第4話:交換条件



「ほう、それは興味深いですね」


 道中、俺はさっそくランダム転移についてミリリに相談した。


「その現象が魔法によるものなのか、もしそうなら解決したい」

「だから魔法を学びたいと、なるほど……あ、アレ!」


 ミリリが指さしたのは何の変哲もない木だ。 彼女に言われるがままその木に生えた葉っぱを一枚採取する。


「これは魔木と呼ばれる魔力を含んだ樹木なんです。 珍しいものではないですが」


 ミリリがそう言って魔木の葉を手に取ると、葉から素敵が滴り落ちてきた。


「これに魔力を注ぐと、最も習熟している属性の魔法に準じた反応を起こすんです。 面白いでしょ?」


 水属性なら水滴が、火属性なら焦げる。 では空間属性なら――


「浮いた」

「おめでとうございます。 あなたの今最も習熟している魔法は空間魔法です。 お役に立てそうで良かったです」


 転移が魔法だったと判明して、俄然やる気が出てきた。

 しかし俺は魔法の勉強も練習もしたことはないし、そもそも使い方も分からないのにどうして使えるようになったのか。


「赤ん坊が魔法を使う事例もありますし、魔法の習得条件はたくさんあるんですよ」


 曰く、俺には元から空間魔法の資質があり、何らかの行動により習熟度が上がったため、転移できるようになったんだろうということだった。


「休憩がてらさっそく講義しましょうか」





「魔法は一から十級まであり、それは習熟度、理解度、才能、レベルなど様々な要素によって基本的に誰でも習得できます」


 一級魔法を習得していれば、一級魔法師、そして二級魔法師と呼ばれるようだ。


「そして全ての魔法を習得し、さらにオリジナルの魔法を生み出した者は魔導士と呼ばれ魔法師とは一線を画した存在となるのです」


 その魔導士がどれくらい凄いのか分からないが、研究者してノーベル賞をもらうくらいだろうか。


「百花さんは一級魔法師ということになります」

「一級か、ちなみにミリリは?」

「私は十級です」

「おー、すごいな」

「いえそもそも魔法学園の特待となる条件が十級習得済みなので。 まあ学生では優秀なくらいです」


 天才と自称していたわりに謙虚なのはなぜだろう。 ただ心なしかドヤ顔なので自慢ではあるのだろう、なんだか微笑ましい。


「そっかーすげー」

「私の話は置いておいてですね! 空間属性の二級魔法はマーカー。 それは転移先の指定ができる魔法です」


 一番の問題であった、ランダム転移がさっそく解決しそうだ。


「ですからお勉強頑張りましょうね」

「はい、先生!」


 ミリリのことを残念な美少女と密かに思っていたけれど、本当に会えてよかったと心から思った。





「そっちは身分証がないのか? なら銅貨三枚だ」


 町は城壁に囲われたタイプだ。

 門番がそう言って手を差し出すが、俺はあいにく無一文。


 ここはミリリにおごってもらう約束だ。

 報酬は体で払う。


「これだけあれば五日は食べていける……くっ魔道を極めるためにこれは必要な試練なのです」


(そうか、銅貨はそんなに大金なのか)


「いやいや銅貨三枚じゃ屋台で串焼き一本買えるくらいだろ?」


(えぇ……ミリリさん、そんなレベルの貧困だったのか)


 門を抜け、金を失ったショックのせいか膝をつくミリリ。

 俺はバックを漁りチョコレートを一つ、


「失礼」


 ミリリの口をこじ開け放り込んだ。

 彼女にはこれからたくさんお世話になるので、これは早めの恩返しだ。


「ミリリ、飯は任せてくれ」


 ミリリが普段どんな食事をしているのか知らないが、バックに入れてきたカップ麺やレトルトを彼女の横で一人で食べれるほど俺のメンタルは強くない。


「甘い……神よ」


 ミリリは膝をつき手を組んで祈るようなポーズで言った。

 どんな世界でも甘味は人を狂わせるんだなあ、と俺は他人ごとのように思う。


 そして俺との契約が終わった時、彼女は元の食生活に戻れるだろうかと過ったが深く考えることはしないでおくことにした。



 俺は第二級魔法を習得するまでミリリの家に居候させてもらうことになった。


「これが……」

「ここが私の家です!」


 これが――家?

 思わずいい掛けた言葉を飲み込んで、呆然とその廃屋を見つめる。


 DIYをした跡が散見される木造廃屋は、震度二の地震が起これば倒壊してしまいそうなほど脆く見えた。


 備えあれば憂いなし、野外での寝泊まりを想定して準部したキャンプ道具一式が役に立ちそうだ。


「話は変わるけど、ここら辺って地震多い?」

「いやなら外で寝てください」


 こうして俺は夢の異世界生活への一歩を踏み出した。

 


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