第29話  予見師

 オリエ姉さんとサントスで、別れてから2年近くたっていた。

 俺の出奔で、オリエ姉さんは、仕方なく銀の森へ帰って来て、前と同じ仕事をしているようだった。

 オリエ姉さんの主な仕事は、光の神殿トップの三賢者と、ロイル家の橋渡しが主な役目だそうだ。

 当然、今のおさとも顔見知りで、俺が中央神殿で会ったことを告げると、驚いていた。


「本当に、人間かと思えないような美貌ですものね……」


「でも、迷惑そうだったよ。そういうの」


 俺が言うと、オリエ姉さんは咳払いをして、


「分かってるわ、今から会うのはそのおさの守役だった予見師のジェド様。3年前に魔法鍛冶師が、復活するからと予見された人なの。

 あなたについて、見てもらいましょ」


「え!?噂で聞いたことあるぜ!!当たる確率が凄んだろ!?でも、見料が馬鹿高いとか!!神殿を通さないと見てもらえないとか……」


「全部本当よ、あなたの場合、出世払いという事で、特別に今話があったのよ」


「うぅ!!俺がここに来ること、見られてたの?」


「そうね」


 オリエ姉さんは俺に片目を閉じた。


 その予見師、凄いなぁ……

 俺が大神殿じゃなくて、こっちの神殿に来てしまうことも分かってたのか?

 オリエ姉さんが部屋の前で止まった。そしてノックする。


「ジェド師。ラインハルト・リッヒが参りました。入ります。」


 中からはおどけた感じの声で


「どうぞ~」


 という声が入ってきた。

 部屋に入って行くと、机に淡い金髪と銀色の瞳の男が座っていた。

 彼の前には拳大の水晶があって、彼はじっと水晶を覗いていた。

 おどけた声とは正反対に真面目な、顔で水晶を見ていた。


「ラインハルト・リッヒ君!?ライアン・ロペス君だね。」


「えっと……」


「本来の名前を名乗った方が精霊との相性も良いはずだよ。火の精霊を盗られてるね……リンゼイに狙われたかぁ……」


「俺の火の精霊、戻ってきますよね!?俺は魔法使いにならなくちゃならないのに、精霊を盗られるなんて!!」


 予見師はクスリと笑った。


「三年前に見えたんだ。魔法鍛冶師の復活することをね。」


「あの?俺は……?」


「うん、先に見えたのは君の方だった。でも、君は逃げ出したよね?」


 俺はドキン!!


「俺は、ロイル姓の魔法使いになんてなれませんよ。だから……」


「でも、君は銀の森に来た。理由はどうあれ、君の修行は始まってるんだよ」


 何だよ~この人~

 なんでも分かってるみたいじゃないか~


 しかも、いつの間にか俺の顔を見て、ニコニコしてるし~


「彼とのことは諦めた方が良いよ。君は基本的に、女性の方が好きなはずだよ」


 へっ!?そんな事、考えたことも無い。


「オルランド・ベーカル神官は、君には手の届かない所に行く人だからね。

 君がどんなに望んでも、彼との未来はないよ。

 今は、彼の望んだ地位にわざと配属させてるんだ」


「オルランドさんの望む地位っ何!?」


「大勢の中で埋もれて生きていたいってことかな……無理だよねぇ、あの外見に、あの性格じゃ……」


 どういう事なんだろう……??


「あの……俺とオルランドさんのこと……」


 俺は急に小声で言った。


 予見師のジェド師は、笑いながら言った。


「知ってる人は、知ってるよ。知らない人は、知らない。でも銀の森の風の精霊は、噂好きだからね。それから、風は何処にでも吹いてるもんだよ」





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