第14話  ロイルの長(おさ)  

「わぁ~ケツ掘らないで!!俺のケツなんて汚くて糞が付いてます~」


 俺はビックリしてそれだけのことを早口で言った。

 俺の腕を引っ張って、廊下の角に隠れていた人物は驚いた表情で俺を見て来た。

 そして、俺を座らせて、自分も座った。


 げげげっ……

 なんて人だよ。人間なのかってレベルの美しい人だった。

 この人も、銀髪だ。

 ただし、水のように癖のない腰まで届く銀髪を背に流して、瞳も銀色だ。ドレスを着ていないってことは、男だよな!?


「ケツって何のことですか?」


「俺、前に掘られそうになって!!」


「掘られることを前提で話してますね。そんなに掘られたいのですか?」


「じゃなくて!!こんな所で俺を足止め食わせてくれるなよ!!オルランドさんに会いに来たのに!!」


「それはすいませんね~このままでは薄着なので、外套を着ている人を待ってたんですよ~」


「誰だよ、あんた」


 綺麗だけど、不審人物だ。俺は名前を聞いた。


「名乗る時は、自分から名乗りましょうね。僕はティラン・エル・ロイル

 エル・ロイル家の現当主です。あなたは?」


 名前を聞いて、また驚いた。

 銀の森でロイルの長と呼ばれる人だ。

 俺は警戒感が少し緩み、親しみさえ出て来た。


「ラインハルト・リッヒだよ。エル・ロイル家って、神の子孫だと言われてる家の直系の人!?すげぇな~」


「僕はたまたま、エル・ロイル家に生まれて、神と同じ銀の髪と瞳を持ってて、後継者にされたんです。僕には迷惑な話です」


 ロイルのおさの瞳は嘘をついてない。


「ここへも騙されて、連れて来させられました。だから銀の森へ帰るんです。でも、このままでは寒いでしょう!?だから、あなたの外套を貸してください」


 おさはこの季節にしては薄着だった。

 着いてすぐに話し合いの部屋に通され、外套を持って、連れが帰ってしまったらしい。同情するべきところはあるな。

 ンで、俺はどうにも納得できないことを質問してみた。


「銀髪だと、魔力があって当たり前なん!?」


「偏見ですね」


 おさの麗しい顔が、歪んだぞ!!


「魔法使いは血筋的なもので見られるから、そう思われるのでしょう。

 でも、エル・ロイル家に生まれても、魔力を持たない人間だっています」


「外套は返ってこないでしょう!?」


「代わりに、あなたの身元の手掛かりを教えますよ?五年前に中央神殿に保護されて、身元の特定が出来なかった子ですね!?その時には、あなたが火の精霊を持っているという情報はありませんでした。でも今なら……少し見方も変わってきます」


「え!?」


 俺は驚いた。


「火の精霊が使えるなど、一族ではかなり遡ります。リリエンハイム(国名)のロペス村辺りが有力では!?先祖にロイル家の者と結婚した者もいますし」


 この長、何者だ!?

 俺は何も言えずに、長のことを見ていた。


 長はニッコリと笑って、俺から外套を取り上げると、窓の方に一目散に走り出した。次の瞬間、物凄い突風が吹いた。


 目晦ましの術でもかけてあったのか、途端に人の気配がしてきた。


「今のはおさか!?」


「彼の持っている風の精霊は高位だ。追うのは無理だ、諦めよう」


 てな事を話してる神官さんたちに、俺は捕まった。

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