幕間
KATANA
「またお前か」
「総理大臣はどうした?」
「洗脳しました」
まるで昨日の晩御飯はカレーライスを食べました、くらいの気軽さで、十三日が朗らかに告げた。
「簡単でしたよ。政治家さんって、金と権力の言いなりなんですね。”お国のためだ”とかなんとか言っときゃ、向こうから喜んで洗脳されに来ましたから。そこらへんの野良猫より警戒心なく……」
「お前の『能力』じゃないだろう?」
仲間が近くに潜んでいるのか。正徒会長は刀を具現化し、柄に手をかけた。
「今日は一人で来たんですか?」
「……大臣に呼ばれて来たんでな」
「七海七緒さんは、今ネオ京都にいますよ」
黒装束の少年が、揶揄うような視線を投げかけた。
「ネオ京都のネオ清水寺で、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてます。良いんですか? このままだと、大切な部下が殺されちゃいますよ?」
「下らん」
一番合戦はコキ、と一度首を鳴らし、それから絶対零度の瞳で十三日を睨め付けた。
「そんなことを言うために、わざわざ人払いした訳じゃないだろう。さっさと要件を言え」
「ぼく、昔から不思議だったんですよねえ」
椅子をくるくる回して遊びながら、十三日が口笛を吹いた。
「”動物園のライオン”と”野生のライオン”って、本当に同じライオンなのかな? って」
「何?」
「だってそうでしょう。片やガラスケースの中で毎日ゴロゴロして……何もしなくても餌をもらえて。片や過酷な自然環境の中で、他の動物たちと混じって、命がけのサバイバルをしているんですよ?」
「…………」
「そんなのが”王”を名乗っちゃ、”百獣”に失礼だと思いませんか?」
「……安い挑発だな」
とは言え一番合戦は、刀から手を離さなかった。いつでも抜刀できる。部屋の中の空気が、ピン……と張り詰めていく。少年は椅子を回すのをやめた。
「……もうじき下界で武装蜂起が起きます。もう止めるものはありません。政治的なしがらみも、こうして排除しました。一番合戦会長」
そこで言葉を切り、一度息を吸い込む。
「あなた、本当に強いんですか? まさかちょっとくらい『才能』があるからって、毎日ゴロゴロ怠けてた訳じゃないですよねえ? だとしたら”浮都”は落ちますよ。血に飢えた”野生”の獣たちの手によって。何百万……いや下手したら何千万の怒れる民衆相手に、本当に勝てるとお思」
「言いたいことはそれだけか」
その瞬間、少年は思わず顔を強張らせた。一番合戦が、その
「ならば答えよう。
その言葉、今から証明してみせよう。
それだけ言うと、一番合戦はその巨体を翻した。肩にかけていた
「小僧。この国、そう簡単に落とせると思うなよ」
ビリビリと怒気混じりの声が部屋を揺らす。少年は、何も答えられなかった。
やがて足音が遠ざかり、ゆっくりと扉が閉められた。
……
黒装束の少年はしばらく放心していたが、すぐに気を取り直し、煙のようにその場から姿を消した。
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