第3話:欠陥魔法使い/契約
「い、」
「い?」
「命だけは……」
助けた美少女が震えながら服従のポーズを取っている。
(思ってたのと違う)
「いや殺さないし、ここは惚れるところでしょ」
「ぴゃあああああああごめんなさいごめんなさい」
「おーい、大丈夫かー?……白目向いちゃってるよ」
涙を流しながら恐怖顔を歪ませたまま美少女は失神してしまった。
異世界で初フラグ、初ヒロインかと期待したのにさすがにパニック系ヒロインは色モノすぎるだろう。
「腹減ったし、飯食って待ってるか」
***
「終わった」
期待の天才魔法師と呼び声高い未来の大魔導士、私ミリリは絶望していた。
「魔法極めるのにモンスター退治なんて必要ないでしょーが……」
魔法師は十ある魔法スキルを習得していく者。 そしてそのさらに先、オリジナルの魔法を生み出した者は魔法を極めし存在として魔導士と呼ばれるのだ。
そのために高い学費を工面して、貴族たちの嫌がらせにも耐えて頑張って来たのに――
『えー、今年度から校外学習としてB級冒険者資格の取得を卒業の必須とする。 まあ魔導士を志す優秀な皆さんならたやすいことでしょう』
天才と謳われた私にも弱点はある。
まず一つ、平民であること。
平民は貴族に比べて資金力に劣る。 人脈もない。
そして最大にして、私が絶望する理由は――極度のビビりであること。
知識も技術も学園トップレベルの成績だ。
けれど襲ってくるモンスター相手に落ち着いて魔法を当てるなんて絶対無理だ。
「あ~金さえあれば……人脈さえあれば……前衛を雇えるのに……」
***
「助けていただきありあがとうございましたー!」
ゲームでありがちな獲物の横取りになっていなくて良かった。 彼女も無事だったみたいだし、ただ、
「ちょっと距離遠くない!?」
「すすすすみません! 感謝はしてるんですけどどうしても怖いんですー!」
怖がられるのは仕方ないが話しずらくて困る。 なによりモンスターの出るフィールドで大声の会話なんてしてたら危ないのではないだろうか。
――がさがさ
「GYA」
「お、ゴブリンってやつ? すげー想像通り」
「あ、あ、あ」
草むらから現れたゴブリンは俺と少女を見比べて、彼女の方へ歩んでいく。
彼女は逃げるでも、助けを求めるでもなくその場にへたり込んだ。
「おーいさっさと逃げろー! 大丈夫かー?」
彼女は涙と鼻水で濡れた顔で言った。
「こ、腰が抜けて動けないんです」
「ご迷惑おかけしました。 本当にありがとうございました」
「いや別にいいよ」
ゴブリンを即殺した後、俺は怖がりの魔法少女ミリリの案内で町を目指していた。
「重くないですか?」
「いや別に。 人一人分って感じ」
「すいません降ります」
ミリリは腰が抜けてしまったので俺がおんぶしている状態だ。
ローブで分からなかったが彼女は着やせするタイプのようだ。
「歩けるなら降ろすけど」
「……このままお願いします」
ここから最も近い町はそれなりに発展しているらしい。 これまでネックとなっていた身分証明もミリリがなんとかしてくれるそうなのでこの出会いに感謝だ。
ミリリはその町にある有名な魔法学園の生徒らしく、今回は授業の一環でモンスターを倒しに来たが結果は失敗だろう。
「倒せなかったらどうなるの?」
「留年です……私は特待で入学しているので、そうなった時点で退学することになります」
「ああ……」
「なんですかその哀れみの籠った声は! 今回は初めてモンスターと対峙したので緊張してしまいましたけど、次は必ず倒しますから! 魔法でちょちょいです!」
そう気勢を上げるミリリの声はすでに若干震えていた。
というか先ほどの彼女の様子は緊張とは違う気がした。
「ミリリはビビり?」
「わわわわわ私は魔道を志す天才魔法使いですよ! ももももモンスターなんて怖くなんて……ないんですから……」
モンスターと対峙したことを思い出したのか、可哀そうなくらい震えているのが背中越しに伝わってくる。
「ほ、本来魔法使いの戦闘は後衛なんです! 単騎で立ち向かうなんて現実的じゃないんですよ!」
「他の人も同じ課題なんじゃないの?」
「私の学園はエリートが通うところなので、みんなお金やコネで戦士を雇っているんです。 私みたいな平民にはそんな財力もコネもねーんですわ」
「お、おう」
なんだか色々苦労してるみたいで、この話題は安易に掘り下げるのはやめておこう。
「じゃあ俺が前衛やってやろうか?」
「ふぇ?」
その課題の詳細はまだ分からないが、あの程度の雑庫に魔法を当てる手伝いなら俺にも出来る。 何よりそろそろランダムに転移ではなく、ちゃんと異世界を楽しみたいんだ。
「いいんですか? でも私には支払えるお金なんて」
「お金はいいよ。 ただ代わりに頼みがある」
彼女なら、現地の魔法使いならその問題を解決できるかもしれない。
「俺に魔法を教えて欲しい」
もしもこの異世界に行く能力が魔法に関するものならば、ミリリに協力するくらいならお釣がくるくらい俺にとってメリットのある話だ。
「そ、そんなことで良ければ喜んで! 一緒に魔道を極めましょう!」
(いやそこまでの熱さは求めてないんだけど)
こうして俺は自称天才魔法師である貧乏学生ミリリの弟子となったのだった。
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