第23話  俺の手料理

 そして一年くらい、俺はセルグ師に焼き芋から台所に変わって、火の使い方を習ったんだ。

 料理もついでに仕込んでくれた。

 初めは、簡単な野菜のスープをひたすら小さな火で煮込んでいるだけだったが、

 俺が好きな鶏のクリーム煮が、食べたいと言うと、セルグ師は、頭を抱えながら教えてくれた。


「お前は、なぜそんなにグルメなんだ?13歳までは山育ちと聞いていたぞ」


「だって食事は、一日に二度、滅茶苦茶美味しいものが差し入れられてたんですよ」


 そう、俺は食べることには苦労していない。

 朝早くから、夜遅くまでの火の番が退屈だったんだ。

 それで逃げてきた。


 火の精霊、ヴァンクロフは、俺の言う事を聞くことが嫌いみたいだ。

 セルグ師にそれを言うと、ならば呪文縛りになるぞと言ってやれという。


 精霊使いと魔法使いの違いだ。

 精霊使いは、契約している精霊にお願いをして、力を貸してもらえる。

 魔法使いは、呪文で力ずくで精霊を使役するのだ。

 呪文を介さない精霊使いの方が、力が強いとされている。


「炭焼きのおじいさんの娘さんが作っていたのですよ。炭焼きのおじいさんも特定出来ています」


 げげっ!オルランドさん!!


「そんなに驚かなくても、ここは僕の家ですよ。帰って来て悪いですか?」


「違う、違う!!オルランドさんに嫌がらせで黒焦げの焼き芋を送ったのは俺じゃないですからね!」


「この前の焼き芋は美味しかったですよ。良かったですね。芋を全滅にしなくて」


 ニッコリ笑う、オルランドさん。

 ううぅっ、ルーカスが勝手に黒焦げ芋を持って帰るんだよ。

 確かに焼き芋の腕は上がって来たけどな。


「こら、ラインハルト、料理に集中せんか!!」


 セルグ師に怒られた。


「は、はい!!」


「火の使い方の練習をしていたのですね?続きをどうぞ」


 材料はルーカスが用意してくれていた。

 俺に鶏を手折るなんて、出来ないしな。肉の姿になってたよ。


 ヴァンクロフは、束縛を嫌った。

 でも基本、精霊という種族は魔法使いのために力を使うのが存在の意義なんだ。

 俺の魔力が上がって来たことで、ヴァンクロフの地位も上がって来たんだ。

 そして、ヴァンクロフと話したよ。

 俺の望むように、力を使ってくれないと呪文で縛ることになるぞっと!!

 ヴァンクリフは、それでも良いそうだ。

 人の命令は聞きたくないのだと。

 なら、まだ呪文で縛ってくれた方が良いそうだ。


 で、俺は火の呪文を一から覚えたんだよ。

 それで、焼き芋が上手くいくようになったんだな。


 基本、料理なんて分量を間違えなければ、何とかなるもんさ。

 今日は、オルランドさんもいる。

 さあ、食え!!俺の初めての鶏のクリーム煮。


「肉が生煮え、クリーム煮にダマがありますねぇ……」


 うううぅ……

 不味い……

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