幕間

もの

SW2.5「明日吹ク風ハ世界ヲ知ル」幕間


このエルフの村には、長いときを生きている方がおられる。

私たちはその方を「村長」と呼び、頼り、村長の教えを守ってきた。

村長はイチジクが好物のようで、よくコンポートを作っている。週に一回程度朝食を振舞ってくれることもあるのだが、私たちが同じように作ってみてもあの味にならないから不思議だ。

以前、聞いたことがある。

「村長様、村長様の作る料理は、なぜこんなにも美味しいのでしょう?」

「数をこなしてきたから———は、面白くない答えね」

「ええ。ですがこの村一番の長老なのですから、その答えも間違っているわけではないかと……」

「単にね、あなた達が大好きなのよ。だから、愛がこもっているの」



そして村長は、たくさんのものを持っている。

そのどれもが私たちには馴染みのないもので、特に子供たちには特別なものに見えるのだった。

「村長様! これはなあに?」

「これはね、魔晶石のかけらよ。昔の列車はこれも原動力に出来たの」

「じゃあこれは? あっ待ってね! オレ当てるよ! ……ええと……泳ぐときのゴーグル?」

「惜しい! 夜に目が効かない人たちのためのゴーグルよ。これがないと、夜は真っ暗だという人たちもいるわ」

部屋を埋め尽くす骨董品(と呼んでも良いのだろうか)の数々。六つ揃った宝石、精巧な馬のミニチュア像、不思議な言語の書かれた筒……収集された骨董品に特に法則性はなく、ただそこにある。骨董品に囲まれ座った村長が、微笑みながらそれらの持つストーリーを語る時間が、この村の者はみんな好きだった。

私は一つの本を手に取る。分厚い本だ。まるで図鑑のようだが、前半のページに比べて後半は比較的新しいようにも見える。

「村長様、そういえばこの書物に関しての話は、聞いたことがありませんでした」

「ああ、そうだったかしら。それじゃ今日は、その話をしてあげましょう」

透明な宝石があしらわれた指輪が輝く手で、その本を村長は捲った。


**


これは、ずっとずっと、ずうっと昔のお話。

『銀星の車輪号』と呼ばれた列車に乗った、女の子のお話。

彼女……アリスは魔神を使役していた、かっこいい子だったの。けれどもお料理が下手……というか壊滅的で、教えられたりしたこともあったそうよ。

アリスより先に列車にいた乗客は6人。グラスランナーの少年……ふふ、ええ、ティックね。そして彫刻家のグルヴィオ、絵描きのジュディ、笛吹きタンザリン、うわばみヒューオーズ……

そしてジャスミン。ええ、そう、"トゥアラ"ね。あ、それともう一人。シェイドも乗っていたんだったかしら。

彼もアリスより先に列車に乗っていたのよ。びっくりしたでしょう?

賑やかな車内に、アリスは何を思ったのかしら。このページには特にアリスの気持ちは記載されていないけれど……きっと緊張していたでしょうね。


アリスの後に乗ってきたのは、勇者レグルス。レグルス様の大冒険といえば、あなた達も知っているわね? それともう一人。博識だけども口の悪いゾフィア。

彼らは大酒飲みで、列車内の酒樽をすぐに空けてしまったそうよ。この本の中にも、何度かアリスの嘆きが記載されているわ。

「列車のなかって、どのくらい広かったの? 大きな樽がたくさん入るくらい?」

そうねえ……食糧庫だけでも大きな酒樽が20近くは入って、そのほかの食材も一ヶ月は持つくらいのスペースがあったようね。乗客用の場所は、大きさは同じのようね。ただ……等級によって内装が違ったみたいよ。

賑やかな仲間たちと短くない時間を過ごしたアリスは、冒険の数々をこの中に記したの。

そして下車する時に、仲間へこの本を託した。中身をレグルスが見て、世に出したのが『レグルス様の大冒険』。……どうやら、『レグルス様の大冒険』は、なにも誇張されていなかったようね。

「そうだったんだ! やっぱりレグルス様はすごいんだね!」

「じゃあ、レグルス様のおともだちのゾフィー様って……」

「このゾフィアだったんだー!! わたしたちには読めない言葉を読めて、魔動機をたくさん持っていたんだよね!」

そう、大正解。そしてアリスが下車した後、この本を持っていたのはゾフィアだったの。ゾフィアは色々なスケッチをしていたのよ。魔動機の扱いに長けていたから、この本を作業書のように使っていたみたい。

「えーっ、じゃあゾフィアが下車した後は? 誰が持っていたの?」

……それがね、ほら。白紙でしょう? 私の手にあるのだから、最後はトゥアラが持ったのでしょうけど……その間に誰が持っていたのかはわからないの。

ゾフィアが下車した後、もし、あなたたちがゾフィアから本を託されたら。どんなことを書くかしら?


***


ああだこうだと子供達が妄想を繰り広げる。酒に花びらを入れて行う占いを残すために書いておくとか、停車した街の様子を書くとか、思い思いの冒険を楽しんでいるようだ。

それを見ている村長も、優しく微笑んでいる。懐かしんでいるような顔だ。

「私は……乗客全員から、一言を貰いたいです。村長様なら、何を書きますか?」

「私は……そうねえ。何も書かずに、必死に守ると思うわ。過去にトゥアラがそうしたように」

「それは……何故?」

「これが、彼らの唯一のつながりだから。個人的なお付き合いはもちろんあるでしょうけど、全員のつながりはこの本だけだからよ」

村長は“万が一綴りがバラバラになって、一枚でも失ってしまったら大変だから”と続ける。この本は骨董品の中でも、特別な物なのだろう。

「自分の名を残すより、この本を残し続けることが私の……一族の使命。いつかまた、子孫たちが出会える事を願ってね」

「子孫……って、」

「うふふ。さあみんな、おやつにしましょう。今日はイチジクのコンポートよ」

やったあと騒ぐ子供達に囲まれ、白い髪の彼女は笑っていた。




———————————————


2022年8月に終了したCPの幕間です。

村長はトゥアラなのかトゥアラの子孫なのか、はたまた違う人なのか(?)皆さんの想像にお任せします。アリスの持っていた日記を、トゥアラが受け取ったらずっと大事に持ってるだろうなあと思って幕間にしてみました。

10月半ばには書き終わってたんだけど、人間の身に色々あって投稿が遅れに遅れました。




リレーCPということもあり、メンバーで持ち回りでGMをやったりしましたね。それぞれの特色があって面白い流れでした!


メンバー紹介

アリス(PLこと)

ティック(PLフーカ)

レグルス(PLもずく)

ゾフィア(PLさんどまん)

トゥアラ(PLもの)


2021年1月からのロングCPでした!

皆さんお疲れ様でした!同卓ありがとうございましたー!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る