第36話 至福の時
大神殿の地下は駄々広かった。
ほとんど、地上の礼拝所と同じくらいの広さがあった。
でも、もうほとんど片付いていたんだ。
お祈りの時間まで割いて、この地下室の掃除をしていたらしい。
誰に言われた訳でも無く、命じる訳でも無く。
「オルランド神官、お客様です」
床に、一心不乱にモップをかけてるオルランドさんにセネガが声をかけた。
セネガの声にオルランドさんの金髪が振り向いた。
あぁ、相変わらず綺麗な顔だなぁ……
あれ……様子が変だ。
変な顔をしてるぞ。俺のことが見えてない?
しばらくオルランドさんは、ボ~っとして何の反応もしなかった。
が、もう一度セネガが声をかけるとニッコリと笑って、
「分かりました。もう良いですよ」
「はい、では失礼します」
セネガは帰ってしまった。
オルランドさんは俺が見えてるんだろうか?
心配になってきた。
オルランドさんは、ジッと俺の方を見ていた。
「リーン、変わった逃げ方をしてきましたね」
「良かった~!オルランドさん、俺のことが見えてるんだ~!」
俺は、オルランドさんに抱き着いて行った。
もちろん、すり抜けたけど。
「自分の世界に入ってると、人間モードになってしまうんです。
神官のオルランドモードにならないと、人外のものは見えませんから。
それであなたを認識することが遅れました。謝罪します」
オルランドさんにペコリと頭を下げられた。
「俺、今ならケツを掘られても良いぜ」
俺の発言にオルランドさんは、大笑いをしたんだ。
「大神殿の地下で、降格された神官が一人で卑猥な事をしてると噂されますよ」
「一人じゃないじゃん!俺居るし!」
「自分が、心眼のある者にしか、視えてないことを自覚して下さい」
俺は思い切り、口を尖らせた。
「ぶ~~」
そんな俺を見て笑うオルランドさんは、最高に綺麗だった。
「あなたの銀色の髪は、本当に見事ですね」
言って、オルランドさんが、近付いて来た。
「エリサの仕業ですね、見られてますよ。リーン。
ここまでです。さぁ、帰りなさい。そして、立派な魔法使いになりなさい。
あなたは今まで、幾つものチャンスを自分の手で壊してきました。それはもう出来ません。神殿も、デュール谷も全力であなたをバックアップする気です」
オルランドさんの手が俺に一瞬だけ触れたように感じた。
そして唇にも……
「愛していますよ。リーン」
直後に、オルランドさんが俺から出ていた銀色の糸を引っ張ったみたいだ。
俺の視界は急に、グニャリと揺れ次の瞬間には、自分の身体に戻っていた。
でも、俺はこの時知らなかったんだ。
これがオルランドさんとの最後の時間だとは……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます