終幕
SUKIYAKI
自分に才能がなかったらどうしよう?
6月13日。13歳の誕生日。
だって、そうでしょ?
子供は皆、『才能のある人間』に惹かれるものだ。十三日もそうだった。学問、芸術、スポーツ、それに魔法……様々な分野で突出的な活躍をし、己の才能を花開かせる人々は、羨望の的だった。
将来は自分も何か、『才能のある人間』になりたい。
多分漏れず、彼もそう思っていた。自分がポンコツに……お父さんみたいになったらどうしよう? あんな風にお母さんの尻に敷かれて……考えるだけで恐ろしいことだった。
「誕生日おめでとう、十三日」
「…………」
だから、大好きなお母さんにそう声をかけられても、彼は俯いたままだった。近くにいたラマぴょんが、そんな彼を見て不思議そうに顔を舐めても、やはり悲しげに目を伏せ、ピクリともしない。
「どうしたの?」
「…………」
「何かあった? お母さんにも話せないこと?」
「…………」
「…………」
「……ぼくが」
十三日はようやく重い口を開いた。
「ぼくに、何の才能もなかったらどうしよう!? 何の花も咲かなかったら、ぼくは……!」
今にも泣き出しそうな十三日を、いつの間にか背後に回っていたお母さんが、ぎゅっと彼を抱きしめた。
「あらあら。泣くほどのことじゃないでしょう?」
「だって! だってぇ! お母さぁん!」
「大丈夫よ」
ポロポロと頬を伝う涙を指で拭って、お母さんが優しくほほ笑んだ。
「才能とか能力とかじゃないの。お母さんは貴方が生まれて来てくれただけで、それだけですっごく嬉しいのよ」
「……ホント?」
「本当よ。生まれて来てくれてありがとう、十三日」
「……うん」
お母さんに髪をクシャクシャに撫でられ、それで彼は少し元気になった。涙を拭い、改めて自分の席に坐り直す。丸い窓の外には、満天の星空が浮かんでいた。
「さ、お父さんを呼んで来ましょうか……」
「ねえ」
目の前に置かれた誕生ケーキを見つめ、十三日はふと首を傾げた。
「ケーキ、切らないの?」
そう尋ねられたお母さんは、エプロンを外しながら、いたずらっぽく笑った。
「愛は切れない、の♡」
《終幕》
六六七七 てこ/ひかり @light317
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