかしいことだけど!

とにかく、私の身辺でも色々あったので、恋に恋するリチアなら何か教えてくれるのではと淡い期待があるのは間違いない。真剣な目でリチアを見る。

「それはもう! 好きだと思った時に伝えているし、伝えてもらっているわ。そして、そのときはきちんとお礼を言っているの」

「へえ……例えば髪を撫でられたり、行動で示されてもお礼を言うの?」

「ええ。言葉か行動か、表現の違いだけであって、愛を伝えることに変わりはないのだから」

「ふぅん……愛情表現以外でさ、頭を撫でる時ってないの? リチアはよく私たちの頭を撫でてくれるけど、それとルカの頭を撫でるのは意味が違うでしょ?」

「それはそうだけど……好きな人の頭を撫でるときは、好きだから以外にはないわ、わたしはね。もちろん、貴方たち妹も愛おしくて、可愛らしいから頭を撫でたり抱きしめたりしているけれど」

「……なるほど……じゃあ頭を撫でる意味を理解しないと、好きだって気持ちで撫でているか、ただ愛おしくて撫でているか判別しにくいのか……いやでも愛おしいのと好きって気持ちは大体似てるんじゃないの……?」

だめだ、わからなくなってきた。心の機微はいつまで経っても理解することが難しいって先生も言っていたっけ。

ならば、聞きに行くのが一番早い。

「リチア、ごめん。急用を思い出したから今日はここまで。ちょっと明日また聞かせて」

「えっ、あ、ノーチェ……どうしたのかしら? 難しい顔をしたり、頬を赤く染めたり、まるで恋してるみたい」

リチアに一方的に別れを告げて、先生の元へと急ぐ。


先生が頭を撫でるという行動をするのは、カプラを含め姉妹全員にやっていることだ。でも、それはみんながいる時にしかやらない。……と思っていたが、昨日は二人きりのときに撫でられた。リップサービス付きで。

つまりこの行為は秘密にしてほしいこと? それともいつもと同じこと? 空間にいる人数によって、こんなに気持ちが左右されるなんて初めて知った。そもそも私の気持ちが揺れるのはなぜ?

先生の気持ちを聞けば、理解できるはずだ。そう期待して、ドアをノックする。


その後、先生に「特別に思っている」と語られて、キャパ超えしてしまうのはまた別のお話。



——————


黒白遊戯PCのノーチェ(PLヴァルさん)の幕間。

ちらっと私のPCリチアもいるので……(言い訳)

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