第30話 行ってらっしゃい!
そこは隠蔽された大型貨物の搬入口であった。
システムはダウンしていようと、<ラン>の手により隠された扉は開かれる。
開く中、『ボク、手がないのにこの手で扉を開いているよ』とすっとぼけてきたがイクトは無視しておいた。
「荷物を運び込む場所だけに広いな」
真っ暗な空間を<グラニ改>は進む。
車両前面にあるライトで金属質な広い通路を照らしながら、ゆっくり前進する。
時折、曲がり角に差し掛かれば、一旦停止。コードつきカメラを伸ばし、その先の目視を怠らない。
『生体反応は一つもないね。当たり前か』
「だが、カグチ島と違って施設内はきれいだ。データベースにアクセスできれば情報を引き出せるかもしれん」
『ならアクセスできる端末を見つけないとね』
ごもっともだとイクトは頷いた。
映画のお約束だが、この手の施設は秘密基地だけに高いセキュリティーで守られている。それもソフトハード共にだ。
対<アマルマナス>用に開発されたMA誕生の地ならば、重要機密の関係上、一筋縄ではいかぬ可能性が高い。
「ここは、倉庫か?」
開けた場所に躍り出る。
天井は高く、ライトで照らせばコンテナボックスが規則正しく積み上げられている。
倉庫内は七つのエリアに別れており、01から07とナンバリングされていた。
『ふむふむ、お~これはこれは』
コンテナ内部をスキャンした<ラン>が嬉々とした電子音声を上げている。
「中身は?」
『どれもこれも車の部品や追加オプションパーツだよ。うわ、弾薬とかミサイルまで置いてあるし安全性考えなさいよ。01とか02とかあるから、まさかと思ったけど、間違いなくMAのパーツだよ。特に01の区画、これ、<グラニ>のパーツときた』
ならばここはMAのパーツ置き場となる。
いずこかで製造したパーツを補修用として、この倉庫に運び入れたのだろう。
「この施設で当たりってことか」
イクトはサーチ結果をバイザー裏に展開させる。
倉庫はかなり広く、下手なショッピングモールも目が眩むほど。
ネジ一つ、どのコンテナにあるか、見つけだすには苦労するだろう。
「となれば、在庫を管理する端末がどこかにあるはずだ」
『ふっふ~ん、もう見つけているよ~』
競った気はないのだが<ラン>はどこか勝ったように鼻を鳴らす素振りを見せる。お前、鼻ないだろうとつっこみは面倒だから止めた。
倉庫内は運搬用カートでの移動を前提としているようで<グラニ改>でも問題なく移動できた。
そうして倉庫の端までたどり着けば、機能停止したコンソールを発見した。
『お~かなりの物資があるね。これなら余裕でALドライブ抜きのガワぐらい組み立てられるよ』
<グラニ改>より伸びるアームで<ラン>はコンソールを再起動させる。
データを閲覧する<ラン>の電子アイが輝いていた。
どうやら施設内の電源は生きているようだ。
「どうだ?」
『ダメだね。このコンソールだと倉庫にしかアクセスできない仕様ときた』
「セキュリティー担当は相当、生真面目でガチガチな性格とみた」
落胆する<ラン>だが、イクトは落胆などしない。
この手のセキュリティーは一つのコンソールさえあれば深部までアクセスできるのがお約束だが、<ラン>の解析では階層事にシステムが分けられていた。アクセスするには各階層のコンソールでなければ不可能とは、頻繁に各階層を上り下りする人々の光景が安易に浮かぶ。
『よし、施設内の見取り図はとれた。ふむ全部で四階層あるのか』
「サーバーから取ったみたいな言い方止めろ。壁にある案内図、スキャンしただけだろう」
ソフトウェアはガチガチに固めておいて、リアルメディアは緩い温度差はいったいどこから来るのか。
機密施設ならば、敵の侵入を許した際、施設の構造を把握されるのは致命的なはずだ。
「そういや、この星、戦争なんてここ一〇〇年起こってないって言ってたな」
人間が攻めてくるのを想定していない。
戦う相手がいない以上、備える必要がないからである。
代わりに攻めてきたのが外宇宙から現れた<アマルマナス>なのはある意味、必然かもしれない。
『イクト、そこの奥にエレベーターがあるよ』
「だが、人間用だ。この車じゃ通れない。はい、火器管制システムロック!」
イクトは素早い操作で<ラン>の次なる行動を阻止する。
後一秒遅ければ、主砲<バルムンク>が<ラン>の操作で火を噴いていた。
『何でさ~! どうせ誰もいないんだ! ぶち抜いたって問題ないよ!』
「俺たちは情報を得るためにきたんだ! 壊しにきたんじゃない! 情報までぶっ壊すぞ!」
もしエレベーターが見つからなければ各階層の床をぶち抜いて進む最短ルートを算出したに違いない。断言できた。
「ここから先は俺一人で行く。お前はここで<グラニ改>の見張りだ」
『え~ボクだけ留守番?』
「戦闘になったらその球体ボディ単体で戦えるか?」
『行ってらっしゃい!』
不満は手の平返しの返答となる。
<ラン>単独で<グラニ改>は操縦可能だが、バディポット単体と出すことで、イクトが狙い通りの理解をしてくれた。
戦闘に長けようと戦闘外はポンコツな面を突いたのだ。
情報を守るためだ、悪く思うなよと、心の内で謝罪するイクトは<グラニ改>の搭乗ハッチを開いて外に躍り出る。
「どうやら空気は残っているようだな」
バイザー裏に大気成分のサーチ結果が展開される。
やや薄いが、どうにか人間が生存できるレベルである。
月面基地だけに空気生成システムはあるはずだが、呼吸する人間がいない以上、機能は停止しているだろう。
『ソリッドスーツとボクとのデータリンクを切らないでくれよ。端末があればソリッドスーツを中継器としてボクがアクセスするから』
「おう、その時は任せた」
そのまま応えたイクトはエレベーターのドアを力任せにこじ開ける。
電源が通っていないため、上下する箱は機能していないからだ。
『ボクにはぶちかますなとか言っておいて、自分はこじ開けているし』
「必要事項!」
当然のこと、<ラン>から口を尖らせた文句の電子音声が飛んできた。
ただこじ開けただけで、壊していないのだから、似て非なる行動である。
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