第4話  脱走した、俺

 ダン親父は、ビックリしたらしい。

 そりゃ、そうだ。

 覆いかぶさろうとした瞬間に、俺から火柱がたったのだから!!


「お……お前!?神殿の回し者か?」


 何か違った意味で親父さんが怒っているみたいだが、俺には意味が分からない。


「神殿から、来たんですよ。ターキアス神官の紹介です」


「おかしいなぁ……あいつにはたっぷりと金を払ったのに……なんで、お前みたいなのが来るんだ?」


「あの!?俺が何か!?」


 その時、俺の頭上で例の声がまた聞こえて来た。


 <お前、馬鹿なの?せっかく助けてやったのに!!早く逃げないと、ケツを掘られるぜ!>


「ケツを掘る!?」


 謎の声はダン親父には、聞こえていないようだった。

 俺のことを気味悪そうに見ていた。


「今日の所は、見逃してやる。今度変な力を使ったら、即刻ターキアスに引き取ってもらうからな!!」


 一人でぶつぶつ言ってるように見えたのが、よっぽど気味が悪かったのか、ダン親父は、部屋を出て行った。


 一人になった所で、謎の声の主(?)が姿を現した。

 ……といっても透けてるよ……

 幽霊かな……?


 <火の精霊だよ。この館にずっと棲みついていたんだ。>


「やっぱり、幽霊じゃないか!!早く成仏しろよ!!」


 <……お前には神殿の匂いがあまりしないな>


 半透明の男は、若くて、人の頭くらいの大きさであった。

 上等の服を着ていた。


「俺は神殿から来たんだよ」


 <ロイルの魔法使いの匂いがしないという意味だ。精霊を見たのは初めてか?>


「山から下りて、ずっと神殿の中にいたからな。あんたみたいなのを見るのは、初めてだ。」


 <俺の名前は、ヴァンクロフだ。契約してやろうか!?>


「契約ってなんだ?」


 ヴァンクロフは床まで落ちて来た。


 <お前、ぜってーはぐれ魔法使いだろ!何にも知らないんだな!?>


「はぐれ魔法使い!?」


 <魔法使いは皆、幼い頃に銀の森へ集められて教育されるんだ。

 そこから漏れた奴をはぐれ魔法使いと呼ぶんだ。神殿の後見がないと生きにくいこの世間で、難儀な事で……まぁ良い、俺が契約してやるよ。

 俺もこんな、男娼宿なんて嫌なんだ。名前を言いな>


 男娼宿って何だ?


「ラインハルト・リッヒ」


 頭に?マークを付けながらも俺は名前を言った。


 <違うな……それは親が付けた名前じゃないだろう?契約出来ないな>


 俺はキョトンとしてしまった。

 確かに、ラインハルトは俺を保護した神官が勝手に付けた名前だけど。


 <契約の話は、またあとで良い。取り合えず、早くここを出るぞ!

 明日には確実に、お前はケツを掘られるぞ!>


「だから、何だよ。そのケツを……って!?」



 ヴァンクロフは俺に、一晩かかってその意味を教えてくれた。

 そして、朝日が昇る前にそそくさと、神殿で紹介してもらった職場を逃げ出した。

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