第32話  ヴァンクロフが戻って来た~~

 リンゼイが消えて、デュール谷には俺一人が残された。

 そして、谷長が先の魔法鍛冶師である事を知るんだ。


「何度も逃げられるところがあって、羨ましいぞ」


 俺のことは、調べられてるんだ。

 俺は恥ずかしくなって、下を見た。


「俺には、選択肢など無かったからな。この家に生まれ、火の魔法に長けているというだけで、7歳になったら、有無を言わさずに学び舎に放り込まれたんだ」


「なんで、剣まで習うんですか?」


「剣を作るのだから、どうやって使うのか、知っておくのは当たり前だろう。」


 俺は剣など持ったことも無い。

 それを言うと、谷長は何故か喜んだ。


「剣の腕を上達させるためじゃない。剣の事を知るためだ。

 魔法剣は普通の剣とは違う。神に奉納する剣だ。

 火竜の息吹で剣を鍛えるんだ」


 え!?火竜の息吹!?空耳かな!?

 俺が火竜なんて、この世界にいるの!?……と言いかけた時に、谷長が先に口を開いた。


「お前は、まだ、身体が出来てないから、直ぐに鍛冶の方は無理だ。

 当分俺か、治療院のディックが剣の相手をする。

 後で、エリサの所へ行け。用があるそうだ」


「え!あの火竜の人!?」


 俺は正直、あの人が苦手なんだよ。

 恐いんだよ。

 声だけで、精霊を操ってるんだもの……

 噂によれば、凄い精霊使いなんだとか。

 昔は3匹、4匹精霊を連れていたけど、今は風と火の2匹らしい。


 俺は、おずおずと神殿の礼拝堂にいたエリサさんの所に行くと、彼女は一心不乱に祈りを捧げていた。


 困った……声がかけづらい……

 でも、そういう時に限って、俺は何もない所でズッコケるんだ。


 その音で、エリサさんは振り向いた。

 そして、大笑いするんだ。


 俺は何か腹が立って来て、


「何が、そんなに可笑しいですか?」


「男の人と男の人の同衾てどうやるの!?普通はさ、女の人の(自主規制)に男の人の(自主規制)を入れてするものでしょ!?いくら考えても分からないのよ。」


((「いきなり何を言うんだ!!この人!!」))

「オーリに聞いても笑うばかりで、教えてくれないの~」


 オーリはオルランドさんの古い愛称だ。


「若い頃に、一緒に伝道したわ」


 20代の前半にしか見えてないのに、こんなことを言う。

 そういえば、予見師が言ってたな。

 風は何処にでも吹いてるって。知っている人は、知っているって。

 彼女は一流の風使いなんだ。


 俺は咳払いをして言った。


「まさか、谷長の言ってた御用というのが、俺とオルランドさんのことですか?」


 そうしたら、エリサさんは急に真面目な顔になった。


「リンゼイの持ってた精霊を全部取り上げてやったのよ。

 その中の火の精霊が、あなたのもとに帰りたがってるの……

 あなたには、魔竜谷で火の精霊と契約をし直して欲しいと思ってたのだけど、あなたはどうしたい?」


 俺は驚いてしまった。この人は、他人の精霊に干渉が出来るのか?勿論俺は言った。


「ヴァンクロフは、俺が1番最初に契約した精霊だぜ。勿論です!!」

「そう。では、ヴァンクロフ、ライアン・ロペスに加護を与えなさい。エリサーシャ・フレイドルが見届け人よ」


 ヴァンクロフが俺の頭上に戻って来た。


「今度は本名で、加護にしたから、早々盗られないわよ」


「リンゼイの方が、魔力は上だったのですよね?」


「あら、彼には火竜は見えなかったわよ」


 エリサさんは言った。


「ねぇ、それより教えてよ~男同士の同衾の仕方!」


 何なの~この人~~

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