第34話  デュール谷から逃げ出す俺

 もう嫌だ!

 もう嫌だ!!

 ぜって~嫌だ~!!


 銀の森に帰るんだ~!!

 オルランドさんの近くに~!!

 俺は鍛冶師の勉強しに来たのに、剣を振るためにここへ来たんじゃな~い!!


 俺は、半刻(30分)で剣の素振りを飽きてしまった。

 せめて、魔法を教えてくれ~


 俺は神殿裏の治療院の一室を寝泊まり用に、割り当てられていた。

 一刻後にそこに戻って、荷物を纏めて出た。


 目標、銀の森。


「風のお嬢、エスティーヤ。俺をオルランドさんの所まで運んでくれ!」


 <無理よ、ここは結界の中の郷。ロイルの加護深き地。はぐれ魔法使いのあなたにこの谷の結界を破る力はないわ>


「えっと……お嬢にその力がないって言いたいのか?」


 <そうよ、私はまだ中位ですもの。ここに吹く風達よりは、上だけど結界を破る力はないわ>


 小さな風の精霊のお嬢は、申し訳なさそうに俺に言ってきた。


 <あなたが、ロイルの魔法使いになれば、また別の話しよ>


「なんで?」


 <あなたは、気ままに魔法を使ってきたわ。ちゃんとした教育を受けていない。

 中途半端な知識と古代レトア語を習得しただけ。

 魔法使いになる子はね、皆7歳くらいで親元を離れて修練を始めるのよ。

 そうやって、初めて1人前の神殿所属の魔法使いになるの。

 ロイル姓になれるなんて、ほんの一握りなのよ>


 いつも大人しいお嬢が、よく喋っている。

 俺は、お嬢にそんなに無茶な要求をしたのだろうか。

 俺が神殿の裏で突っ立っていたら、男の声がした。


 <エスティーヤ、引き留めご苦労さん。>


 ん!?

 精霊だ!!

 しかもエリサさんの風の精霊じゃないか!


「お嬢……裏切ってたのか……」


 <お前が逃げ出そうとするからだろう。そうなった時のみ、俺とエリサの所に知らせが来るようになってたんだ>


 俺が左肩のお嬢を睨みつけると、お嬢は縮こまっていた。

 それを見た風の騎士が、お嬢を庇うように言ったんだ。


 <本当に、銀の森に行きたいなら俺が送ってやるよ。俺なら、間違えなくお前の行きたい所へ送ってやれるぜ>


「じゃあ、銀の森のオルランドさんのいる大神殿まで!!お願い!!」


 <承知>


 突風が吹いて俺の身体は飛ばされた。

 と思ったのは、俺だけだった。

 その場に、俺の身体は残っていたのだ。


 <あちゃ~!!失敗。失敗。エリサの力がないと、俺時々失敗するんだわ。精神体だけ飛ばすとか……>


 何か、声が聞こえてきた様だけど……気の所為かな?

 やっほ~~!!

 これでオルランドさんに会いに行けるぜ!!

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