第205話 二度目の王都へ


「それでは皆さん、お気を付けて」


「はい、行ってまいりますわ」


「私達がいるから大丈夫」


 そしていよいよ王都へ出発する日となった。


 わざわざアレフレアの街の入り口まで、冒険者ギルドのパトリスさんとライザックさんが見送りに来てくれている。


「まあ、ベルナとフェリーがいりゃあ心配はしてねえよ。それに他のやつもいるし、むしろこの馬車を狙おうとしている相手の方が心配だぜ」


 確かにライザックさんの言う通り、今回の王都には前回と同様にAランク冒険者のベルナさんとフェリーさん、Bランク冒険者のランジェさんやリリアにドルファまでいるから、戦力的な面ではまったく心配していないぞ。


「悪いがいろいろと頼むぜ! ……ああ、それとなんだ。ルハイルのやつにもよろしく言っておいてくれ」


「ええ、もちろんですよ。ライザックさんが久しぶりに会いたがっていたと伝えておきます」


「ばっ、馬鹿野郎! そういうことは伝えなくていいんだよ! あいつは昔からひとりで頑張り過ぎるところがあるからな。無理に頑張り過ぎないで適当にやれと伝えておいてくれればそれでいい」


「分かりました、確かに伝えておきますね」


 王都のギルドマスターであるルハイルさんはライザックさんの元パーティメンバーだ。今ではお互いに離れた街の冒険者ギルドマスターになってしまって、そう簡単に会いに行ける立場ではないのだろう。


 しばらく会っていないようだし、ライザックさんも久しぶりに会いたそうなのは間違いないから、合わせてそれも伝えておくとしよう。


「それでは行ってきます」


「おう、気を付けてな!」


「お気を付けて!」


 ライザックさんとパトリスさんに見送られて、フェリーさんの召喚した8本足で白い毛並みのスレイプニルであるスレプの引く馬車が王都への道を進み始めた。




「王都へ行くのも久しぶりだな」


「あの時は本当に楽しかったですものね、兄さん」


「今回はだいぶゆっくりした日程だから、ドルファもアンジュも前回よりのんびり過ごせるぞ」


 前回は店を一週間ほど閉めて急ぎで王都へ移動して慌ただしく帰ってきたが、今回はどちらにせよグレゴさんの工房に新しい店を新規で建ててもらっているところなので、のんびりした旅程となっている。


 ……まあ、王族への面会に失敗したら、もう二度とアレフレアの街に帰ってこれなくなる、なんてことがないことを祈ろう。


「相変わらずスレプの足は本当に速いな」


「ブルオオ!」


 リリアが褒めると、馬車を引っ張っているスレプが任せておけとでも言うかのように叫ぶ。


 スレプは普通の馬車の倍以上に速く走ることができる。そのため、普通の馬車なら王都までいくつかの街へ寄って7~8日かかるところをたったの3日ですんでしまう。その分馬車は物凄く揺れるので、前回と同様にアウトドアマットを敷いて振動を軽減させている。


「すっごく速いです!」


「いやあ~本当に気持ちが良いね!」


 フィアちゃんもランジェさんも窓の外に流れる景色を見て楽しそうだ。


 今回も前回と同様に護衛であるAランク冒険者のベルナさんとフェリーさんは馬車の御者の席に座り、後ろの馬車には俺、リリア、フィアちゃん、ランジェさん、ドルファ、アンジュの合計8人で王都へと向かっている。


 残念ながら、今回もフィアちゃんの母親であるレーアさんは仕事があるので不参加だ。やっぱり普通の店で働いていると数週間休むのは難しいもんな。幸い、Aランク冒険者の2人がいることもあって、フィアちゃんは参加することができたようだ。


「皆さんはゆっくりと過ごしていてくださいね」


「魔物が出ても私達で対処する」


 さすがAランク冒険者。とても頼りになる。






「テツヤ、予定していた川まで着いた」


「了解だよ」


 長い間馬車に揺られていると、無事に今日の目的地である川のほとりまでやってきた。今日は特に魔物に遭遇したりするトラブルもなかったようだ。


「ありがとう、スレプ。またご飯の時になったら呼ぶ」


「ブオオ」


 スレプはここまでお昼に休憩を挟んだだけで、それ以外はずっと馬車を引っ張ってくれていた。普通の馬なら、8人も乗った馬車をこんなに速く引っ張ることなんてできないもんな。


 スレプの召喚にはフェリーさんの魔力が必要になるらしいけれど、フェリーさんは一流の魔法使いのため、長時間スレプを召喚することが可能なようだ。


 ……それにしても、召喚獣って普段はどうしているんだろうな。某ポケットに入るボールのように、実は中が快適な空間になっていたりするのだろうか?


「う~ん、やはり長時間馬車に乗っていると身体が固くなってしまうな」


「そうだね。こればっかりはあんまり慣れそうにないよ」


 リリアの言う通り、いくらアウトドアマットがあるとはいえ、あの振動の中でずっと座っていると身体が痛くなってしまう。


「よし、それじゃあ、まずはテントを建てよう。そのあとはご飯の準備だね」


 今日はこの川のほとりで野営をするため、前回と同様にテントを建てる。


 しかし、今回のテントは前回とは一味違う! そう、アウトドアショップの能力のレベルが上がったことにより、大型のテントを購入することができるようになったのだ!

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