第31話 この現状がその解答ってわけか

 月面施設は四つの階層で成り立っていた。

 第一層、倉庫。

 第二層、工作室。

 第三層、サーバールーム。

 第四層、酸素生産施設、となっている。

 居住区は工作室と隣接する形で設置されている。

 恐らく、作業場と住居を隣り合わせることで効率よく作業を行わせていたのだろう。

「やはりあったか」

 工作室の電源は落ち、暗闇が支配している。

 だが、イクトはソリッドスーツの暗視モードにて室内を把握していた。

 今、目の前の作業台にある組立途中の二つの車両がデータベースにひっかかる。

『うん、こっちでも確認したよ。超振動特異兵装車両MA02<キンナラ>だ。それにもう一台。強行偵察型車両MA07<アレイオン>ときた』

 どちらもフレームまるだしの組立途中で放棄されたときた。

 データではMA02<キンナラ>は物質に対する固有振動を解析、同調させることで共振を起こすことで対象だけを破壊する。

 イクトは惑星ノイに飛ばされる寸前のリコと予定していた実験を思い出す。

 あれもまた物体の固有振動を使った共振の実験だった。

 楽しい実験も形を変えれば兵器となる。

 本当に薬か毒か、使い方次第だと痛感させられる。

 もう一台はMA07<アレイオン>。

 特殊塗料に電圧をかけることでカメレオンのように車両カラーを変化させ、低視認性を高める偵察車両。情報収集・解析・記録がメインであるため索敵と通信機能が強化されている。その特性上、他のMAが単座式に対して、索敵精度向上のための操縦に索敵機器操作と複座式となり、バディポットも二機搭載される。

「他はないか……」 

 諦観気味に周囲を見渡した。

 周囲を再度見渡すも索敵にひっかからない。

 戦場掌握型指揮官車両MA06<ケイロン>の姿ここにはないようだ。

 高度な演算予測と状況処理能力に長けたバディポットを搭載することでリアルタイムの戦局を掌握し精度の高い戦術予報を僚機へ行う。

 指揮官機故に強力な火器が搭載予定だとデータベースはあった。

 作業台は七つあることから、ここがMAの製造基地であるのは確定する。

『だから、なかったのか、合点が行ったよ』

「なかった?」

 周囲に警戒の目を向けながらイクトは<ラン>に聞き返す。

『どうしてMA03やMA05にバディポットが搭載されていなかった理由だよ』

「この現状がその解答ってわけか」

『バディポットはガワよりも中身だからね。超AIはただ組めばいい、形にすればいいって代物じゃないんだ』

「ああ、学習か」

 単純に間に合わなかった。

 MAは単に車一台組み立てれば完成するものではない。

 機能を十全に発揮するにはバディポットの搭載は不可欠だ。

 ただ組み立てる作業課程と異なり、バディポットはプログラミングだけでなく、自己学習にてデータを蓄積させる時間も必要となる。

 ただデータをインストールしただけではただのパソコンと変わらない。

 感情というプログラムはデータインストールだけでは誕生しない。0か1かの解答しか出せぬのでは、それ以外でシステムフリーズを起こす。

 またドライバーの心身の健康状態を管理、維持する目的もあった。

「ここにいた奴らも、紛れもなくメタクレイドルに転移したようだな」

 イクトは落ちている腕時計型デバイスを拾い上げる。

 そのままじっと見つめていたのも束の間、飽きるように放り捨てた。

「最後まで責任持って組み上げる余裕はなかったんだろう」

 もし、もしもだ。MA全車両が完成していたら、惑星ノイを取り巻く状況は変化していたのだろうか?

 大衆の誰もがメタクレイドルに転移することなく、FOGたる<アマルマナス>に快進撃を続けるMAたちを英雄だと胸を弾ませ、明日に希望を見いだせていたのだろうか?

「至らぬ感傷だな」

 ありもしない話だとイクトは吐き捨てる。

 工作室を調べようと大した情報は得られず、そのまま次なる階層に向かう。

 居住区ならば生活痕から何かしらの情報を入手できると思ったが、真下のサーバールームのほうが実り多いと判断した。


『あ~暇だね~』

<ラン>は車内で暇を持て余していた。

 ドライバー不在の隙を突くように、跳ねる・回る・ない手でハンドル握る仕草をするなど好き放題。

 現在、イクトは次なる階層に向けて移動中。

 せっせとエレベーターのワイヤーを伝って下に移動している。

 どうしてこう人間は非効率な行為を繰り返すのか、理解に苦しむ。

 ズバーンとライフルの粒子ビームで穴を開けてからソリッドスーツの推進力でバビューンと壁を蹴って進めば良いものを。

『しっかしMA06だけないなんて、どこ行ったんだ?』

 MAの連携において司令塔となる車両である。

 どのMAよりも重要であるはずが、この施設にはない。

「まあ惑星ノイから輸送されていたみたいだし、どっかに落ちているはずさ」

 機械なのになおざりな自己解答に至っていた。

 本来なら輸送ルートにより、墜落地点を予測するのがAIとして冴えたやり方なのだが、その予測に必要なデータがないのだから当然と言える。

『警戒していた敵の襲撃もないし』

 一応、最低限の機能でサーチは定期的に行っている。

 もし第三者が搬入口から足を踏み入れれば<グラニ改>のセンサーがすぐさま捕捉する。

 反応がないことから侵入はないようだ。

『お、ようやくたどり着いたか、待ちくたびれたよ』

 データリンクにてイクトがサーバールームに到着したのを知る。

 送られてくるデータにない胸を躍らせる<ラン>はここで一つの見落としをしていた。

 この施設の搬入口は一つではないということを。

 既に一人、この倉庫に侵入し、03の区画から物資を持ち出していることを。

 索敵を最小限に留めていたこともあってか、侵入者は堂々と搬入カートで外に物資を持ち出したことを最後まで<ラン>は気づくことはなかった。


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